184.囲うべき才
結婚式の準備で忙しくなったので成績発表は見に行けなかったが、無事に首席を守り抜いた。
それどころかほとんど全教科満点をとることができて、結果を一緒に見たヴァレン様が少し引いていた。
「全然勉強していなかったのに、ステラの頭の中はどうなっているんだ。」
「全てはヴァレン様の尊いノートのおかげです。」
「いや、私も満点なんて王国史以外取ったことないよ。」
「ヴァレン様のおかげです。答えは全てあのノートに書かれていました。」
「そう。力になれたならよかったけど…」
「ありがとうございます、ヴァレン様。」
複雑そうな表情を浮かべるヴァレン様に微笑んで、ステラは再び成績表を見た。
満点ではなかったのは三教科だ。
『王国史 二百点/百点 首席
~
魔法戦 --点/百点 首席
防御魔術 五百点/百点 首席』
魔法戦は点数がついていないのに一位なのは意味がわからないが、これで成り立っているのなら文句は言わないことにした。
王国史は完全にヴァレン様の尊いノートのおかげなので、再びお礼を言った。
「クリンプトン先生に気に入られているんだね。」
「先生は私のことをからかっているんです。」
ヴァレン様に再び成績表を見られて、今度はクスクス笑われた。
こんなふざけた点数が皆に公開されたのだと気づいて顔が赤くなってしまうが、首席を一緒に喜んでくれる人がいる有り難さに幸せを感じた。
◇◇◇
あっという間に年が明けて、一月に入ってすぐに父に召集された。
久しぶりに王国魔術師団の幹部会議があるのだ。
恐らく入団試験と結婚式の警備体制のことだろうと思いながら、久しぶりに王国魔術師団の本部に向かう。
会議室に入るとまだ誰も来ていない部屋に見覚えのある紙が張り出されていて、ステラは衝撃のあまりその場で立ち止まった。
「副部隊長、どうしたんだ?」
入り口で固まっていると、後ろから声をかけられて飛び上がった。
「ぶ、部隊長、失礼いたしました。お久しゅうございます。」
声をかけてくれた戦闘部隊長に慌てて敬礼をして道を空ける。
部隊長はステラが固まっていた理由にすぐに気づいて豪快に笑ってくれた。
「君は本当に人間離れしているな。勉強どころではないだろうに。」
「恐れ入ります、部隊長。」
いつも大聖堂で張り出されているのと同じ、王立魔法学院の全学年の成績と順位が書かれた紙が会議室に張り出されていたのだ。
ご丁寧に今学期の紙の横に前学期の成績まで張られている。
まさかこんなことになっているなんて知らなかったので、恥ずかしすぎて耳まで沸騰してしまいそうになる。
必死に感情を押し殺して平静を装うが、その後も入ってくる幹部達が成績表を見てはステラにぎょっとした顔を向けたので消えてしまいたいくらい恥ずかしかった。
最後に父が入ってきて、幹部全員で敬礼をする。
父も成績表に目を向けて、ぎょっとした顔をした。
「ステラは早めに囲っておいて正解だったな。」
「恐れ入ります、師団長。」
敬礼をしたまま何食わぬ顔で頭を下げるが、内心は恥ずかしくて火を噴きそうだった。
会議が始まるとまずは入団試験の話題になった。
「各部隊、採用人数を教えてくれ。戦闘部隊。」
「特に人数は定めず、才のある者を採用します。」
部隊長が答える。
戦闘部隊が直接採用するのは三、四年に一度程度で、大体が他の部隊で経験を積んでから配置替えされてくる。
他の部隊の採用人数も多くて三名、全体では六名ほどだった。
王国魔術師が狭き門であることを実感して、改めてヴァレン様に近衛魔術師に選んでいただいた幸運に感謝した。
「在学中でも囲うべき才のある者は…戦闘副部隊長以外には特にいないか。」
父が成績表に目を向けて言う。
忘れていた話題を急に掘り返されて、ステラは不意打ちに対応できなくてぼぼっと沸騰した。
毎年こんなことになっていたのかと思うと本当に恥ずかしい。
沸騰したステラを見て戦闘部隊長は吹き出さないように肩を震わせて耐えていたが、他の部隊長や副部隊長は成績表とステラを何度も見比べて信じられない物を見るような目でステラを見たので居たたまれなくなった。
その後は結婚式の警備体制の確認を行った。
全てをヴァレン様にお任せしていたステラは改めてその規模を知って驚愕した。
建国祭のときにも招いた他国の貴賓だけでなく、国内の貴族の当主全員と、主要な貴族が一家で招かれるので想像以上の規模になっていたのだ。
これだけの規模ならば自分も警備する側に回りたいところだったが、太ももに杖を忍ばせる以外できることはなさそうだ。
ステラは黙って話を聞いた。
「建国祭の後、王太子妃殿下を狙って帝国の皇太子殿下から襲撃があった。
帝国の邪悪な魔法によるもので、私がどうにか防いだがその御身に危険が及ぶところだった。」
父の言葉に、幹部達の視線が再びステラに向いた。
ステラは表情には出さなかったが、あの日の魔法を思い出してぞっとした。
「私が近くにいるときは王太子妃殿下のことも責任を持ってお守りするが、各部隊、帝国の魔法や邪悪な魔法への対処方法について確認しておいてくれ。」
「「「はい、師団長。」」」
幹部達の真剣な声を聞いて、護られるだけでなく、自分の身は自分でも守ろうとステラも気を引き締めた。
会議が終わって、諜報部隊長と戦闘部隊長とステラの三人が父に呼び止められた。
他の幹部が退室するのを見届けてから父が口を開く。
「帝国に動きがある。」
ステラはその言葉にすっと目を細める。
国王陛下の名で文書で抗議したはずだが、まだ手を出すつもりでいるのだろうか。
「諜報部隊長、二人に説明してくれ。」
「はい、師団長。」
諜報部隊長は幹部ではステラを除いて唯一の女性魔術師だ。
穏やかな気配なのに隙のない魔力を纏っていて、ステラは密かに憧れている。
「帝国の近衛魔術師が王国に何度も入国しています。王城の警備体制を確認しているようです。
城内へ侵入しようとする動きはありませんが、今後城内での襲撃を企てている可能性があります。」
諜報部隊長の言葉に、ステラは戦闘部隊長と顔を見合わせる。
部隊長も厳しい表情をしていた。
王城を取り囲むように父の結界が張ってあるので、外部から王城に侵入することは不可能だ。
結婚式は城外で行われるので次に外部から王城に大規模に人が入るのは五月の夜会だが、それまでも日々多くの者が出入りしている。
ステラは一つ提案してみようと思った。
「私は建国祭のときに来ていた帝国の近衛魔術師に《刻印》しています。」
ステラの言葉に諜報部隊長が目を瞠った。
建国祭の後に行われた晩餐会で《敵に刻印する》魔術を隠密に仕込んだので、晩餐会に来ていた魔術師であればステラは感知できる。
父と戦闘部隊長には既に伝えていたので動揺はみられなかった。
「王城の各門に《刻印》した敵を感知する結界を追加でかけてもよろしいでしょうか。」
ステラが父の目を見て言うと、父は頷いて言った。
「ではそうしてくれ。敵を感知したらすぐに私に知らせよ。」
「承知しました、師団長。」
父がステラの手元を見て言ったので、指輪で知らせればいいのだとわかった。
「戦闘部隊には私から帝国の魔法の訓練をつけた方がいいかもしれないな。」
「そうしていただけると心強いです。」
父の言葉に戦闘部隊長が頷いた。
ステラもぜひ参加したかったので横でぶんぶんと頷いた。
「ではまた召集しよう。話は以上だ。」
父の言葉に諜報部隊長と戦闘部隊長と一緒に敬礼して頭を下げる。
帰り道で門に結界をかけながら戦闘部隊長と今後の訓練の予定について話した。
ステラはやはり結婚式で腑抜けている場合ではないと気を引き締めた。




