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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第三章 結婚編

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172.忠誠心



「面を上げよ。」


国王陛下の声がするが、顔を上げる勇気などない。

床に顔をつけたまま言う。


「私の命を持って償います。どうか家族の命はお助けください。」

「王太子妃、顔を上げよ。」


怒っていなさそうな声がしてステラはそっと顔を上げて国王陛下を見る。

変わらずステラに厳しい目を向けていたが、威圧感は消えていた。


「そなたが悪いわけではないことはよくわかった。怯えさせてすまなかった。」

「と、とんでもございません、国王陛下…」


ステラは驚いて腰が抜けそうになり、腑抜けるなと自分を叱咤した。

ヴァレン様に手を取られてそっと立ち上がる。



「そなたが持つ美貌と魔法の才に加えて、その素直な忠誠心が王族を惹き付けるのだろうな。

誠に魔法伯の教育が行き届いておる。」

「…恐れ入ります。国王陛下。」


ステラは国王陛下が呟いた言葉に戦き、驚愕した。

背後の父が頭を下げたのがわかって、ステラも目眩のする頭を下げた。


「…身に余るお言葉、恐悦至極に存じます、国王陛下。」


どうにか声を絞り出して答える。

意識がどこかに飛んでいってしまいそうなのを必死に繋ぎ止めている。


「父上にもお分かりいただけて光栄に存じます。」


ヴァレン様がステラの腰を支えるようにぐっと抱き寄せて国王陛下に言った。




「今朝の件も帝国の皇太子が王太子妃を狙ったのか。」

「さようでございます。皇太子の近衛が私の妃に接触して、宝石と共にこれを残していきました。」


ヴァレン様が懐から帝国の皇太子殿下が残した手紙を差し出して国王陛下に渡した。

手紙を読んだ国王陛下の目がまた険しくなる。


「明日は私も共に参ります。つきましては、魔法伯を護衛としてお貸しいただきたくお願いに参りました。」


ヴァレン様が頭を下げるのに合わせて、ステラも頭を下げた。


「よかろう。魔法伯、王太子と王太子妃を守れ。」

「承知いたしました、国王陛下。命に代えてもお守りいたします。」


国王陛下が父に命じると、父が今度は落ち着いた声で答えて、深く頭を下げた。




「王太子妃。」


国王陛下が優しい声でステラを呼ぶので顔を上げた。

ヴァレン様よりも少し薄い金色の瞳が真剣に、でも優しくステラを見つめていた。


「そなたの命は王国にとって大切な物だ。軽々しく差し出すでないぞ。」


ステラはその言葉に目を瞠る。

一瞬固まるが、すぐに頭を下げて言った。


「この命は王国と主君のためにございます。国王陛下の仰せのままにいたします。」


国王陛下がふっと笑ったのがわかって、ステラはまたそっと顔を上げた。


「…ヴァレンやアルセナが気に入るのがよくわかった。

ヴァレン、この者をその手から逃すでないぞ。」

「はい、国王陛下。」


ヴァレン様が頭を下げたのでステラもまた慌てて頭を下げたが、ついに意識はどこかへ旅立った。





どうやって退室したのかも覚えていないまま、気がついたらヴァレン様と二人で私室に帰っていた。


「ステラ。」


私室の扉が閉まると、ヴァレン様がステラをぎゅっと抱き締めたので、はっとして意識を取り戻した。


「ヴァレン様…。」


今日一日で自分の身に起きた出来事のあまりの恐れ多さに腰が抜けそうで足腰が震えている。



「父上もおっしゃっていたけど、頼むから命を差し出すような真似はしないでくれ。」

「も、申し訳ございませ…ひゃっ」

「っ、ステラ…。」


ヴァレン様の言葉で国王陛下の前で跪いたときの恐怖を思い出して腰が抜けた。

ヴァレン様が笑いながら抱き止めてくれる。


「私の腰も抜けるところだったよ。」

「も、も、申し訳ございません…。」


今度は国王陛下に言われた言葉を思い出して、恐れ多さにぶるぶると震えるステラをヴァレン様は呆れたように見ている。



「君がいないと私は生きていけない。君の命の重さは私と同じだとわかってくれ。」

「お、恐れ入ります、ヴァレン様…。」


絶対にそんなことはないけど、ステラもヴァレン様がいないと生きていけないのでヴァレン様が言いたいことはよくわかった。



ヴァレン様を安心させたくて、支えられていた腰を無理矢理立たせて言った。


「ヴァレン様と私の命を守るため、腑抜けることなく鍛練に励みます。」

「…だから、そういうことじゃないんだけどな。」


ステラが臣下の礼をとって頭を下げると、ヴァレン様はまた呆れたように笑った。





◇◇◇





翌日、ヴァレン様は朝からこの上なく不機嫌だった。

夜まで予定はなかったが、察しの悪いステラもさすがに察して、出掛けることなく執務室でぼーっと立っていた。


「ステラ、座ったら?」

「…任務中なので。」


レオナルドが目の前の椅子を勧めてくれる。

近衛魔術師として護衛をしているので断ると、ヴァレン様の機嫌が何故か一段と悪化したのがわかった。


「ステラ、ここへ。」

「はい、ヴァレン様。」


ヴァレン様の側に寄って頭を下げると、そのまま膝の上に抱え込まれた。


「ヴァ、ヴァレン様?!」


レオナルドの前でとんでもないことをするのでステラは慌てふためくが、ヴァレン様は動じることなくがっしりとステラを抱き締めた。


「王国魔術師なんてやめさせてずっとこうして囲い込んでいたい。

君は私の妃としてただ隣にいてくれればそれでいい。」


レオナルドはステラを抱え込むヴァレン様を見て、呆れたようにため息をついて退室した。




ステラはどうすればいいのかわからなくて、おろおろしながらヴァレン様に抱え込まれるままになっている。


「ステラ、私の側を離れないでくれ。」

「私はずっとお側におります、ヴァレン様。」

「それは近衛としてだろう。妃として私の側にいてくれ。」

「…はい、ヴァレン様。」


その違いはよくわかっていないが、何か下手なことを言って王国魔術師をやめさせられても困るので、ステラは言われるがまま頷いた。



「ここへ持って参れ。」


ヴァレン様が外に向かって言うと、侍従がベルベットでできた箱を盆に掲げて持ってきた。

ステラは膝の上から逃れようとしたが動けないので、少しでも侍従の目に入らないように俯いた。


「ステラ、受け取って。」

「は、はい…。」


恭しく持って来られた物をこんな状態で受け取っていいわけがなかったが、命令されたので箱を両手でそっと受け取った。



侍従が臣下の礼をとって頭を下げて退出すると、ヴァレン様が不機嫌そうに言った。


「それ、ステラにあげる。」

「わ、私にですか?」

「そう。間に合わせだけど。」


またむすっとしながら言われるが、突然下賜していただいてステラはいよいよ慌てふためいた。


無理矢理膝から飛び降りて箱を掲げ持つ。


「王太子殿下よりご下賜をいただき、身に余る光栄、恐悦至極に存じます。」


ステラが箱を掲げたまま頭を下げると、ヴァレン様が吹き出した。


「っ、ステラ。いいんだよ。君はもう私の妃なのだし下賜ではなく贈り物だ。」

「そ、そ、そんな…」


恐れ多すぎて箱を持つ手が震えている。

ヴァレン様は震えるステラを見てまた吹き出しかけて、肩を震わせて堪えている。


「開けてごらん。」


なぜかわからないけどご機嫌が戻ったようなのでほっとして、震えが収まった手で箱を開けようとした。


しかし、目映い輝きが見えた気がして箱をすぐに閉じた。


「ヴァレン様、いただけません。私には不相お」

「私の妃として相応しいだろう?開けて。」


どう考えても自分には不相応な輝きだったが、そう言われたら何も言えない。

命令されると従うしかないステラは、再び恐る恐る箱を開ける。



ベルベットの箱の中で、金の鎖にダイヤモンドとルビーがこれでもかと散りばめられたネックレスがきらきらと輝きを放っていた。



ステラは箱を開けたまま思考も体も停止する。

箱を持つ手だけは勝手に震え始めた。



「君に宝石を贈っていいのは私だけだ。」



ヴァレン様がすっかりご機嫌な顔でステラに微笑んだ。


「わ、私がこんな…」

「君に相応しい輝きだよ。かわいい私のステラ。」


嬉しそうに頬を撫でられたので、何も言えなくなって耳まで真っ赤になってしまう。


「とりあえず今日に間に合わせたくて急がせたから、ちゃんとした物はまた別の機会に贈るよ。」

「ひっ…」


間に合わせの概念もちゃんとした物の概念も違いすぎて、ステラは恐れ戦く。


「い、一生大切にします。恐れ多くてこれ以上いただけません。本当にありがとうございます。」

「喜んでもらえたならよかった。」


これ以上の輝きを贈られたら自分は恐れ多さで消し炭になってしまう。

ステラがヴァレン様の目を見て伝えて頭を下げると、ヴァレン様は目を細めて嬉しそうに微笑んだ。




再び膝の上に抱えられると、ヴァレン様はご機嫌で資料を読み始めた。


レオナルドもそのうち帰ってきて、ステラを抱えたままご機嫌で執務に取り組むヴァレン様を冷たい目で見た。


ステラは箱を抱えたまま、しばらくヴァレン様の膝の上で固まり続けた。



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