202.後継者
ヴァレン様に抱き抱えられて貴賓席の入り口まで運んでもらった。
このまま国王陛下に姿を見せるわけにはいかないので慌ててヴァレン様の腕から降りようとしたが、固く抱き締められて防がれた。
「王太子殿下、このような姿を国王陛下の尊き御目に…」
「それ以上言うなら本当に動けなくするよ。」
「ですが…」
「このままで大丈夫だから。」
そう言われては強く抵抗はできない。
父を見上げたが、父も「諦めろ」という顔をして首を横に振ったのでステラは恥ずかしさと恐れ多さに項垂れた。
ヴァレン様に抱えられたまま貴賓席に入ると、国王陛下と第一王妃陛下が目を丸くしてステラを見つめた。
「国王陛下、第一王妃陛下、このような姿をお見せしてしまい申し訳ございません。」
ステラがヴァレン様の腕の中で謝ると、第一王妃陛下が優しい笑顔でステラを覗き込んだ。
「大丈夫よ、ステラさん。気にしないで。お怪我はない?」
「お気遣いいただきありがとうございます、お母様。腰が抜けただけです。ご心配をお掛けして申し訳ございません…。」
「そう。それならよかった。」
第一王妃陛下がクスクスと笑ったのでステラは少し安心したが、国王陛下の御前だと気を引き締めた。
ヴァレン様は何も言わずにステラをそっと椅子の上に下ろしてくれた。
そのまま腰を支えてもらうと、どうにか座ることができた。
「国王陛下、尊き御目を汚してしまい申し訳ございません。」
ステラは国王陛下に向き直って頭を下げる。
「よい。気にするでない。それよりも先ほどの魔法はなんだ。」
国王陛下の怒っていなそうな声に安心して顔を上げると、国王陛下が怒ってはいなそうだけど真剣な表情でステラを見つめていた。
ステラは立たない腰を無理矢理立たせて姿勢を正した。
ヴァレン様がぐっと腕に力を込めて腰を支えてくれた。
「私が作った、星の魔法です。魔力で編み出した隕石を地上に衝突させることで、敵を滅ぼすことができます。」
ステラの言葉に第一王妃陛下とヴァレン様が息を飲んだのがわかった。
国王陛下は驚愕の表情を浮かべた後、なぜか盛大に笑われた。
その姿にステラが驚いていると、国王陛下が笑いながらも優しく声をかけてくれた。
「そなたは誠に魔法伯に匹敵する実力を持っているのだな。
自らの手で破滅の魔法を生み出し、魔法伯の結界を打ち破るとは大したものだ。」
「滅相もございません、国王陛下。師団長には敵いそうもございません。」
父に匹敵するなど本当に滅相もないので、ステラは腰を震わせながら深く頭を下げた。
「…面を上げよ。」
ヴァレン様と同じ、胸を震わせる声がしてステラははっとして顔を上げて、目を伏せたまま姿勢を正した。
「そなたにはこの国の王国魔術師団長となるに相応しい才能と実力がある。」
国王陛下の言葉に驚いて、思わずその金色の瞳を見上げてしまった。
国王陛下の瞳は真剣に、でも優しくステラを見つめていた。
「今後ともその力を磨き、魔法伯の後継となるがよい。」
その言葉にまた固まるが、はっとして口を開いた。
「…身に余るお言葉を賜り恐悦至極に存じます、国王陛下。国王陛下のご期待に添えるべく、鍛練に励みます。」
ステラはあまりの恐れ多さに体まで震えながら頭を下げた。
ヴァレン様がステラの腰を支えながら、優しく寄り添ってくれているのがわかった。
国王陛下が貴賓席を退出されると、父も後から静かに続いた。
第一王妃陛下も退出されようとして、ステラを振り向いてにこっと微笑んだ。
「ステラさん、よかったわね。」
第一王妃陛下はステラの夢を、師団長になるという夢をご存知だ。
第一王妃陛下に言われて、ステラはやっと国王陛下の言葉の意味をちゃんと理解した。
国王陛下が、ステラを父の後継にすると認めてくださったのだ。
涙が込み上げてきて慌てて拭うと、ヴァレン様に抱き寄せられた。
それを見て第一王妃陛下は艶やかにクスクスと笑われると、美しく一礼して貴賓席を退出した。
ヴァレン様と二人で貴賓席に残されて、ステラはしばらくヴァレン様の胸に抱かれて呆然としたまま涙を流していたが、ヴァレン様の甘い香りが胸をくすぐってはっとして顔を上げた。
「ヴァレン様…」
「ステラ、よかったね。」
ステラはヴァレン様の言葉に目を瞠った。
ヴァレン様もステラの夢を知っているけど、王国魔術師を続けることをよくは思われていないだろうと思っていたからだ。
「いいのですか…?」
「いつの日かステラの夢が叶うなら、私にとっても嬉しいことだよ。心配だけどね。」
ヴァレン様はそう言うと、濃い金色の瞳を優しく細めてステラを見つめてくれた。
ヴァレン様にもステラの夢を認めていただいたことが嬉しくて、また涙が溢れ出した。
どうにか涙を止めて、ヴァレン様に笑われながら腰を支えられてヨタヨタと訓練場の入り口に向かうと、入り口で訓練場を警備していた魔術師達に拍手を送られた。
ヴァレン様の手前、声をかけてくれる者はいなかったけど、皆が笑顔で拍手をしてくれるのが嬉しくてステラは心から微笑んだ。
◇◇◇
まだ外は明るかったが、ステラがヨレヨレなので私室に連れていってもらった。
カウチに腰を掛けさせてもらうと、横に座ったヴァレン様が自分の膝をぽんぽんと叩いた。
「疲れたでしょう。横になって。」
ステラはぼぼっと沸騰した。
たしかに一度馬車でお膝をお借りしたことはあるけど、あれは無意識だ。
そうでなければ王太子殿下の膝を借りるなど無礼極まりない。
「だ、だ、大丈夫です。ありがとうございま…ひゃっ」
ヴァレン様がステラを抱き寄せたので、腰に力が入らなくてヴァレン様の膝に倒れ込んだ。
「お、王太子殿下…」
「名前。」
「ヴァ、ヴァレン様、申し訳ございません。」
「私がこうしていてほしいんだから、気にしないで。」
ヴァレン様はそう言いながらステラの髪を優しく撫でてくれる。
魔力切れにはなっていないけどたくさん魔力を使ったので、横になって撫でられているとだんだん眠くなってきた。
うつらうつらと微睡んでいると、ヴァレン様がクスクスと笑いながら覗き込んだ。
「起きてる?」
「お、起きています!」
閉じかけていた瞳をこじ開けると、ヴァレン様の濃い金色の瞳とばっちり目が合った。
寝顔を見られたのが恥ずかしくてぼぼっと赤くなる。
「今日は頑張ったからたくさん寝て。」
ヴァレン様が目を細めて言うが、ステラは恥ずかしくて目を逸らした。
胸が高鳴って眠れそうもないので、そのままヴァレン様の引き締まったお腹に顔を埋めた。
「可愛い。そうやってずっと甘えていて。」
優しく囁かれて頬を撫でられると、また恥ずかしくて耳まで赤くなる。
そんなステラを見て再びクスクスと笑うと、ヴァレン様は笑いながら言った。
「君の魔法に見惚れていたら急に隕石が降ってくるから驚いたよ。」
「す、すみません…。初めて使ったので加減がわからなくて…私も驚きました…。」
ステラも自分が思った以上に恐ろしい物が降ってきたので戦いたのだ。
ステラの言葉にヴァレン様は目を見開いた。
「もしかして、最近ずっと考えていた魔法を今日初めて使ったの?」
「そうです。朝、ヴァレン様から星のブレスレットをいただいたので驚きました。ありがとうございました。」
ヴァレン様はまた驚いた顔をしたが、ふっと微笑んだ。
「父上が認めるだけある。私の手に収めておくだけでは惜しい才だ。」
「も、勿体無きお言葉、恐悦至極に存じます…。」
急に褒められておどおどと返すと、優しい口付けが落ちてきた。
「それに、急にステラの姿が見えなくなったから肝が冷えたよ。」
「結界魔法と転移魔術に隠密魔法をかけて、上空に張った結界に無詠唱で《転移》したんです。」
「魔法伯は君にとんでもない芸当を仕込んだんだな。」
「…恐れ入ります。」
ステラは答えながら、父がどうやってあの状況を抜け出したのか考えていた。
隠密に《転移》したのはわかったが、ステラの転移魔術を防ぐ結界は解除されていないのにどうやって転移魔術を発動させたのか気になった。
今度会ったときに聞いてみようと思っていると、また上から笑い声が降ってきた。
「また戦いのことを考えているでしょう。」
「えっ…ど、どうして……」
「顔に書いてあった。」
野蛮な顔でもしていたのかと思って頬に手を当てると、ヴァレン様は笑いながら優しく抱き締めてくれた。
夕方、ようやく腰が立つようになって、ヴァレン様に手を取られて執務室に戻った。
レオナルドに怒られるのではないかと冷や冷やしていたが、逆にステラの魔法を教えてほしいと言われて、恐縮しながらも魔方陣の構造を説明した。
途中からはヴァレン様も聞いているのがわかって緊張した。
「その歳でそれだけ緻密な魔法を編み出すとは、君の頭の中はどうなっているんだ。」
レオナルドが驚きの表情でステラを見つめる。
「ふ、普通です…。」
「ステラが普通なら私は塵だよ。」
「そ、そ、そんな…」
ヴァレン様が笑いながらからかったので、ステラはまた真っ赤になりながらおどおどと否定した。




