161.甘え※
※軽いR15注意
日々は目まぐるしく過ぎていった。
まず、政治も他国も知らないステラはヴァレン様の執務室でレオナルドに知識を叩き込まれた。
大陸で隣り合っている国々とは数十年に一回戦争が起きているので、地理から歴史まで事細かに説明された。
王国史と学院で習う世界史以上の知識のないステラには初めて聞く話ばかりで驚いた。
特に、隣のオルキデ帝国は貿易と軍事によって発展した大国だが、土地が貧しいのでこの王国の豊かな領土を狙っているらしい。
アルカニス魔法伯爵家の領地の隣のリュクス公爵家の領地は帝国と接しているので、レオナルドは帝国の事情に詳しかった。
第一王子殿下の王位継承権が奪われて内政が混乱している今、警戒すべきは帝国だと熱弁されたので、ステラはそこだけは伯爵家の血と戦闘部隊の勘が騒いでしっかりと聞いた。
その他にも賓客として招かれる、恐れ多すぎてできれば二度と関わりたくない尊い方々を列挙され続けたので、ひたすら感情を殺して頷いた。
無の表情で勉強するステラを見てヴァレン様は時々笑いを堪えるように肩を震わせたので、ステラはその度に恨みがましく睨み付けた。
父の訓練も続いていたので、魔力の制御や無詠唱の魔術を鍛えてもらったり、邪悪な魔法に対する防御を教えてもらったりした。
他国の魔術師に対する認識の甘さに対しても徹底して正されて、ボコボコにされた。
そして、建国祭で行われる儀礼魔法についても教えてもらった。
昨年は途中までしか見られなかったその魔法は「安寧の魔法」といって、国と民の安寧を祈って行われる。
魔力を国中に行き渡らせるようになるべく広く解放して、その魔力を王族が作り出した魔方陣に圧縮して込めるのが魔術師の役目らしい。
元々は「王家の巫女」が安寧を祈って国王陛下と共に行っていた魔法らしいので、ヴァレン様とステラがやることになったのだ。
ステラは入学式でヴァレン様と一緒に行った「豊穣の魔法」を思い出して勝手にドキドキしたが、父の手前、感情を押し殺して無の表情に徹した。
魔力の制御もだんだん身に付いてきた。
元々は身に纏う魔力を抑えていただけだったが、本来の魔力を圧縮して身に纏わせることで、それだけでも父が纏う魔力のような威圧感が出せるようになった。
「他国の魔術師と顔を会わせるときは常に魔力の制御を怠るな。
ドレスでは帯剣はできないが、儀仗は持っていてもよいと国王陛下のご許可をいただいている。
他国にもお前が王太子殿下の近衛魔術師であることは知られているから、試されるような行動をとるかもしれない。くれぐれも警戒しろ。」
「承知しました、師団長。」
ステラは建国祭の式典では対外的には王国魔術師の代表として魔法を執り行うので王国魔術師のローブで良いと言われていたが、他国の貴賓を招く以上、晩餐会ではドレスを着ることは避けられなかった。
太ももの杖だけで他国の魔術師と同じ空間にいるのは心もとなかったので、儀仗とはいえ杖を持てることにほっと息をついた。
◇◇◇
建国祭まであと二日となり、他国の貴賓が来国する日を迎えた。
滞在するのは王城の外にある迎賓館だが、挨拶のために王城にやってくる賓客をドレスで迎える必要があったのでステラは朝から憂鬱だった。
起きたらドレスを着なければならないのでベッドでぼーっとしていると、ヴァレン様にぎゅっと抱き締められた。
「ヴァレン様、いかがされましたか。」
幼子のように抱きつくヴァレン様が可愛くて、白銀の髪を撫でながら聞く。
「ステラ、私の側から離れないで。」
そう言ってステラを見上げるヴァレン様に、ステラの心臓はズキューンと射貫かれた。
「わ、私もヴァレン様に離れられたら困ります。」
実際、ヴァレン様に離れられてしまったら、ステラ一人で他国の貴賓と話すなど不可能だ。
朝から麗しくて可愛すぎるヴァレン様を見ていられなくなって顔を真っ赤にして背けると、首筋に何度も口付けを落とされて、今度は耳まで真っ赤になる。
「こんなに可愛いステラを他国の者になど見せたくない。」
「ご安心下さい。麗しいヴァレン様の御前では横に立つ私など目に入りませ…んっ……は……ぅ……。」
それだけは自信があったので目を見て言うと、今度は激しい口付けをされた。
「…入学式で君を初めて見たとき、その美貌ゆえに魔法伯は君を社交界から隠していたのかと思ったよ。
頼むから自分の魅力を自覚してくれ。」
「そ、そ、そんな……」
初めて聞く話に驚きつつも、麗しすぎるヴァレン様に言われても信じられない。
でも恥ずかしすぎて沸騰していると、ヴァレン様は妖しくその目を細めた。
「わからないなら教えてあげる。」
「えっ?!きょ、今日は……ぁ……」
胸に顔を埋められると、久しぶりの熱に溶かされるのはあっという間だった。
シーツを必死に掴んでいるとヴァレン様が手を絡ませてくれるが、それすらも体を疼かせた。
いつの間にかヴァレン様によって防音結界が張られていて扉は魔法で閉ざされていることに気付き、ステラは安心しきってヴァレン様に身を任せた。
時間が迫って、扉にかけられた魔法を解除するために呼ばれたのだろう。
部屋に迫ってくるレオナルドの魔力を感じて、ステラは慌てふためいた。
魔力を隠すのが得意なレオナルドが敢えて魔力を出しているのだから全てを見透かされているのだろう。
ステラは顔を青くしながらドレスをとりあえず身に纏ったが、ヴァレン様は慌てる様子はなく優雅にシャツを羽織っただけだった。
あっという間に鍵の魔法を《解除》して入ってきたレオナルドは、どう見ても乱れているヴァレン様とステラを冷たい目で見やるとベッドから追い立てて、侍従と侍女に押しつけるようにして退出していった。
ステラはレオナルドに見られてしまったことに今度は耳まで赤くしながら、侍女によって磨き上げられるために連行された。
◇◇◇
侍女に磨かれたステラは、淡いピンクのドレスを着させられた。
幼い頃着ていたような色のドレスを見て、今の自分には可愛らしすぎる気がして固まってしまったが、侍女が手早く着付けたので抵抗する隙などなかった。
今日は太ももに仕込んだ杖に加えてヴァレン様にいただいた豪華な儀仗も持っている。
ちぐはぐな感じがして、お姫様が杖を持って歩いているみたいだ、とふと思う。
そして、本当に自分がその通りなことに気付いて一人で勝手に赤面した。
ヴァレン様の執務室に向かうが、久しぶりのドレスに、この色に、ちぐはぐな杖に、朝レオナルドに見られてしまったことにと恥ずかしいことが多すぎて、入室する前から耳まで真っ赤になっているのが自分でわかった。
「王太子殿下がお見えです。」
「お通しせよ。」
中からレオナルドの声がして、申し訳なさと恥ずかしさで顔を上げられなくて、入ってすぐに深く頭を下げた。
「ステラ、顔を上げて。」
ヴァレン様の声がするが、恥ずかしすぎる。
頭は上げるが目を伏せて堪え忍んだ。
ヴァレン様はわかっていたかのようにクスッと笑うと、つかつかとステラの方に歩いてきて抱き寄せた。
正装の軍服姿のヴァレン様に弱い上に、レオナルドの手前、ヴァレン様とくっついているところを見られるのがいつも以上に恥ずかしくて沸騰しそうになる。
「ヴァ、ヴァレン様、レオ様が…」
「顔を見せて、ステラ。」
そう言って、くいっと顎を持たれる。
濃い金色の瞳に真っ赤になった自分が映っていて、それにまた恥ずかしくなる。
「やはりこの色も似合うな。このまま幼子のように私に甘えてくれればいいのに。」
今日のヴァレン様は真っ白な軍服に金色の装飾が輝いていて、いつも以上に麗しい。
麗しい御方の甘い言葉は耳の毒だ。
いつかの馬車を思い出して勝手に沸騰して恥ずかしさのあまりクラっと来てしまい、その腕に抱き止められる。
すると、横から冷えきった声が聞こえた。
「本日は大事なご公務がございますのでお忘れなきよう。」
レオナルドの冷ややかな目線にステラは今度こそ居たたまれなくなって、ヴァレン様の腕の中で真っ赤になったまま縮こまった。




