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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第四章 帝国編

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198.警戒と名誉



「侵入を防ぐのが一番だが、侵入されることを前提に警備を固めた方がいいだろう。」

「「「はい、師団長。」」」


父が続けて言って、部隊長達が頷いた。


「とりあえず王族の警備体制を見直す。

私はなるべく国王陛下のお側を離れないようにするから、戦闘副部隊長もなるべく王太子殿下のお側を離れるな。」

「承知しました、師団長。」


ステラが呼ばれた理由がわかって、ステラは再び気を引き締めて返事をした。


「第一王妃陛下にも常時警備部隊の魔術師を数人つけてくれ。念のため離宮の警備も強化しろ。」

「承知しました、師団長。」


ステラは自分に警備の人数が割かれなくてよかったと息をついた。

警備部隊長が頷いて、また警備体制の話に戻った。


当日の警護には警備部隊に加えて、戦闘部隊も加わることになった。


そして夜会では帝国の魔術師に悟られないように、部隊長達が杖を隠し持って本来の爵位で参加することになった。

王国魔術師団では爵位は関係ないので気にしたことがなかったが、思えば皆貴族なのだ。


話し合いの中で戦闘部隊長が公爵家の当主であることを初めて知って驚いた。

ステラは王都の社交に疎い上、ヴァレン様と出る社交では取り入ろうとする貴族に囲まれているので、穏健派の貴族のことは全く知らないのだ。

久しぶりに頭の中の貴族名鑑を引っ張り出すと、他の部隊長も名のある家の出身なことに気づいて戦いた。


そして、夜会当日はステラも儀仗を持ち込むことを許してもらった。

夜会の会場で襲撃があっても、ヴァレン様を自分の手で守れると思うとほっと息をついた。




警備体制の話が落ち着いてステラが気持ちを新たにしていると、父が再び口を開いた。


「今年の天覧試合だが、」


ステラはその言葉にはっと顔を上げる。

ヴァレン様のお側を離れられない以上、今年は出ることが叶わないのが悲しかった。


「戦闘部隊長の推薦で、私と戦闘副部隊長が行うこととなった。承知しておいてくれ。」

「「「はい、師団長。」」」


部隊長達はすぐに返事をするが、ステラは信じられない気持ちで戦闘部隊長と父を見つめた。


「君は私の手には負えないからな。他の魔術師からも異論はなかったよ。」

「恐れ入ります、部隊長…。」


戦闘部隊長の言葉に慌てて敬礼をするが、ステラはまだ信じられなかった。

そして、王族の前で父と戦うのであればこの前のようなボロ負けは許されないと思った。



ステラは混乱していたが父は特に気にする様子はなく、再び話を続けた。


「これから私は国王陛下の近衛魔術師としての任務に専念する。

こうして顔を合わせて話すのは難しくなるだろう。

連絡手段を渡すから、私と話したければこれで呼び掛けてくれ。」


そう言って父から一人一人に王国魔術師団の紋章が入ったイヤーカフが渡された。

ステラが戸惑っていると、戦闘部隊長が教えてくれた。


「戦場での連絡手段だ。耳に嵌めて魔力を込めて話せば皆に聞こえる。」

「そ、そうなんですか…。」


思えばヴァレン様や父の耳にも似たようなイヤーカフがたくさんついていた。

ステラはイヤリングしかしたことがないので、見よう見まねで着けようともたもたしていたら、後ろから父が来てさっと耳に嵌めてくれた。


「も、申し訳ございません、師団長。」

「気にするな。これで使える。」


そう言いながら父が魔力を込めると、耳にぴったりと沿って取れそうになくなった。


他の部隊長達の物にも魔力を込めて、父は頷いた。


「これで大丈夫だな。私でなくとも各個人宛や各部隊宛にまとめて連絡したいときに使ってもらって構わない。

帝国の魔術師から王国を守るために、部隊を超えて連携してくれ。以上。」

「「「承知しました、師団長。」」」


ステラは再び気を引き締めて返事をした。




◇◇◇




師団長室を出て、ステラは戦闘部隊長に駆け寄った。


「部隊長、私を推薦していただきありがとうございます。」


父と天覧試合を行うなんて未だに信じられない気持ちだったが、部隊長が父に推薦してくれたのは素直に嬉しかったのだ。


「当然だよ。私では君に勝てそうもない。」

「滅相もございません。でも嬉しいです。ありがとうございます。」


優しく微笑む部隊長に敬礼して頭を下げると、部隊長がニヤッと笑った。


「夜会では君に挨拶できるのを楽しみにしているよ。」

「ひっ…も、申し訳ございません。よ、よろしくお願いいたします。」


部隊長が高貴な公爵家の当主であることを思い出して思わず喉から声が出てしまったが、部隊長が豪快に笑ってくれたので助かった。


「では、君は近衛の任務に集中してくれ。」

「承知しました。お気遣い恐れ入ります。それでは失礼いたします。」


再び部隊長にピシッと敬礼して一礼すると、ステラは踵を返してヴァレン様の元へと急いだ。




◇◇◇




「王太子妃殿下がお見えです。」

「お通しせよ。」


執務室に戻ると、ヴァレン様とレオナルドも既に戻ってきていた。


「お側を離れることになり申し訳ございませんでした、王太子殿下。」


入ってすぐにそう言って頭を下げると、ヴァレン様が不機嫌そうにステラを見つめていた。

さすがにまだ話の内容は伝わっていないのだと悟った。


「よい。こちらにおいで。」

「ヴァレン様、お話がございます。」


いつもなら従うところだが、今日は戦闘副部隊長として、そしてヴァレン様の近衛魔術師として話さなければいけない。

ステラが姿勢を正すと、ヴァレン様は怪訝そうな顔をした。

横で執務をしていたレオナルドも顔を上げた。


「どうしたの?」


ヴァレン様がいつもの優しい声で聞いてくれた。


「先ほど召集された件でご報告があります。防音結界を張ってもよろしいでしょうか。」

「いいよ。」


聞かれて困る話というわけではないが、侍従や侍女が聞いたらあっという間に噂になって城内に広がって混乱するだろうと思ったのだ。

ステラはさっと防音結界を張って再びヴァレン様に向き合った。


「諜報部隊より、帝国の魔術師が王城への襲撃を企てているという報告を受けました。」


ステラの言葉にヴァレン様とレオナルドは顔を見合わせて、レオナルドは眉を顰めた。


「確かなのか?」

「以前から怪しい動きがありました。全部隊長が召集されたので、師団長は確実な情報だと判断されたのだと思います。」


レオナルドがステラに聞いたので答えた。


「襲撃は恐らく五月の夜会の日だと思われます。

それまでに魔術師団でもできる限りの警備体制は固めますが、これから私はなるべく王太子殿下から離れないようにお側につかせていただきます。よろしいでしょうか。」

「勿論だよ。むしろ普段からそうしてくれ。」


ヴァレン様は全く動じた様子がなく、嬉しそうににこっと微笑んだのでステラは拍子抜けした。


「あ、あともう一つご報告があります。」


気が抜けてヨレヨレしてしまったが、ヴァレン様が微笑んだまま促したのでステラは続けた。


「今年の天覧試合は戦闘部隊長の推薦で師団長と戦うことになりました。」


その言葉にレオナルドは目を瞠ったが、ヴァレン様はまた微笑んだ。

もしかしたらこのことは知っていたのかもしれないと気がついた。


「ステラなら魔法伯にも勝てるかもね。」

「…今年は消し炭にならないのが目標です。ご期待に添えず申し訳ございません。ですが、全力は尽くします。」


ヴァレン様がいたずらっぽく言ったが、とても父に勝てる気などしなかったのでステラは先に謝っておいた。

でも、頭の中では父とまともに戦うための作戦に思いを巡らせていた。


「王国魔術師団長が天覧試合で戦うのは、魔法伯が戦闘部隊長だった頃以来だと思うよ。君はいつの間にそこまで上り詰めたんだ…。」

「そ、そうなんですか…。本当に消し炭にならないように気を付けます。」


レオナルドが驚愕した顔で呟いたので、ステラは恐れ多い話に慌てふためいた。


ヴァレン様は慌てふためくステラをクスクスと笑った後、ご機嫌で執務に戻られた。




◇◇◇




その日の夜、湯殿で父と戦うための作戦を考えながらふと気が付いた。


ヴァレン様のお側を離れないということは、帝国の件が落ち着くまでは学院にも通えないということだ。

昨日学院に行っておいてよかったと思うのと同時に、あの幸せな日常が薄氷の上に成り立っていたことを実感した。


次に学院に通えるのがいつになるのかはわからないが、早くあの幸せな日常に戻れる日が来るように天に願いを込めた。



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