186.命を奪う魔法
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次々に罪人に帝国の残虐な魔法をかけては気を失わせて、最後の一人になった。
学院でヴァレン様を襲撃した手練れの魔法使いだ。
あの時の汚い笑みは消えている。
手練れの魔法使いは自分が今から何をされるのかわかっている様子で、諦めの表情を浮かべてステラに微笑みかけた。
ステラも、自分がすべきことをわかっていた。
父は感情を感じさせない冷たい表情で口を開いた。
「最後にお前達に見せるのは、最も残酷な魔法だ。
この国にも同じ魔法が邪悪な魔法として存在している。
お前達の使命は、この魔法から王族を守ることだ。」
元々静まり返っている訓練場に痛いほどの静寂が走った。
「副部隊長、この者の命を奪え。」
父の命令が響いた。
ステラは一瞬貴賓席に目を向けた後、全ての感情を押し殺して敬礼した。
「承知しました、師団長。」
ステラが罪人と向き合うと、その目がステラをじっと捉えた後、静かに頭を下げた。
完全に「王家の魔法」による支配から解放されているのだ。
「王家の魔法」による支配さえなければ、その魔法で生計を立てられるだけの実力を持った魔法使いだった。
身分が違えば恐らく王国魔術師にもなれただろう。
ステラに僅かに残されていた良心が痛む。
だが、人を一人殺せないようでは国を守ることなどできない。
そのような弱い心では主君をお守りすることもできない。
それに師団長を目指すのなら、何人もの命を奪う命令を出す覚悟も必要だ。
ステラは頭を下げる罪人をじっと見つめてから、魔力を解放して詠唱した。
「《宿敵の命を奪え》」
解放した魔力を杖にぐっと込めると、強力で邪悪な魔力が飛び出して、罪人の心臓をめがけて一直線に飛んでいく。
命を奪うのだから、その瞬間から目を背けてはならない。
ステラが罪人から目を離さず見つめていると、魔法が罪人にぶつかる直前に強力な防御結界が張られた。
防御結界に亀裂が走るが、その結界は罪人を守り抜いた。
ステラの攻撃を防ぐことのできる、これほど強力な結界を張れるのは、ただ一人だけだ。
ステラは驚いて父を見上げる。
父はその顔に僅かに微笑みを浮かべたが、すぐに表情を戻して言った。
「邪悪な魔法は強力だ。そして、強力な術者が扱う邪悪な魔法は一撃で防御結界を打ち破る力を持つ。
お前達にはこの国と王族を守るため、邪悪な魔法に打ち勝てるだけの防御を身に付けてもらう。」
「「はい、師団長。」」
ステラは呆気に取られたまま父の話を聞いたが、戦闘部隊の魔術師達の言葉で慌てて敬礼をした。
罪人達を再び王国騎士達に引き渡すと、父と部隊長とステラが戦闘部隊の魔術師相手に帝国の魔法を打ち込む稽古を行った。
最初はすぐに防御を打ち破ってしまったので魔法を解除していた。
「魔力の制御が甘い。相手は殺す気でかかってくるのだ。
訓練でなければお前はとうに死んでいる。
命を守り抜く覚悟を持って防御しろ。」
「申し訳ございません、副部隊長。」
ステラが戦闘部隊の魔術師に声をかけると、その目が変わったのがわかった。
他の者も段々魔力の扱い方がわかってきたのか、ステラが攻撃の威力を弱めれば防御できるようになってきた。
客席の騎士や魔術師も稽古を聞き漏らさないように真剣に聞いてくれていた。
時間が来て、父が解散を告げたので父と共に貴賓席に向かった。
向かう途中、周囲に人がいなくなったのを見て、父はステラに微笑みかけてくれた。
「お前は本当に覚悟ができたんだな。」
その言葉に不意に涙が出そうになってぐっと堪えた。
「はい、この命を賭して主君と王国を守り抜きます。」
ステラが立ち止まって敬礼をすると、父はぽんぽんと優しく頭を撫でてくれた。
貴賓席に入ると、国王陛下とヴァレン様が立ち上がって迎えてくれたので父と共に頭を下げた。
「面を上げよ。」
ヴァレン様の声がして顔を上げる。
胸に響くその声に、また涙が滲んでしまいそうになって感情を押し殺す。
「そなたらが守ってくれるのであれば王国は安泰だな。」
「勿体無きお言葉を賜り、恐悦至極に存じます。国王陛下。」
国王陛下の言葉にステラは目を瞠るが、父が頭を下げたので慌てて従った。
「王太子妃。」
国王陛下の声がして、ステラはそっと顔を上げる。
金色の瞳がステラをまっすぐ見つめていて、ステラも思わず見つめ返してしまう。
「そなたは類い希なる才を持っているが、そなたの魔法技術とその歳に見合わぬ覚悟はそなたの努力の賜物だ。」
ステラは再び目を瞠り、固まってしまう。
「王族として国を守るのは当然の使命だが、そなたは今後ともその魔法の才を活かして国を守るがよい。」
国王陛下は優しい微笑みをステラに向けた。
…王国魔術師でいることを、国王陛下に認めてもらえたのだ。
ステラの頬を一筋の涙が伝って、慌てて頭を下げた。
「身に余るお言葉を賜り、恐悦至極に存じます。国王陛下。
命を賭して王国と王族をお守りいたします。」
国王陛下はステラに頷くと、父と共に静かに退出していった。
ステラは頭を下げたままヴァレン様に向かい合う。
「顔を上げて、ステラ。」
安心する、大好きな声が胸に響いた。
顔を上げると、濃い金色の瞳が優しく細められてステラを見つめていた。
その瞳を見ると、必死になって殺していた罪悪感と恐怖が、そして自分に対するおぞましさが溢れ出してきた。
「よく頑張ったね。」
ヴァレン様の腕に抱き締められて、胸がぎゅーっとなる甘い香りを感じると、堪えていた涙が止まらなくなり、声を上げて泣いた。
同時に、自分が罪人に使ったおぞましい魔法をヴァレン様にも見せてしまったことが申し訳なくなり、泣きじゃくりながら伝える。
「ヴァ、レン様…。尊い御目に、邪悪な魔法をお見せしてしまい、申し訳、ございません…。」
「ステラ、気にしないで。自分の使命と向き合うステラをこの目で見られてよかった。」
どこまでも優しいヴァレン様に、ステラはやはりこの尊い御方をお守りするためならなんでもできると思った。
ようやく泣き止んで、涙でお召し物を汚してしまったことに気づいたステラが慌てふためいているとヴァレン様はクスクスと笑った。
「いつものステラに戻ってよかった。」
「も、も、申し訳ございません…。」
「大丈夫だから気にしないで。」
ヴァレン様はまた優しく微笑んでくれた。
そしてハンカチを取り出しておろおろしていたステラの手を取って、貴賓席から出て訓練場の入り口に向かわれた。
まだ訓練場に残っていた戦闘部隊の魔術師達が敬礼をするのを見て、手を取られたままのステラは恥ずかしくていたたまれなくなったが、ヴァレン様は私室までその手を離すことはなかった。
私室に戻った後は二人きりでたくさん話を聞いてもらって、辛い気持ちを忘れるようにその腕に抱かれて夜を過ごした。




