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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第二章 婚約者編

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130.天が授けた役目



勝手に動く体は、国王陛下と第一王子殿下の間に立つと、立ちはだかるように両手を伸ばした。

ステラの足元に魔方陣が浮かび、体を金色の光が包み込んだ。



「国王陛下、お心をお静めください。」



なぜかそうしなければならないと思って、国王陛下の瞳をまっすぐ見つめて言う。


国王陛下の前に立ちはだかるなど今すぐ騎士に斬られてもおかしくないほどの大逆罪だ。

なのに不思議と怖くはなかった。



国王陛下とステラの目が合うと、その魔力はすっと鎮まって、深紅に染まっていた国王陛下の瞳は金色に戻った。

その瞳は驚いたように見開かれている。




ステラは今度は第一王子殿下に向き合った。

騎士団長が喉元に突き付けている剣から血が滲み出して、今にもステラに飛びかかろうとしている。


「第一王子殿下、お心をお静めください。」


ステラはその深紅の瞳を見て言うが、第一王子殿下の瞳は怒りに染まったままステラを睨み付けている。



ステラはまたそうしなければならない気がして、第一王子殿下の前に進んだ。


ステラを睨み付ける瞳をじっと見つめながら跪いて、王国騎士団長の剣ごと第一王子殿下をそっと抱き締めた。



貴族達がどよめき、騎士団長が剣を引くかステラを斬りつけるか逡巡しているのがわかった。



ステラは魔力を込めながらその背中を優しく撫でる。

第一王子殿下は体を硬直させて、さっきまで飛びかかろうとしていたのが嘘のように、ステラのされるがままになっていた。


(どうかお怒りが静まりますように。

どうかその尊い心を憎しみに染めることのありませんように。

あの優しい微笑みを取り戻しますように。)


ステラが魔力に願いを乗せて背中を撫で続けると、やがて第一王子殿下の体から力が抜けるのがわかった。



そっと第一王子殿下の体を離すと、いつかステラに微笑んでくれたときのような優しい薄い金色の瞳がステラを見つめていた。


「ステラ…。」


第一王子殿下が呆然としたように呟く。

もう血管はぞわぞわしない。




ステラは第一王子殿下から離れると国王陛下に向き直った。

今度は口がステラの意思とは無関係に動き出したが、なぜかそれを止める気にはならなかった。



「神が授けし『王家の魔法』を争い事に使われてはなりません。

どうかその尊い力で正しく国をお導きください、国王陛下。」



ステラの言葉に、国王陛下は僅かに目を見開いてからまた表情を戻して言った。


「…神のご意志に従おう。」




ステラは国王陛下の言葉を聞いてやっと自分を取り戻した。

内心はとんでもない不敬なことをしたと慌てるが、とりあえず早く元の場所に戻りたくてまた祭壇の上に戻った。


第一王子殿下もヴァレン様も貴族達も皆ステラを凝視していて恐ろしくなったが、感情を殺してまた無表情で部屋を見下ろした。




「…アルセナ。」


国王陛下が呟くように言うと、第一王子殿下が顔を上げた。

薄い金色の瞳が国王陛下を見つめ、やがて目を伏せる。


「罪を認め、償え。王族としてそなたにできることはそれだけだ。」


「…全て私の責任でございます。

犯した罪を償い、この命尽きるまで、王室と王国の安泰をお祈りいたします。」


第一王子殿下は前に聞いたような優しさを感じる声で言うと、深く頭を下げた。



国王陛下はもう一度第一王子殿下を見つめると、静かに玉座を立たれた。

ヴァレン様が国王陛下に続いたので、ステラもヴァレン様の後ろについて退室した。






控え室に戻ると、ヴァレン様はステラを振り返って手を引いて抱き寄せた。

そのままヴァレン様の腕の中に収まってしまい、国王陛下と第一王妃陛下の御前だとステラは慌てふためいた。


「ヴァレン様、陛下が…」


耳元で囁くが、ヴァレン様は体を離してくれない。

国王陛下の御前で王太子殿下に抵抗したらそれこそ大逆罪なので、どうしようもなくおろおろすることしかできなかった。


国王陛下が振り返って怪訝そうな顔をされたので肝が冷えたが、第一王妃陛下は入室した瞬間クスっと笑って、ヴァレン様とステラに美しく頭を下げた後、国王陛下と一緒に退室された。



扉が閉まったのを確認してヴァレン様の胸を押して言う。


「ヴァレン様、どうなさったのですか。」

「ステラは私の隣に立っていてくれるだけでいいのに。」


ヴァレン様が悔しさの滲む声で言うので、ステラは驚いて抵抗をやめる。


「…勝手な真似をして申し訳ございませんでした、ヴァレン様。」


あれはもはやステラの意思とは言いづらかったが、ヴァレン様にご心労をおかけしたことが申し訳なくなってそっとその髪を撫でる。


「君が『王家の巫女』ではなければ、その手が兄上に触れることも、その命が狙われることもなかったのに。」


そう言ってステラをまたぎゅっと抱き締めた。


「でも、この魔力がなければヴァレン様はきっと私を見つけられませんでしたよ。目立つのは苦手なので…。」

「っ、ステラ、今は笑わせるところじゃない。」


慰めようと思って言ったつもりがなぜかヴァレン様は吹き出して、やっとステラを離してくれた。


「今日、この国で君ほど目立った人はいないよ。」

「ご心配をおかけしてすみません。」


ヴァレン様は笑いすぎて目の端に滲んだ涙を拭っている。




「…あれは本当に驚いたな。」

「私も自分で驚きましたが、なぜかああしなければならないと思ったんです。」


やっと笑いが落ち着いたヴァレン様が、ステラをまじまじと見つめて言った。

ステラ自身も先程の自分の行動が信じられなかったので頷いた。


「神が王家に与えたというのもおとぎ話ではなく本当の話なのかもしれないな。

君は本当に『王家の魔法』の番人として王家の争いを解決したんだから。」

「お、恐れ多いです…。」



ステラが顔を伏せようとすると、ヴァレン様はステラの頬を両手で挟んで言った。


「頼むからもう騎士の剣に自分から飛び込んでいくようなことはやめてくれ。」


その金色の瞳が真剣にステラを見つめるが、泣きそうな表情にも見えて驚く。


「す、すみません。体が動き出したら止められなくて…。」

「君を失ったらと思うと体が震えたよ。無茶はしないでくれ。」

「気を付けます。ご心配をおかけしてすみませんでした。」


ステラが頭を下げると、ヴァレン様はステラの腰を抱えたまま部屋を出た。



ちょうど「謁見の間」から出てきた貴族達と鉢合わせてしまってステラは一瞬固まった。

皆が臣下の礼をとって頭を下げたので、気まずい思いをしながらヴァレン様に従って王城の廊下を進んだ。



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