175.理性★
本日二話目です。
★第三者が絡む性描写有り
「私の元においで。王太子よりももっとたくさん可愛がってあげる。」
「……っ…」
皇太子殿下に再び耳元で囁かれると、ステラの理性とは反対に勝手に体が疼き出した。
強い快感に思わず声が漏れそうになって、俯いて必死に抑える。
これ以上、皇太子殿下に触れられたらどこまで理性が持つかわからない。
ステラは気力を振り絞って最後のターンを終えた。
胸元のブローチから感じる魔力を中心に、ステラの魔力は皇太子殿下を求めてその手を離すなと訴えている。
でも、ステラは必死にヴァレン様を思い出してその腕から無理矢理逃れた。
「お付き合い、いただき…ありがとうございました…。」
体が皇太子殿下を求めて疼いて、勝手に息が上がってしまう。
敵に弱みを見せるな、と表情だけは蕩けないようにぐっと力をいれる。
「君は本当に面白いな。ぜひ我が国に招待しよう。」
また手を引かれて耳元で囁かれると腰が砕けそうになる。
でも、ヴァレン様がステラの異変に気付いて皇太子殿下に殺気を放っているのを感じてステラは必死に理性を保った。
「有り難き…光栄に、存じます。皇太子殿下。」
どうにか足を引いて頭を下げると、真っ先に父の元に向かう。
父は慌てた様子はないが、険しい顔をしてステラをじっと見つめていた。
ステラがどんな状態なのかも、父にしてほしいことも全てわかっているのだろう。
何も言わずに杖にぐっと魔力を込められると、ステラは父によって一時的に魔力を押さえ込まれた。
「王家の魔法」と違って魔力を奪われたわけではなく、外に放出できなくなっただけだ。
体の外に放出できなくなった分、ステラの理性が邪悪な魔法に奪われかけて皇太子殿下を欲してしまう。
でもこれでヴァレン様に触れられても、ヴァレン様がこの邪悪な魔法の影響を受けることはない。
ステラは父の魔法が効いていることを確認してから、どうにか気力を振り絞ってヴァレン様の元に戻って頭を下げる。
「ヴァ、レン様…私、帰りたい、です…。」
ヴァレン様は何も言わずにぎゅっと体を抱き寄せてくれた。
胸がぎゅーっとなる甘い香りがステラの理性を繋いでくれた。
そしてヴァレン様が再び皇太子殿下に殺意を向ける。
「皇太子殿下、ご招待いただきありがとうございました。私の大事な妃が久しぶりのダンスで疲れたようですので、私共はこれにて失礼いたします。」
「王太子殿下、王太子妃殿下、お成りいただきありがとうございました。またお会いしましょう。」
皇太子殿下の声に魔力が反応して全身に電流が走る。
また声が出そうになって必死に抑えながら、ヴァレン様に手を引かれて馬車に向かった。
◇◇◇
ヴァレン様は今にも戦争を起こすのではないかというほどの殺気を放ちながらステラを馬車に押し込んだ。
その瞳は深紅に染まっているが、ステラを覗き込む目は優しかった。
やっぱりステラの運命の人はこの御方だ。
ステラに触れていいのも、溶かしていいのもこの御方だけだ。
理性が戻ってきている間に、どうにかヴァレン様に伝える。
「ヴァレン様、私の、魔力を…奪ってください。」
「ステラ、何をされたんだ。」
「お願いします。早く…っ。」
「ステラ…。」
ステラはヴァレン様にすがり付くように頭を下げた。
ずっと感じている血管のざわめきとは別に血管がぞわぞわする感覚があり、ふっと自分から魔力が消えた。
皇太子殿下を求めていた疼きが消え、瞳の熱と血管のざわめきも消えた。
「ヴァレン様…。もう大丈夫です。ありがとうございます。」
「何があったんだ。何をされた?」
ヴァレン様は深紅の瞳で殺気を放ちながらステラに問う。
「このブローチには邪悪な魔法がかけられています。…触れてはなりません。」
ヴァレン様が瞳を怒りに染めてブローチに触れようとしたので、ステラはぱしっとその手を払った。
不敬だが、そんなことは言っていられない。
「危険です。魔力を奪っていただいていれば私は大丈夫ですので、これには触れないでください。」
いつになく真剣なステラにヴァレン様は瞳を歪めたが、もうブローチに触れようとはされなかったので安心した。
「魔力を支配されて、皇太子殿下を欲するように仕向けられました。
ですが、父の防御魔術と…恐らく『王家の巫女』の力が、ヴァレン様が授けて下さった魔力が私を守ってくれました。」
ステラが言うと、また殺気が放たれた。
「あの者は……決して許さぬ。」
ヴァレン様も魔力に支配されているのだろう。
魔力を込めることはできないが、どうか自分を見失わないでと願いを込めてその背中を撫でる。
「ヴァレン様、私は大丈夫です。どうかお心をお静めください。」
その時、馬車が止まって、父が馬車の中に入ってきた。
外を見ると、王都の街中に戻ってきていた。
民衆が馬車を見て騒いでいる声が聞こえてきた。
「王太子殿下、ご無礼を失礼いたします。
王太子妃殿下、大丈夫ですか?」
父が気遣わしげにステラを見る。
父がステラの正面に座ると、馬車が再びゆっくりと動き出した。
「師団長の魔術が私の理性を護ってくれました。今は王太子殿下に魔力を奪っていただいているので大丈夫です。」
「無事でよかった。よく耐えたな。」
「…お父様。ありがとうございます。」
父がステラの手を取っていつも通りの笑顔を向けてくれたので、ステラも安心して微笑み返す。
「魔法伯、ステラには何の魔法がかけられたのだ。なぜ防げなかった。」
ヴァレン様が厳しく父を問い詰める。
「使用できる術者が限られる邪悪な魔法でございます。
命を奪うような魔法ではございませんので、手出しをするべきではないと判断いたしました。
王太子妃殿下にはご負担をおかけしてしまい、申し訳ございません。」
父は淡々と答える。
ステラもヴァレン様を見つめて言った。
「王太子殿下、魔法伯の判断は間違っておりません。
命を奪ったり体を傷つけるような魔法であれば私が自分で施している防御魔術に反応したはずですが、今回の魔法は魔法伯の防御魔術にしか反応しませんでした。
魔法伯が私を守ってくれたのです。
どうかお心をお静めください。」
仮に父が魔法を防ごうとしてあの場で皇太子殿下に攻撃魔法を繰り出していたら、国と国の問題に、下手したら戦争になるだろう。
父は、事前に施した防御魔術でステラを守り切れると確信したから手出ししなかったのだろうと思った。
顔を歪めるヴァレン様を見て、きっと頭ではわかっていらっしゃるけど、魔力に支配されて怒りが勝っているのだろうと察した。
「…師団長、これはどうしましょうか。」
ステラが胸元のブローチを指すと、父はじっとそれを見つめた。
「城に帰ってから外した方がいいだろう。外すことで万が一呪いが周囲に回ったら危険だ。」
「承知しました、師団長。」
ステラもその可能性を危惧していたので素直に頷いた。
ヴァレン様は王城に着くまで一言も喋らなかったが、その手はぎゅっとステラの手を握ってくれていた。
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