163.あなたの物※
※軽いR15注意
「謁見の間」を出ると、ヴァレン様に腰を抱かれたまま私室の方向に連れて行かれた。
まだそんな時間ではないので、ステラは驚いて立ち止まった。
「ヴァレン様、ご公務が…」
「ステラ、部屋で話そう。」
「…承知しました。」
ステラを見ようとしないが腰だけはがっちり抱えるヴァレン様に、何かまずいことでもしてしまったのかと青ざめながら従った。
◇◇◇
ヴァレン様はステラの私室の扉を自ら開けてステラを押し込むと、防音結界を張って扉に魔法で鍵をかけた。
「ヴァレン様、私、何かお気に触るようなことをしてしまいましたか…?」
なぜかわからないけど怒った様子のヴァレン様に、膝をつく準備をしながら聞く。
「ステラ。」
ステラの言葉に振り返ったヴァレン様の瞳は、深紅に染まっていた。
慌ててその背中に手を回して、魔力を込めて優しく撫でる。
「ヴァレン様、申し訳ございません。お心をお静めください。」
「今すぐそなたの魔力も体も奪ってこの部屋に閉じ込めたい。」
背中を撫でていた手を掴まれて、ステラをまっすぐ見つめて言われた。
深紅の瞳はなぜか辛そうに歪められている。
「ヴァレン様、いかがなさったのですか?
そのようなことをなされずとも、私はお側におります。」
「そなたは何もわかっておらぬ!」
ヴァレン様は魔力のせいで感情を抑えられないのか、珍しく声を荒らげたので驚いて一瞬固まってしまう。
ステラも何度も「王家の巫女」の魔力に飲み込まれているのでヴァレン様の気持ちはよくわかった。
でも、その魔力に染まって自分を見失って欲しくなくて、ヴァレン様の体をぎゅっと抱き締めてまた背中に強く自分の魔力を込めた。
「ヴァレン様、私はヴァレン様の物です。添い遂げるまでお隣におります。」
怒っているわけではないのに、なぜか言葉にも魔力が込もってしまう。
ステラの中の「王家の巫女」の力が、苦しむ主君を救いたいと勝手に騒ぎだしているのを感じて、自分の中の激情を抑えた。
「…ステラ。側にいてくれ。どこにも行かないで。」
しばらく撫でていると、いつもの声に戻ったヴァレン様がステラから体をそっと離した。
濃い金色の瞳がステラに懇願するように切なく歪められている。
「どこにも行きませんよ。いかがなさいましたか?」
しばらく王城内以外はどこにも行く予定はないのにどうされたのだろうと思ってお顔を覗き込んだ。
「やはり君は気付かなかったんだね。帝国の皇太子殿下が君に目を付けたことを。」
「ヴァレン様、お言葉ですがそんなわけがありません。」
ヴァレン様はステラを真剣に見つめて言うが、ステラのことを心配しすぎるあまり考えすぎているのだろうと思って否定した。
「あの方は君主以外とはお話にならない。
私も数回顔を合わせているが、今日初めて話したんだ。
なのにわざわざステラに話しかけた。一目見て君に目を付けたんだよ。」
ステラはヴァレン様の言葉に絶句して固まった。
たしかに近寄りがたい雰囲気は出ていたが、身分で差別するような方だとは思わなかったからだ。
それでヴァレン様があのような発言をされたのかと納得するが、信じられない気持ちでいっぱいだった。
「国を奪おうとするくらいなのだから、君を奪おうとしてもおかしくない。」
固まるステラにヴァレン様が続けて言うと、ぎゅっと強く抱き締めた。
「この部屋に閉じ込めておきたい。そうすれば誰の目にも触れず、私の物でいられる。」
「ヴァレン様…。私は自分を守る力もありますので大丈夫です。
ずっとあなたの物でいさせてください。」
ステラもその背中を抱き締め返すと、ヴァレン様の力が少し抜けるのがわかった。
「ひゃっ…も、申し訳ございません。」
ステラも安心して手の力を緩めると、なぜかそのまま手足に力が入らなくなってヴァレン様に抱き止められる。
「私の物なんだから私の好きにしていいよね?」
急にご機嫌が戻ったような声に驚いてそのお顔を見上げる。
ヴァレン様の瞳はまた深紅に染まっていたが、今度は妖しく微笑んでいた。
「そ、そういうことじゃ…」
「ステラが足りない。」
「あ、朝のは……」
「途中でレオが来たから足りなかった。」
「お、王家の魔法を…」
「口の自由も奪おうか。」
「ひっ……」
尊い「王家の魔法」をこんなことに使ってはならないと言いたかったが、口まで動かなくなったら困るので言えなかった。
ヴァレン様に支配されたステラはなす術もなく、ベッドに優しく下ろされた。
正装の真っ白な軍服姿のヴァレン様が深紅の瞳でステラをじっと見つめた。
神秘的な「王家の瞳」で王太子殿下に見つめられると、この尊い御方とこれから不純なことをするのだと想像してしまい、背徳感でステラは耳まで沸騰してしまう。
「ステラ、何を考えているの?」
「な、な、何も考えておりませ……んっ」
致死量の色気を放ちながら微笑むヴァレン様に、心の中を見透かされたようで恥ずかしすぎて顔を背けると顕れた首筋を強く吸われる。
そのまま唇が耳元まで這うと、あっという間にステラの頭の中までヴァレン様に支配された。
窓から差し込む日の光を見てまたレオナルドに怒られると頭をよぎったが、ステラも自分を止められなかった。
いつの間にかヴァレン様の瞳は金色に戻っていたが、それに気付いたのは外が暗くなってからだった。
「…またレオ様に怒られてしまいますね。」
すっかり日が落ちた窓を見てステラは急に正気を取り戻して呟いた。
「他の男の名前を出すな。」
ヴァレン様はむっとしたように言うと、また首筋に強く吸い付いた。
ステラははっとして止めようとするが、そういえば既に跡をつけられていることを思い出して赤面する。
晩餐会で髪を上げなければいけないのにどうしようとおろおろしていると、ヴァレン様が首筋に顔を埋めたままクスクス笑った。
くすぐったくて身をよじると、いたずらっぽく言われる。
「二日もあれば侍女がどうにかするよ。見えたら見えたで私の物だとわかりやすいしね。」
「ヴァレン様…!」
わかっていてやったのだと気付いて睨み付けるが、笑われるばかりで何の意味もなかった。
夜、湯殿でステラの首筋に気づいた侍女達が真っ青になるのを見てまた耳まで沸騰しそうになったが、悪いのはヴァレン様なのでステラは何食わぬ顔でやり過ごした。
私室に帰ってからまたヴァレン様を睨み付けたが、クスッと笑われてまた襲われかけたので逆にステラが全力で謝った。
翌朝、昨日のことを謝らなければ…と憂鬱な気持ちで執務室に向かった。
ヴァレン様もレオナルドに悪いことをした自覚はあるらしく、気まずそうな顔をしていた。
執務室に入ると、案の定レオナルドは挨拶したきりヴァレン様ともステラとも口を利かなかった。
機嫌を取ろうとしてレオナルドに話しかけると今度はヴァレン様のご機嫌が悪くなったので、ステラは黙り込むお二人に挟まれて黙って護衛をした。




