180.次世代の輝き
ドラードと四年生の男子生徒は互角の争いを続けていた。
目に見える魔力はドラードの方が上だろうが、四年生の男子生徒はやはり魔力を隠しているのだとステラは確信した。
魔力の差がある相手にこれだけの魔法の撃ち合いをしたら、魔力が少ない方はそろそろ魔力切れを起こす頃だが、その様子は見られなかったからだ。
ドラードは魔力はまだあり余っていそうだが、魔力の乗せ方が甘いので相手の防御を崩す一撃には繋がっていなかった。
その時、四年生の男子生徒が魔力を解放した。
やはり解放するとドラードと同じくらいの魔力を持っている。
魔力を隠すのにも魔力を使う。
魔力を解放した四年生は、魔力を隠すのに使っていた分の魔力を攻撃魔法に乗せてドラードを攻撃した。
ドラードの防御結界にひびが入った瞬間、ドラードはぱっと杖から手を離した。
すかさずクリンプトン先生が防御魔術を繰り出してドラードを守り、試合は終了した。
ドラードが四年生の男子生徒に駆け寄ると、二人を歓声が包み込んだ。
負けてはしまったが、ステラはドラードが卒業したら戦闘部隊に欲しい人材だと考えていた。
何よりも魔力と戦いを恐れない姿勢がその理由だが、それに加えて負ける瞬間の判断のタイミングが絶妙で、そこにも才能を感じたのだ。
そして相手の四年生も、諜報部隊が欲しがりそうな人材だと思った。
互角の相手に魔力を隠し切る能力と冷静さは、駆け引きの多い諜報部隊には必須の才能だ。
二人の魔法戦を見て、次世代の王国魔術師団も明るいのではないかと思ってステラは心の底から嬉しくなった。
そのとき、クリンプトン先生がステラの方を見てニヤッと笑いながら声をかけた。
「王国魔術師団より、戦闘副部隊長から一言いただこう。」
突然の指名にステラは固まり、客席はそんな肩書きの者がどこにいるのかと大きくざわめいている。
ステラが副部隊長になったことは公表されていないので、知っているのはクリンプトン先生とドラードだけなのだろう。
王国魔術師の先輩であるクリンプトン先生には逆らえないステラが立ち上がると、アリスとクリスフォードがぎょっとした顔でステラを見たのがわかった。
客席の生徒にもどよめきが走っている。
得意の感情を押し殺した顔で練習場の真ん中に向かい、クリンプトン先生の横に立つ。
クリンプトン先生がステラに敬礼するのを見て、前に立つ二人も敬礼してくれた。
「楽にせよ。」
戦闘部隊仕込みのステラの声が響くと、三人とも気を付けの姿勢になり、客席が静まり返った。
「此度の魔法戦は王国魔術師団の次世代の可能性を感じる、大変有意義なものだった。
諸君にはぜひ王国魔術師を目指して引き続き鍛練に励んで欲しい。以上。」
ステラの声が静まった練習場に響き渡ると、再び三人に敬礼をされた。
四年生の男子生徒は戸惑った顔をしているが、ドラードはステラをじっと真剣に見つめていた。
ステラは二人の顔を見つめた後、何食わぬ顔で敬礼をするクリンプトン先生を睨み付けてから元の席に戻った。
客席に戻ると、ステラのすぐ後ろにいた四年生が皆敬礼をしてくれた。
理由はわかっていた。
四年生の学年末試験の後に行われる王国魔術師団の入団試験は、王国魔術師団の幹部が試験官を務めるからだ。
ステラが幹部に就任したことを知って、その他の立場は気にしないでおくにしても、ただの学生として扱うわけにはいかなくなったのだろう。
ステラは四年生の視線をなるべく気にしないようにしながら、元の席に座った。
クリンプトン先生の声が再び練習場に響く。
「学院代表は四年生のエルマー・ディアスとして、ディアスに王国魔術師と戦う栄誉を与える。」
客席から再び歓声が上がり、二人は握手をして客席に一礼をした。
ステラは早くクリンプトン先生に文句を言いたかったのと、再び注目を浴びるのは勘弁したかったのでアリスに目配せをして一緒にさっと客席を出た。
「あなた、幹部になっていたなんて本当に驚いたわ。」
「それどころじゃなくて公表していなかったの。驚かせてごめんなさい。」
客席を出るとアリスが目を丸くしたままステラに話しかけたので苦笑いで返した。
「…確かに、あなたはそれどころじゃなかったものね。」
舞踏会のことも知っているアリスは納得したようだが、何を思い出したのか体が震えていて笑ってしまった。
客席を出ると、クリンプトン先生とドラード達が練習場から出て来たところと鉢合わせた。
ステラはクリンプトン先生のところに行って見せつけるように敬礼した。
「いかがされましたか、副部隊長。」
「クリンプトン先生、恥ずかしいのでやめてください!」
「中々よかったぞ。」
クリンプトン先生に笑い飛ばされたのでまた睨み付けると、先生も見せつけるように敬礼してから校舎の方に去っていった。
先生の背中を睨み付けてから、ドラードに駆け寄る。
「ドラード、あなたすごかったわ!」
「戦闘副部隊長様にお褒めいただくなんて光栄だよ。負けたけどね。」
ドラードはステラの背後にいるであろうメーデンをちらっと見た。
「負けてもあなたの価値は変わらないわ。本当に一緒に戦って欲しいのよ。」
「本気でそう言ってくれているなら嬉しいな。」
ドラードは微笑んだ後、真剣な顔でステラに聞いた。
「君の感想を教えて欲しい。鍛練したいんだ。」
ステラはドラードの言葉に一瞬目を瞠るが、ドラードが燃えているのがわかったのでステラも燃えた。
「燃えているのね。最高よ。」
「ああ。悔しいんだ。ぜひ君に教えて欲しい。」
「まず、相手の魔力を読み間違えたわね。それから、魔力の乗せ方は鍛練しないといけないわ。…」
そこからはドラードに魔法戦の感想と改善点、どういう練習をしたらいいのかを細かく伝えた。
いつの間にかアリスもステラの話を真剣に聞いていて、そのうちクリスフォードや一緒に応援に来ていたクラスメイトも集まりだしたので、教室に戻ってちゃんと話すことにした。
教室で皆の前に立って魔法の扱い方について教えたり、練習方法の相談に乗るのは少し気恥ずかしかったが、皆のきらきらした目が嬉しかった。
最近は邪悪な魔法に染まっていたステラの魔法観が、皆の純粋さで浄化されるような気がした。
皆の質問に答えていたらいつの間にか外が真っ暗になってしまい、ステラは急いで王城に帰った。
情報の早いヴァレン様は遅くなった理由をご存知のようで、怒るどころか嬉しそうに微笑んでくれた。
「ステラはそうやって皆に敬われる存在であるべきだよ。自信を持ってくれて私も嬉しい。」
確かに、あれだけの人の前で普通に話すのも、教室で皆に魔法を教えるのも、一年生のときの自分では考えられなかった。
「ヴァレン様のおかげです。いろんなことに慣れさせて下さったので…。
ありがとうございます。」
方法はちょっと強引だったけど、人前に立つことに慣れさせてくれたのはヴァレン様なので、顔を赤くしながらお礼を伝える。
ヴァレン様はクスッと笑うと、ステラの頭を優しくぽんぽんと撫でてくれた。
ステラは嬉しくなってその胸に顔を寄せて、大好きな、胸がぎゅーっとなる香りを胸いっぱいに吸い込んだ。




