129.王族として
侍従の先導で再び「謁見の間」に向かう。
いつもとは道が違うので不思議に思いながらヴァレン様の隣を歩いていると、「謁見の間」ではない別の扉に案内された。
「王太子殿下と王家の巫女様のお成りです。」
ステラが恐れ多さに戦いてビクッとすると、ヴァレン様がステラの腰に手を添えて部屋に導いてくれた。
中に入ると、第一王妃陛下が頭を下げていたのでまた恐れ戦く。
ステラも頭を下げようとしたら、腰を掴むヴァレン様の腕に力が込められたので何もするなと言うことだと思ってなんとか耐えた。
「王太子殿下、王家の巫女様、ご機嫌麗しゅうございます。」
「母上、顔を上げてください。」
第一王妃陛下が艶やかにおっしゃるのでステラは恐れ多さに固まってしまう。
ヴァレン様は動じることなく言うと、第一王妃陛下に向かい合うように椅子に腰かけられる。
ステラも腰を掴まれているので従うと、第一王妃陛下も腰かけられた。
恐れ多さで顔面蒼白になるステラを見て、第一王妃陛下がいたずらっぽく微笑んだ。
「王妃の巫女様、いかがなされましたか。」
ひっ、と息を飲みかけてなんとか耐えるが、第一王妃陛下に敬語を使われてもステラはどうすればよいのかわからない。
「…ステラさん。」
「お母様…。」
冷や汗まで垂れてきたステラを見て、第一王妃陛下がステラの瞳を見つめて微笑んだ。
「『王家の巫女』は王族にとって敬うべき存在なの。
この城の中での貴方は王太子殿下と同じように、国王陛下に次ぐ立場になったのよ。」
ステラは第一王妃陛下を呆然と見つめる。
声を出したくても出てこなくて、口をパクパクさせることしかできない。
「母上、ステラが怖がっています。
この者にはいつも通り接していただけますか。」
「尊きご意思に従います、王太子殿下。」
「私に対してもこれまで通りで大丈夫です。」
「そう。ではそうさせていただくわ。」
艶やかに笑う第一王妃陛下を見てやっと生きた心地がしてほっと息をつくと、またステラの瞳を見つめて優しい声で言った。
「ステラさん、昨日はよく頑張ったわね。」
ステラははっとして、立ち上がって跪く。
「第一王妃陛下、私をお助けいただき、ありがとうございました。
第一王妃陛下のおかげで、王太子殿下をお救いすることができました。」
昨日、国王陛下がステラに対して協力的だったのはきっと第一王妃陛下のおかげだ。
ステラは深く頭を下げた。
「顔を上げて、楽にして。」
ステラがそっと立ち上がると、第一王妃陛下も立ち上がってステラを見つめて言った。
「私の大切な息子と王国を救っていただき、感謝の念に堪えません。
これからもどうか王家と王国をお守りください、王家の巫女様。 」
第一王妃陛下がステラに頭を下げたのでぎょっとして崩れ落ちそうになる。
「そ、そ、そんな…お、お、おやめください。ふ、不敬で…」
「立場なら貴方の方が上よ。」
「ひっ……」
「母上、ステラをからかわないでください。」
顔を上げた第一王妃陛下がクスクスと笑うが、ヴァレン様は嫌そうな顔で第一王妃陛下を睨み付けている。
ご家族とお話するときの子供っぽいヴァレン様の姿を久しぶりに見て思わず微笑むと、またステラの腰を抱くようにして椅子に座らされた。
ステラはヴァレン様にずっと疑問に思っていたことを問いかける。
「あの、ここは…」
「王族の控え室だ。」
「…そうなんですね……。」
ステラはまた恐れ多さで今すぐこの部屋から出たくなる衝動を必死に抑えた。
第一王子殿下と第二王妃陛下がいらっしゃらないのが気になったが、今日はもしかしたら尋問の続きがあるのかもしれないと思って顔を伏せた。
すると、扉の外から鎧の音がして扉が開かれた。
ヴァレン様と第一王妃陛下が立ち上がられたのでステラも従う。
国王陛下が、王国騎士団の近衛部隊長と王国魔術師団の戦闘部隊長に守られながら入室された。
父や騎士団長の姿がないことに違和感を覚えながらも、聞ける雰囲気ではないので黙って頭を下げる。
「面を上げよ。」
いつもの朗々とした声がして顔を上げると、国王陛下がステラをまっすぐ見つめていた。
「そなたは王家と王国を救ってくれた。感謝する。」
ステラは驚愕で目を丸くする。
恐れ多さを必死に押し殺して、どうにか声を出した。
「国王陛下のお力があってこそでございます。尊きお力をお貸しいただき、ありがとうございました。」
そう言って頭を下げてまた顔を上げると、金色の瞳がステラに優しく微笑みかけてくださったので慌てて目を伏せて、また頭を下げた。
国王陛下はそのまま部屋の奥にある扉に進まれる。
ステラもヴァレン様に腰を抱かれてその後に続く。
第一王妃陛下よりも前に出るのは失礼ではないかと思ったが、先程の言葉を思い出して申し訳ない気持ちをぐっと押し殺した。
扉の奥には、「謁見の間」の祭壇が見えた。
昨日は眺めていた王族の入場を自分がする側になった恐れ多さに一歩後ずさりそうになって、ヴァレン様にぐっと腰を掴まれる。
このままでいいのだろうかと内心おろおろしつつ覚悟を決めて、いつの間にか得意になってしまった感情を殺した表情を作った。
ステラは「王家の巫女」としてヴァレン様のお隣に並んで、祭壇に向かって一歩を踏み出した。
壇上から「謁見の間」を見下ろして、ステラは息を飲みそうになった。
第一王子殿下が王国騎士団長に喉元に剣を突き付けられ、第二王妃陛下がステラの父、王国魔術師団長に心臓の裏側から杖を突き付けられて祭壇の前に跪いていた。
横に立つヴァレン様をちらっと見たが、その表情には何の動揺も見られず、じっとお二人を見つめていた。
ステラも目を逸らしたくなるのを必死に抑えて感情を殺して見つめると、第一王子殿下の深紅に染まった瞳と目が合った。
怒りで染められたその瞳を見て、ヴァレン様にしたように魔力を込めて背中を撫でて差し上げたら何か別の感情を持ってくれるのだろうかとぼんやり考えた。
「今日はそなたらに処分を下す。」
国王陛下の声が響いて、ステラは驚愕した。
尋問はあの後も続けられて、昨日のうちに全て終わっていたのだと気づいた。
国王陛下のお気遣いで先に帰して下さったのだろう。
ヴァレン様は全く揺らいでいないので、あの後何が話されたのか、きっと全てご存知なのだ。
今朝お疲れだった理由に気付いて胸が痛くなった。
ステラは動揺を隠せなくて震えそうになるが、今日は王族として、そして「王家の巫女」としてここに立っている。
揺らぐな、と自分に言い聞かせた。
「第二王妃、そなたは第一王子の横暴を知りながら罪を庇い、余を欺いた。
閉門の上、離宮にて謹慎を命ずる。」
国王陛下のお言葉に第二王妃陛下が静かに頭を下げる。
「第一王子、そなたは王室の規則に背き、国を混乱に陥れた。
よってそなたの王位継承権を剥奪し、同じく離宮にて蟄居を命ずる。」
第一王子殿下はその言葉に怒りをあらわにした。
第一王子殿下の「王家の魔法」の魔力が体外に漏れ出して、部屋を息苦しくなるような威圧感が包み込む。
国王陛下もそれに対抗するように「王家の魔法」の魔力を解き放つと、体が床に押し付けられるような圧迫感が部屋を満たす。
国王陛下と第一王子殿下の魔力がぶつかり合うのがわかって、ステラの心臓は勝手に早鐘のように動き出した。
そして、二つの「王家の魔法」の強い魔力を浴びた体は、心臓を中心に血管がざわめき始める。
早鐘のように打つ鼓動でざわめきがあっという間に全身に広がると、いてもたってもいられない衝動に駆られて、足が勝手に前に進み出した。




