166.帝国の魔法※
※軽いR15注意
ホールを出て別室に移動しながら、ヴァレン様に囁いた。
「王太子殿下、帝国の魔術師が殿下を密かに攻撃しようとしていました。いかがいたしましょうか。」
「ステラが防いだのだろう。明らかな攻撃でない限り同じようにしてくれ。」
「承知いたしました。」
ヴァレン様に動揺した様子がないので、これまでもあったのだろう。
後で父にも報告しようと思いながら、また自分の魔力をヴァレン様にも纏わせた。
侍従に案内されたのは以前に賜剣式で来たことがある、祭壇のある部屋だった。
既に近衛騎士と警備部隊の魔術師が壁沿いに控えていて、祭壇には椅子が二脚置かれていた。
ヴァレン様は椅子に座られたが、ステラは見覚えのあった警備部隊の魔術師の元に向かった。
ヴァレン様と同じ学年で、ステラが一度魔法戦の相手をしたことがあるラウル・ベルニエだ。
ラウルはステラが近づいてくるのを見て、僅かに青ざめて臣下の礼をとって頭を下げた。
「楽にせよ。王国魔術師として伝える。
帝国の魔術師に警戒せよ。彼らは邪悪な魔法を扱っている。
私が殿下のことをお守りするからこの場では手を出すな。さもなくばお前がやられる。」
「承知いたしました、戦闘副部隊長。」
時間がないので手短に伝えるとラウルは敬礼を返してくれたのでほっとした。
ステラは人よりも多い魔力があるし父と戦闘部隊長に鍛えられたから対応できるが、あの魔法を防ぐには相当魔力を消費する。
ラウルに恨みがあるわけではなく、経験の浅い魔術師が下手に手を出して貴重な戦力を削がれては困るので忠告しておきたかったのだ。
ステラがヴァレン様の元に戻り、横に腰掛けると真剣な顔で言われた。
「君は自分自身も守ってくれ。皇太子殿下は君を狙っている。」
「お気遣いいただきありがとうございます。ヴァレン様の身にもこの身にも触れさせませんのでご安心ください。」
ステラが微笑むとヴァレン様はステラの頬を優しく撫でてくれた。
間もなく賓客が続々と案内されてやってきた。
この前の挨拶と違って政治や経済に絡んだ話もされたので、対応はヴァレン様に任せてステラは横で微笑みながら護衛に徹した。
帝国以外の他国の魔術師はこちらを攻撃するつもりはなさそうだが、時折ステラを試すようにヴァレン様に魔力を向けられることがあったのでその都度ヴァレン様に纏わせた自分の魔力で打ち払った。
「オルキデ帝国の皇太子殿下のお成り。」
侍従の声がしてステラは儀仗を握る手に力を込める。
立ち上がって出迎えると、皇太子殿下が恭しく頭を下げた。
魔術師達も後ろについてきているが、やはり頭は下げずにステラをじっと見ていた。
「素晴らしい宴にお招きいただきありがとうございました。大変楽しい時を過ごせました。」
「お楽しみいただけたようで何よりです。」
ヴァレン様は微笑みながらも敵意を隠す様子はなく、冷たく答えた。
皇太子殿下は気にする様子もなく、今度はステラに微笑みかけた。
「王太子妃殿下、ぜひともいつか我が国にお越しいただきたい。
我が国自慢の料理をご堪能いただきたく存じます。」
「温かいお言葉を賜り恐悦至極に存じます。いつの日か王太子殿下と一緒に伺わせてください。」
ステラは一生行きたくないと思いながらも微笑み返した。
「その美貌に魔法の才に尊きお心をお持ちの王太子妃殿下はまさに神が贈られたのですね、王太子殿下。」
「ええ、私の元に神が与えてくださったのです。」
「私にも福音が届くよう願っておりますが、待てぬ性格でございますゆえ、自分で掴みに行くことにいたします。」
ステラはその言葉にぞっと血の気が引き、ヴァレン様はステラの腰を引き寄せた。
「さようでございますか。皇太子殿下にいち早く福音が訪れますように願っております。」
言葉やその微笑みとは裏腹にヴァレン様は皇太子殿下に殺気を放っていた。
それに反応して帝国の魔術師からも殺気が放たれるが、皇太子殿下は気にした様子もなくステラに向かって微笑んだ。
「王太子妃殿下、またお会いしましょう。」
「ええ、王太子殿下と共に皇太子殿下に再びお会いできる日を楽しみにしております。」
ステラも微笑んだが、内心は二度と会わない呪いをかけたい気分だった。
皇太子殿下が再び頭を下げたが、ヴァレン様はもう頭を下げることはなかった。
皇太子殿下が退出されると、魔術師達も退出していった。
扉が閉まると、ステラは即座に祭壇を下りる。
魔術師達が立っていたところに邪悪な魔力が残っていたのだ。
「《囲め》
《敵を包囲せよ》」
邪悪な魔力を感じる範囲をとりあえずの結界で囲み、父からもらった指輪に魔力を短く込めた。
指輪はステラの呼び掛けに応えるようにすぐにほんのり温かくなった。
そして魔力に儀仗を向けたままヴァレン様を振り返る。
「王太子殿下、こちらは危険ですのでそのままお掛けになっていてください。
師団長を呼びましたので到着まで暫しお待ちください。」
「ああ。ステラも気をつけて。」
「お気遣いいただきありがとうございます。」
ステラがさっと頭を下げるとヴァレン様は表情を変えずに頷いた。
しばらくして、扉が再びノックされた。
「アルカニス魔法伯がお越しです。」
「お通しせよ。」
侍従の声がしたのでステラが答えると、父が入室して臣下の礼をとり、頭を下げた。
「お呼びでしょうか、王太子妃殿下。」
「師団長、確認していただきたいものがございます。お越しください。」
ステラが敬礼すると父はすっと目を細めてステラが張った結界に目を向けた。
「帝国の魔法だな。」
ステラは一目で見抜いた父に驚きつつ、続けて聞いた。
「どういった魔法なのでしょうか。」
「呪いの前段階で、呪う相手に刻印する魔法だ。」
ステラはその言葉を聞いて、ヴァレン様にかけた防御魔術が展開されていることをさっと確認した。
「結界で閉じ込めたのは正解だ。段々空間に広がって、気付かぬ間に魔力に触れた者を遠隔で呪えるようになる。」
ステラはそれを聞いてぞっとしてヴァレン様を振り返った。
「ステラが守ってくれているし、私のところまで来ていないから大丈夫だよ。」
ヴァレン様は全く動揺された様子はなく、いつも通りの穏やかな声で答えた。
父がステラの結界の中に魔力を込めると、邪悪な魔力は綺麗さっぱりなくなり、結界も霧散した。
「《呪い返し》をしておいた。次からはお前もできるな?」
「はい、師団長。ありがとうございます。」
「私を呼んでくれてよかったよ。
また訓練をつける。詳細はその時に話そう。」
「恐れ入ります。ご足労いただきありがとうございました、師団長。」
ステラがピシッと敬礼すると、父は微笑んでヴァレン様を振り返り、臣下の礼をとって頭を下げて退出した。
ステラは扉が閉まると今度はヴァレン様に駆け寄った。
おかしな魔力の痕跡がないか体の隅々までじっくり確認しているとクスッと笑われた。
「ステラ、そんなに私を見つめてまだ足りなかったんだね。」
「ち、ちがっ……」
否定しようとして、騎士と魔術師もいることを思い出してぼぼっと沸騰する。
ヴァレン様は絶対にわかっていて言ったのだろう。
クスクス笑うと立ち上がってステラの腰を抱いた。
「そんなに欲しいのなら、部屋に戻って続きをしようか。」
「だ、だ、大丈夫です。」
皆にも聞かれていて耳まで真っ赤になったが、続きは結構だが部屋に帰りたいのは事実だった。
大人しくヴァレン様に腰を抱かれて部屋に戻ると、ステラを湯殿に連行しようとする侍女を視線で制して、またベッドに連れ込んだ。
今さら頭と胸の宝石が気になって嫌がるステラの全てを手早く剥ぎ取ると、一回どころじゃなくヴァレン様が満足するまで溶かされた。
すっかり夜も更けた頃にやっとその腕から解放された。
起きているのか寝ているのかもわからないまま侍女に磨かれると、気付かぬ間にベッドに入って再びヴァレン様の腕の中に収まり、熟睡していた。




