185.残虐な魔法★
★残酷な表現有り
幹部会議の翌週、戦闘部隊は父に召集されて第一訓練場に集められた。
帝国の魔法を使った訓練をするためだ。
王国騎士団の幹部や騎士達、他の部隊の幹部や魔術師達も見学に来ていたので客席も埋まっていた。
戦闘部隊の魔術師だけでなく客席からも緊張感を感じて、父が直接訓練をつけることの価値を改めて実感したステラは気を引き締めていた。
鎖の音がしてふと入り口を見ると、父が王国騎士団長と一緒に訓練場に入ってきた。
父と騎士団長の後ろには見覚えのある罪人が鎖に繋がれて猿轡を噛まされて騎士達に剣を突きつけられて連行されてきた。
皆、ステラが捕らえた罪人だ。
イグニスの姿はないことに少し安心したが、訓練場に罪人が繋がれている異様な光景が不気味に思えて、ステラはその意味は考えないように感情を押し殺した。
「本日は帝国の邪悪な魔法を使った訓練をする。
戦闘副部隊長、ここへ。」
「はい、師団長。」
父の声が静まり返った訓練場に響き渡る。
命令されたステラは父の元に駆け寄って敬礼した。
「お前も帝国の魔法を扱えるだろう。手伝え。」
「承知しました、師団長。」
ステラは嫌な予感がしていたが、表情には出さずに一礼した。
「帝国の魔法がいかにおぞましく、恐ろしいものであるかは実際に見たらわかる。
ここに連れてきた罪人達は私の好きに扱ってよいと国王陛下からご許可をいただいた。
今日はこの者達を使って帝国の魔法がどのような物か見せる。」
父の言葉に訓練場がしんと静まり返った。
帝国の魔法の残虐さを知っているステラは、自分がこれからするであろうことの恐ろしさに怖じ気づきそうになるのを必死に堪えた。
戦闘部隊長も帝国の魔法を使えるのに、父が敢えてステラを指名したということは、これを乗り越えねば戦う覚悟が、そして師団長を目指す覚悟ができたとは言えないということだろう。
「戦闘部隊の者は罪人の動きを抑えよ。」
「「承知しました、師団長。」」
父の言葉で、戦闘部隊の魔術師達は罪人の元に行き、騎士に代わって杖を突きつけた。
第一王子殿下によって支配されていた罪人はほとんどが手練れの魔法使いだ。
父の言葉の意味がわかるのか、恐怖にがたがたと身を震わせていた。
父の指示で舞踏会で第一王子殿下を襲った魔法使いが訓練場の真ん中に連れて来られた。
震えて足腰が立たなくなっているので、屈強な戦闘部隊の魔術師達に引きずられている。
父は跪いて震える罪人を冷たく見下ろすと言った。
「まずは王太子妃殿下の襲撃に使われた魔法だ。
副部隊長、お前がかけられた魔法をこの者にかけろ。」
「…はい、師団長。」
ステラがかけられたのは膨大な魔力が必要で術者が限られる邪悪な魔法だ。
皇太子殿下は無詠唱でさりげなく使っていたが、皇帝の血筋の者は「王家の魔法」の魔力のような特殊な魔力があるので扱えるらしい。
あの魔法で人がどうなるかを知っているステラは罪人の鎖を持ち、杖を突きつけている戦闘部隊の魔術師達に命じた。
「私に襲いかかろうとしてくるだろう。どんな手段を使ってでも動きを抑えろ。」
「承知しました、副部隊長。 」
魔術師が杖先に魔力を込めたのを確認して、ステラは罪人に杖を向けた。
「《汝が体を我に捧げよ》」
邪悪な魔力がステラの杖先から放たれて罪人に纏わりつくように馴染むと、罪人の体の震えが収まって、そっと顔を上げてステラを見つめた。
目が合ったその瞬間、罪人の魔力が体外に一気に放出されて、それが全てステラに向かってきた。
罪人は魔力に抗えず、立ち上がってステラを血走った目で見て何事かを叫び、こちらに駆け寄ろうとした。
鎖を引く魔術師が両手で鎖を持ち、別の魔術師が鋼の刃でできた糸を巻き付けるが、罪人は血と涙を流しながらステラに近づこうと必死にもがいている。
冷たい目で見ていた父が詠唱した。
「《汝、我の手足となれ》」
父の杖先から放たれた邪悪な魔力が罪人に纏わりつくと、罪人は叫びながらその場にひれ伏した。
父の魔力によって手足の力が奪われているのだ。
ステラに触れたくてたまらないだろうに手足の自由を奪われるのは、拷問に近い苦しみだろう。
ステラは一瞬罪人に同情しそうになったが、すぐに感情を押し殺して罪人を見つめた。
しばらくして、気が触れそうになっている罪人を見て父が再び詠唱した。
「《解除せよ》」
父の杖先から魔法が放たれると、罪人はしばらくもがき苦しんだ後、ふと意識を失った。
息はあるので、ステラが腰が抜けたのと同じように気が抜けただけだろう。
「これが王太子妃殿下にかけられた魔法だ。
魔力を支配して体が相手を欲するように仕向ける。
魔力の量に応じて効果が変わるが、王太子妃殿下は私の防御と強靭な精神力で最後まで理性を保ち、魔力を奪うように自ら王太子殿下に頼まれた。」
客席は静まり返ってステラを見つめた。
「次の者を寄越せ。」
父が命じると戦闘部隊の魔術師達が罪人を引きずって行き、次の罪人が連れて来られた。
恐怖で目を見開き、体も歯も震えきっている。
そこからステラは罪人達に邪悪な魔法をかけ続けて、罪人の気が触れる直前に父が魔法を《解除》した。
待っている罪人は恐怖で叫び散らかしたり、ひれ伏してすすり泣きを漏らしていた。
「《汝に死の苦しみを与えん》」
ステラが次に連れて来られた罪人達に杖を向けると、鎖に繋がれた体を丸めて悶え苦しみ出した。
帝国で罪人の拷問に使われる魔法だ。
王国で使われる《鋼の刃》の魔法と異なり、相手が抵抗してもしなくても、死んだ方がよっぽどましな苦しみと痛みを与える。
ステラが苦しめている罪人は王立学園を襲撃した魔法使いと騎士だ。
本来なら打首なので、生かされているのは第一王子殿下の支配されていたことに対する国王陛下のご慈悲だろう。
血を吐き、悶え苦しむ罪人達を無の感情で見下ろしていると、急に罪人が泣き叫ぶのをやめた。
父が魔法を《解除》したのだろう。
まだ気は触れていないのにどうしたのだろうと目を上げると、入り口の方から鎧の音が聞こえた。
父が臣下の礼を取って頭を下げたのでステラも頭を下げる。
「国王陛下と王太子殿下のお出ましでございます。」
侍従の声がして、客席の騎士や魔術師とと戦闘部隊の魔術師が皆立ち上がって敬礼した。
ステラは急なお出ましに驚くが、感情を押し殺して頭を下げ続けた。
ふと血塗れの罪人が目に入ったので無詠唱で清浄魔法をかけておいた。
尊い御目を血で汚すわけにはいかないからだ。
「面を上げよ。」
ヴァレン様の声がしてステラは父と共に顔を上げた。
ヴァレン様がじっとステラを見つめているのを感じるが、ステラは感情を押し殺して目を伏せた。
「そなたが面白い訓練をしていると聞いてな。」
「国王陛下、遥々お出ましいただき恐れ入ります。」
父が国王陛下に答える。
このようなおぞましい訓練を尊い御目に映していいのだろうか、と横目に父を見るが、父に特に動揺した様子はなかった。
静まり返った訓練場には罪人達のすすり泣きが響いていたが、ふとそれが止んだ。
血管がぞわぞわする感覚がしてふと目を上げると、深紅に染まったヴァレン様の瞳と目が合った。
罪人の心を静めてくれたのだろうと気づいてステラはその尊いお気遣いに感謝して静かに頭を下げた。
国王陛下とヴァレン様が貴賓席に向かわれると、訓練場で一緒に罪人を監視していた王国騎士団長も貴賓席の方に向かった。
貴賓席に入られたのを確認して、父がまたステラに命じた。
「続けろ。」
「承知しました、師団長。」
「《汝に死の苦しみを与えん》」
ステラが再び詠唱すると、邪悪な魔力が杖から放たれて罪人達に絡み付いた。
罪人達は泣き叫ぶことはなかったが、顔を苦痛に歪めてひたすら血反吐を吐き続けた。
そろそろ出血で命を奪ってしまうかもしれないと思い始めた頃、父が魔法を《解除》した。
罪人達はそのまま気を失い、それをまた戦闘部隊の魔術師が訓練場の端に引きずり出していった。
訓練場の端には気を失った罪人が何人も転がされている。
血塗れで土まみれの罪人達を見て、ステラはまた無詠唱で清浄魔法をかけた。




