177.愛しい腕の中※
※軽いR15注意
ステラが父に抱えられたまま天文台から出てくると、ヴァレン様が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「魔法伯、ステラは大丈夫なのか。」
「かけられていた魔法が魔力と精神に負担をかけるものでしたので、気が抜けているだけです。」
改めて言われると自分の腑抜けさが恥ずかしくて居たたまれなくなる。
「私が部屋まで運ぶ。」
「王太子殿下…。ではお願いしてもよろしいでしょうか。」
父は一瞬迷ったような表情をしたが、ヴァレン様の真剣な顔を見てステラを手渡そうとした。
これで王太子殿下に抱えてもらうのは何度目だろうとステラは今度こそ青ざめた。
「師団長、私は宿直室で休んでから戻ります。そちらまで…」
「ステラ。私から離れるなと言っただろう。」
「…はい。」
父に宿直室まで運んでもらおうと思ったが、ヴァレン様にそう言われたら何も言えない。
「では、よろしくお願いいたします。」
父からヴァレン様に手渡されていよいよ居たたまれなくなった。
「申し訳ございません、王太子殿下…師団長…。」
二人にぺこぺこと頭を下げるとヴァレン様の瞳が金色に戻って、二人が目を合わせた。
そしてなぜか盛大に笑われた。
何が何だかわからないが、仲直りしてくれたようでよかったと思いながらヴァレン様に抱えてもらった。
◇◇◇
誰かに見られたらどうしようと思っていたが、もう夜も更けていたので王城内は静まり返っていた。
近衛騎士といつもの侍従と侍女達にはもう何度も見られているので諦めて、ヴァレン様に抱かれたまま私室に向かう。
「ヴァレン様、誠に申し訳ございません…。」
「いいんだよ。むしろずっと腕に囲っておきたい。」
「お、恐れ入ります…。」
まだ怒りは残っていそうだが、落ち着いているヴァレン様のご機嫌を損ねないように素直に従った。
私室に着くとそっとベッドに下ろしてもらった。
「運んでいただき、ありがとうございました。ヴァレン様。」
再び頭を下げると、ヴァレン様は横たわるステラにぎゅっと抱きついた。
「無事にこの腕に戻ってきて、本当によかった。」
「ご心配をおかけしてすみません。」
今日はステラもどうなることかと思ったのでヴァレン様の気持ちがよくわかった。
「君をあんな目に遇わせておいて打首に出来ないのがもどかしい。」
ヴァレン様が瞳を歪めて言うので、ステラはそっと白銀の髪を撫でた。
その尊いお心にステラのせいで不浄な念を抱いて欲しくなかった。
「終わったことなのでいいんです。私もまたヴァレン様の腕に戻ってこられて嬉しいです……んっ……」
急な口付けに驚きながらも、ステラもヴァレン様に忘れさせて欲しい気分だったので受け入れた。
「ヴァレン、さま……私に、触れていいのは、あなただけです。」
今日心の底から思ったのだ。
理性が皇太子殿下に触れられることを全力で拒否してくれたから、無事に戻って来られた。
息も絶え絶えに伝えると、ヴァレン様は目を見開いたまま動きを止めた。
そして次の瞬間、ステラに覆い被さった。
「ヴァレン様…?」
「ごめん、ステラ。止められない。」
「あっ……ぅ………はぁっ……」
体に力が入らないのでされるがままドレスを脱がされて、あっという間にその唇と手の動きに夢中になる。
あの魔法のせいで疼いていた体がヴァレン様で満たされると、幸せで意識が飛んでしまいそうだった。
ヴァレン様の腕の中で何度も幸せを感じて、皇太子殿下のことなどきれいさっぱり頭の中からなくなった。
夜の闇に体も心も溶かされて、いつの間にか眠ってしまっていた。
◇◇◇
翌朝、すっかり回復したステラはヴァレン様と共に国王陛下の執務室に向かっていた。
昨夜の件について、やはりヴァレン様は許せなかったようなので国王陛下に相談することになったのだ。
「王太子同妃両殿下がお見えです。」
「お待ちしておりました。」
父が扉を開いてくれたのでステラは敬礼をしかけたが、国王陛下の前なのでそのまま中に入って頭を下げた。
「面を上げよ。」
国王陛下の声がして顔を上げる。
金色の瞳がステラを心配そうに見つめていた。
「王太子妃、障りはないか。」
「すっかり回復いたしました。ご心配をおかけして申し訳ございませんでした。」
父から既に全て聞いているのだろう。
ステラが微笑むと、国王陛下も優しく微笑み返してくださった。
「魔法伯をお貸しいただきありがとうございました。おかげさまで大事にならずにすみました。」
ヴァレン様が国王陛下に頭を下げたのでステラもそれに倣った。
「気にするでない。魔法伯から報告は受けている。」
国王陛下の言葉でまた顔を上げると、ヴァレン様が怒気を含む声で言った。
「父上、此度の件はいくら相手が帝国の皇太子とは言え、看過できません。」
ステラはそこまで大事にしてほしくなかったが、威圧感を発するヴァレン様に口を出す勇気などなかったので俯いた。
「私も対応を考えていた。
魔法伯や近衛も見ておったゆえ証拠は揃っている。
ヴァレンはどうしたいのだ。」
「二度と私の妃に手出しせぬように出来るのであれば、なんなりといたします。」
ステラはヴァレン様の顔を見上げてしまう。
なんなりと、とは戦争になることも厭わないとのことだろう。
自分が戦う覚悟はできているが、自分のせいで無関係の命が失われるのは耐えられない。
ステラは怖じ気づいている場合じゃないので声を出した。
「…国王陛下、恐れながら申し上げてもよろしいでしょうか。」
国王陛下とヴァレン様の目がステラに向けられた。
「申してみよ。」
「私の中では終わったことにございます。大事にしたくありません。
なるべく平和な手段でご解決いただけますと幸いに存じます。」
「さようか。」
ステラの言葉に国王陛下は静かに微笑んだが、ヴァレン様は怒気と威圧感を放ったまま言った。
「国王陛下、帝国に付け入る隙を与えてはなりません。徹底的に抗議して、必要な措置はとるべきです。」
国王陛下はヴァレン様をじっと見つめた後、静かに言った。
「では文書で抗議することとしよう。」
ヴァレン様は納得いっていないのか頷かなかったが、ステラは黙って頭を下げた。
「ヴァレン、そなたの言いたいことはわかる。
だが王太子妃の言う通り、既に終わったことだ。
無事だったのだから今回は文書に留める。
再び起こるようならそなたの好きにするがよい。」
「…承知いたしました、国王陛下。」
ヴァレン様も頭を下げたのでステラはほっと息をついた。
でも、自分のせいで戦争が起こりかけたのかと思うと恐ろしくてぞっとした。
自分の身をもっと万全に守らないとそのうち本当に戦争になってしまうかもしれないと思うと、今すぐ訓練に行きたくてうずうずした。




