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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第四章 帝国編

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199.魔法作り



翌日から、ステラはどこに行くにもヴァレン様について行った。

第一王子殿下の警護で四六時中ついて回っていた頃は一日が地獄のように長かったが、ヴァレン様に四六時中ついているとあっという間に時間が過ぎていった。



ヴァレン様が執務室にいらっしゃる間はステラは応接机の端を借りて天覧試合で父に勝つための作戦を考えた。

最初は立ったまま護衛をしていたのだが、ヴァレン様とレオナルドに何か好きなことをしていていいと言われたのでお言葉に甘えさせてもらったのだ。


ステラがうんうんと頭を悩ませながら魔方陣を書いていると、横に座っていたレオナルドに手元を覗き込まれた。


「何をしているの?」

「魔方陣を考えているの。お父様と戦うための魔法を作りたくて。」


ステラの言葉にレオナルドが目を丸くした。ヴァレン様も顔を上げて聞いた。


「ステラは魔法を編み出せるのか。」

「おと、師団長から教わったんです。」

「魔法伯は君に恐ろしいほど高度な教育を施したんだな。」

「ふ、普通です…」


ステラが恐縮しているとレオナルドが驚愕の表情を浮かべたまま言った。


「他にもステラの魔法があるの?」

「ヴァレン様の時計に施した空の魔法は、幻覚魔法を応用して私が作ったものよ。」


今度はヴァレン様が目を丸くして、ステラが差し上げた懐中時計を取り出して蓋を開けた。

文字盤にはヴァレン様の執務室の窓から見える穏やかな青空が映し出されている。


「これはステラが作った魔法だったのか。道理で美しいわけだ。」

「あ、ありがとうございます。」


改めて褒められると恥ずかしくなって、ステラは赤面した。


「王太子殿下、私も拝見させていただいてもよろしいでしょうか。」

「…いいよ。」


ヴァレン様が渋々レオナルドに時計を手渡すのを見て、ステラとレオナルドは顔を見合わせて苦笑いした。

レオナルドが文字盤をしげしげと見つめて言う。


「確かに初めて見る魔法だけど、完成されていて違和感がない。

ステラには本当に魔法の才があるんだね。」

「レオ様…。ありがとう。レオ様にそう言ってもらえると嬉しいわ。」


ステラに王立魔法学院に合格するための技術を教えてくれたレオナルドに言われると、第二の師匠に褒めてもらえたような気持ちになって思わず微笑んでしまう。



するとヴァレン様がレオナルドから時計を取り上げて、むすっとした顔で言った。


「ステラは私に褒められるよりもレオに褒められる方が嬉しそうだね。」

「め、滅相もございません。王太子殿下にお褒めいただく光栄、恐悦至極に…」

「ステラ、こちらに来て。」

「はい、ヴァレン様…。」


ステラはその後は不機嫌なヴァレン様に膝の上に抱えられて、近衛とはいえない状態で縮こまることになった。




◇◇◇




その日の夜、ステラの私室のカウチでヴァレン様に抱え込まれながら、考えた魔法の魔方陣の改善点を考えていると、ふとぎゅっと抱き締められた。


「ステラ、私に敬語を使うのをやめてほしい。」

「申し訳ございません。恐れながら、無理です。」


ステラはヴァレン様の言葉に驚いたが、今日は近衛魔術師として側にいるのできっぱりと伝えた。

ヴァレン様から不機嫌なオーラが漂ってくるのを感じる。


「レオの言うことは聞くのに私の言うことは聞かないのか。」

「レオ様にも本当は敬語で話したいくらいです。」


レオナルドに嫉妬しているヴァレン様が可愛くてときめいたが、今日のステラは近衛だ。動じずに答えた。

ヴァレン様はそんなステラを覗き込むと、不敵な笑みを浮かべた。


「決めた。今年の誕生日は何もいらない。その代わりに一日だけでいいから私に敬語を使わない日を作って。」

「なっ……」


とんでもないお願いにステラは慌てふためいた。

尊い主君に対して敬語を使わずに話すなんて、一日どころか一言も無理だ。

でも、王太子殿下にご所望されたら断れない。


恐れ多さと混乱で言葉を失ったステラを見て、ヴァレン様はすっかりご機嫌を取り戻してクスクスと笑った。


「楽しみだな。ステラが普通に話してくれる日が。」


そんな日など二度と来ない気がしたが、きたるべき一日を想像してステラはぼぼっと沸騰した。




◇◇◇




ステラはそれからもヴァレン様に四六時中ついて回り、空いた時間に父に消し炭にされない作戦を考えた。


この日も応接用の机の上で小さな防御結界を張って杖でつついていると、レオナルドに苦笑いされた。


「今度は何をしているの?」

「自分の結界を解析しているの。お父様にも絶対に打ち破られない結界を作らないと消し炭になるわ。」

「魔法伯が打ち破れない結界を編み出せたら、君はいつでも師団長になれるよ。」

「そんなことはないわ。私はお父様には勝てそうもないもの。」


現に、前回は完膚無きまでに打ちのめされたのだ。

あのような腑抜けた姿を王族の前で見せるわけにはいかないので、ステラは燃えていた。


(攻撃魔法への耐性はあるけどやっぱり転移魔術よね。あれを封じないと背後から消し炭にされるわ。

城の結界を解析して組み込まないと。)


王城には父が言った通り、その日のうちに転移魔術を防ぐ結界が追加でかけられていた。

あれを解析して、同じものを防御結界に組み込めば父の転移魔術を防ぐことができると思ったのだ。


ステラは執務室の窓の方に歩いて行き、杖先が出る程度に少しだけ開けると、窓の外にぴったりと寄り添うようにかかっている結界を杖でつついて解析した。

やはり、父のかけた結界は美しく、完璧に隙の無い物だった。

転移魔術を防ぐ結界には、天文台にかけられている物と同じ《あらゆる敵の侵入を拒む》古代魔術に加えて、転移魔術の魔方陣を展開できないように組み換える複雑な魔術がかけられていて、父の魔法技術に感嘆した。


父の結界の構造をノートに書き写していると、耳元から突然父の声がして驚愕して跳び跳ねた。


『師団長から警備部隊長へ。何者かが窓から城の結界を解析している。警備部隊は至急確認せよ。』

「ひゃっ」


「ステラ、どうしたの?」


突然叫んだステラに、ヴァレン様が驚いたような表情でこちらを見ている。

ヴァレン様にはこの声が聞こえていないということに気付いて、ステラは慌てふためいた。

耳に付けた魔道具のイヤーカフが使われているのだ。


「も、申し訳ございません。師団長。犯人は私です。ステラです。」


自分のせいで警備部隊を動かしてしまっては謝罪では済まされない。慌てて魔力を込めて話すと、父の呆れた声が聞こえてきた。


『お前は何をしているんだ。紛らわしいことをするな。』

「申し訳ございません、師団長。失礼いたしました。」


父に伝わってはいないけどステラがぺこぺこと頭を下げていると、ヴァレン様とレオナルドが吹き出した。


「ス、ステラ一人で何をしているの?」


確かに端から見たら一人で慌てふためいて、大きなひとりごとを話し出して、一人で謝っている不審者だ。

ステラは真っ赤になって否定する。


「魔術師団と連絡を取っていたんです。お騒がせして申し訳ございません。」

「そんなに可愛い犯人が現れたら皆仕事にならないだろうな。」


ヴァレン様が笑いすぎて滲んだ涙を拭いながら言う。

ステラは耳まで茹で蛸になりながら、今度はヴァレン様の尊いご公務を遮ったことをぺこぺこと頭を下げて謝罪した。



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