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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第一章 王立魔法学院編

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2.アルカニス魔法伯



「ステラ!久しぶりだな。すごいことになってるな。」


三日間護衛してくれた騎士にエスコートされて馬車から降ろしてもらい、恐縮しきりでお礼を言っていると笑い声が聞こえた。


「お父様!笑い事ではございませんわ。

もうどうしたものか…。」


大好きな父、アルカニス魔法伯が笑いすぎてずれた片眼鏡を直しながら屋敷の玄関から出てくるところだった。


「ステラが首席とはな。聞いたときは陛下の御前なのに思わず崩れ落ちたよ。」

「私も騎士から聞いて気絶しましたわ。」

「気絶か。それはトムスも驚いただろうな。

レオナルドから聞いていたんじゃないのか?」

「じいやの寿命を縮めてしまったかもしれませんわね。レオ様からそのような伝令を預かりましたが、ご冗談かと思いましたの。」

「冗談であの花は送らないだろ。」

「お父様も共謀してらっしゃったなんて。

早く知らせてくだされば気絶せずに済みましたのに...。」


いつも通りの父を見て、ステラは思わずほっと息をついた。


「ステラ、本当にあなたは…。」


父の影から痛ましいものでも見るかのような目で姿を表した栗色の髪の、ステラの姉でもおかしくない見た目の女性が、ステラの母だ。

アメジストの色をした目元が生き写しのようにそっくりだとよく言われる。


「ヴェラ、心配はわかるがまずはおめでとうだよ。」

「…そうよね。ステラ、ごめんなさいね。本当に頑張ったわね。おめでとう。」

「その通りだ、ステラおめでとう。父様は誇らしいよ。

宣誓の練習はいくらでも付き合おう。」

「ありがとうございます、お父様、お母様。」


母の心配性は今に始まったことではない。


田舎の領地で家令に厳しくしつけられ、騎士と共に鍛練に励んでいたステラとは異なり、母は子爵令嬢として王都で何不自由なく育ったお嬢様だ。


だが、花嫁修行のために侍女として出仕していた名のある家でステラを授かってしまった。


職を辞して未婚のままステラを産んだが、生まれた子が「王家の色」である白に近い白銀色の髪を持っていたことで自分の手では守りきれないと恐れ戦いたらしい。


そして、産後間もない体で幼なじみで王国魔術師である父を訪ねて庇護を求めた。


その後、父は王国魔術師団での活躍により爵位を得て母と結婚して今に至る。

…というのが、領地の噂で聞いたステラの出自だ。


でもきっとこの噂が正しいのだろう。

母はいつだってまるでステラが誰かに攫われるかもしれないと言わんばかりに心配性だ。


実の父親に会わないための配慮だろうが、リュクス公爵家を除いて、高貴な方々からは徹底的に遠ざけられて生きてきた。



「目立たず生きろ」も母の教えだ。

ステラの王族のような髪の色で、そして人よりも多い魔力で、人の目を惹くかもしれないと案じた母は王都の社交界からステラを遠ざけ、領地で目立たず、でも幸せに過ごせるよう計らってくれた。


「王家の色」とはいうけれど、ステラの本当の髪色は少しくすんでいて、遠目で見た王族の方々のような輝かしい白銀ではない。

王家の血を引いているわけもないだろうから、偶然似たような色に生まれたのだ。何も心配することはない。



それでもステラは少しでも両親を心配させないように、幼い頃から魔法も学問も武術もたくさん勉強して、練習してきた。

両親から言われた通りに、《髪の色を変える》魔法が込められている魔道具の指輪もつけているから、普段は母と同じ栗色の髪で過ごしている。


大層な護衛をつけてもらって申し訳ないけど、誰もステラのことなんか狙わないし今なら自分の身は自分で守れると思う。



「入学までは久しぶりにみんなでゆっくり過ごしましょうね。」

「そうだな、ヴェラ。ステラ、お前の好きな焼き菓子を王都で人気の店で買ってきたんだ。

みんなでお茶にしよう。」

「ふふ、ありがとうございます、お父様。

そういたしましょう。」



入学のために準備した重たいトランクを使用人に部屋まで運んでもらい、王都の屋敷を任されている執事の案内で茶室に向かう。



「でも首席だなんて、いつの間にそんなに勉強したんだ?」

「お父様の書斎にあった魔導書に書かれていた魔法は、全て身に付けましたから。

それに、実はレオ様に実技試験の練習を手伝ってもらったんです。」


王立魔法学院の受験を決めたのは三年前だ。

それからは長期休暇の度に、麗しいだけでなく成績も首席を争うほど優秀らしいレオナルド・リュクス公爵令息を相手に対人魔法の練習をして、レオナルドがいないときは一人でもできる魔法や魔術の練習に励んでいた。



「あの部屋の本は古代語で書かれたものもあるのにそれを読んだだけで…。お前は本当に…。」


(父様の娘かと言いかけたのね。)


父は、ステラと自分が血が繋がっていないことを時々忘れている。

それくらい、実の娘として愛してもらっているのだ。


「お父様の娘だから頑張ったんですよ。

お父様のように立派な魔術師になりたくて。」


父に胸を張ると、横から母が心配そうに言った。


「ステラ、貴方は本当に立派になったわね。

でも心配なのよ、貴方が貴族に近づくことが。

あなたが手の届かないところにいってしまうんじゃないかって、心配しているの。」

「私は貴族にも王族にも興味はございません。勉学と鍛練に励みますので、お母様も心配なさらないでください。」


名のある家としか聞いていないが、母は恐らく上位貴族であろうステラの実父に人生を乱されたのだ。


気持ちはわかるが、既に輪ができているであろう王都育ちの貴族達と仲良くなるために学院に行くわけではないし、入学式を終えたら地味に勉強して、そっと卒業するつもりだ。



父が片眼鏡越しにじっとこちらを見つめてくる。

父の片眼鏡は国王陛下から賜ったもので、《真実を見抜く》という「王家の魔法」の一種である精神魔法がかけられている。


「元々疑っているわけではないが《真実》だよ、ヴェラ。

色恋に現をぬかすつもりはなさそうだな。」

「お、お父様ったら…!

でも本当にご安心なさってくださいね、お母様。

私はずっとお母様の娘で、ずっとお側におりますわ。」

「いつか貴方が愛する人と結婚するまでは側にいてね、ステラ。」


領地の家令や騎士と共に勉強と鍛練一筋で生きてきた自分に愛する人なんて見つかる気もしないが、安心させたくてにっこりと微笑んでおいた。




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