126.王位継承者
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「…そなたが誠に『王家の巫女』で、神が定めた王位継承者が第二王子ならば、私の『王家の魔法』は通用しないということだな。」
後ろから声がしたので振り返ると、第一王子殿下が冷たい瞳でステラを射貫いていた。
第二王妃陛下も第一王子殿下の横で青ざめながらステラを見つめていた。
ステラは第一王子殿下に向き直り、その瞳を見つめ返した。
「さようでございます。第一王子殿下。」
ステラの言葉で第一王子殿下の瞳がさっと深紅に染まると、足元に金色の魔方陣が輝いた。
第一王子殿下の魔力を拒むように、全身の血管からヴァレン様の魔力が染み出すのがわかった。
《魔力を奪う》魔法な気がして、国王陛下にそうしたのと同じように魔力を解放する。
ステラの魔力が「謁見の間」を覆うと、第一王子殿下は目をすっと細めた。
今度は上から圧力のようなものを感じた。
ひれ伏せさせようとしているのかもしれない。
ステラは揺らぐことなく、第一王子殿下の深紅の瞳を見つめながら立ち続ける。
ステラを睨み付ける第一王子殿下から殺気が放たれたと思ったら、ステラの防御魔術をすり抜けて心臓の辺りがざわざわとざわめいた。
ついにステラの中のヴァレン様の魔力が体から漏れ出したのか、ステラの意思とは無関係に、体を押さえつけられるような威圧感が「謁見の間」を満たした。
「気は済みましたか、兄上。」
ヴァレン様の冷たい声が響くと、そのままステラの方に歩いてきて守るように肩を抱かれた。
ヴァレン様の体が微かに震えているのに気付いて、もしかしたら今第一王子殿下が使ったのはステラの命を奪う魔法だったのかもしれないと思った。
恐ろしくなったが、《敵》が、第一王子殿下がステラとヴァレン様を睨んで殺気を放っているのが目に入って感情を押し殺した。
「ああ、よくわかった。この者には私の『王家の魔法』は通用しなかった。」
第一王子殿下が苦々しい表情で、憎しみのこもった声でヴァレン様に告げる。
第一王子殿下の返答に会場の貴族はまた大きくざわめく。
「国王陛下、しかしこの者は出自の条件を満たしません。その膨大な魔力で『王家の魔法』を撹乱しているやもしれませぬ。」
フォード伯爵が再び国王陛下に頭を下げて言う。
また第一王子派の貴族と第一王子殿下に取り込まれた第二王子派の貴族が騒ぎ立てた。
「国王陛下の御前である。静まらぬか。」
今度はステラの父、アルカニス魔法伯がよく通る声で言った。
ステラが驚いて父を見つめると、父も何かを覚悟したかのような顔で静かにステラを見つめ返した。
「出自を証明できれば満足するのか。」
静まった貴族達に向かってヴァレン様が横から言うので、ステラは驚いて今度はヴァレン様を見つめる。
ステラの出自を証明できるものなど持ち合わせていないし、そんなことを第一王子派のノクティス公爵が認めるはずもないだろう。
「魔法伯、ここへ。」
「はい、第二王子殿下。」
父はヴァレン様とステラの前に立つと、懐から丸められた書類を取り出した。
王家の紋章が透かしてある、見るからに恐れ多いその書類には見覚えがあった。
ステラが「英雄の証」を授かった日、父からヴァレン様が幽閉されるかもしれないと警告を受けた日に、ヴァレン様が眺めていた書類だ。
ヴァレン様がその書類を広げると、王家の紋章が透かしてある紙に文章が書かれていて、いくつか署名がしてある。
一番下にヴァレン様のサインがあり、印章が捺してあった。
ステラの大して良くはない目では細かい内容までは読み取れなかったが、その書類に書かれたサインを一つずつ目で追って、驚愕した。
「この者はアルカニス魔法伯とは血縁関係がない。」
ヴァレン様が言うと、またどよめきが起きるが、すぐに静まった。
「この者の血縁上の父親は、ノクティス公爵だ。 」
朗々とした声で淀みなく告げるヴァレン様に、貴族達が驚愕の表情をノクティス公爵に向けた。
「ここにその証明がある。フォード伯爵、不満ならば確認するがよい。」
フォード伯爵が証明書を見てまた驚愕の表情を浮かべる。
ヴァレン様が持っていた証明書には、父と母に加えてノクティス公爵のサインもあったのだ。
ステラはあまりの衝撃に感情の殺し方も忘れて呆然とノクティス公爵を見つめる。
金髪碧眼の見るからに高貴な佇まいのノクティス公爵とステラの目が合う。
僅かに微笑まれた気がして、驚きで目を瞠った。
そしてノクティス公爵が口を開いた。
「この御方の母君は、かつて私に仕えて下さいました。ステラ・アルカニス様は私の実の子にございます。」
ノクティス公爵はステラの目を見て、微笑みながら続ける。
ステラはどうすればよいのかわからなくてただその瞳を見つめた。
フォード伯爵もノクティス公爵を呆然とした顔で見つめている。
今までは第一王子殿下の後ろ盾になっていたのに、急にヴァレン様の婚約者であるステラの味方についたのだから驚いて当然だ。
ステラも同じく信じられない気持ちで、声を出すこともできずただ事態を見守ることしかできない。
父はフォード伯爵から再び証明書を受け取ると、ステラを見て優しく微笑んだ。
ステラは父の表情になんともいえない寂しさが込み上げてきて、泣きそうになって必死に堪える。
ヴァレン様がステラの気持ちを察したかのように腰を引き寄せて続けた。
「この通り、この者は『王家の巫女』の条件を満たしている。」
ヴァレン様の胸に響く、朗々とした声が「謁見の間」に響く。
もう盾突く者はおらず、しんと静まり返った。
「皆の者、わかったか。
余はこの者を『王家の巫女』と認め、第二王子ヴァレンを神が定めし王位継承者として、王太子に据える。」
突然国王陛下が恐れ多いことをおっしゃったのでステラは衝撃で体がびくっとしてしまう。
慌てて国王陛下に向き直って深く頭を下げた。
たしかに神が定めた王位継承者はヴァレン様だろうが、国王陛下がすぐに第一王子殿下を切り捨ててヴァレン様を王太子にされるとは思ってもみなかった。
ヴァレン様はわかっていたようで動じた様子はなく、国王陛下に美しく頭を下げていた。
会場は静まり返っているが衣擦れの音で、今もヴァレン様を慕う第二王子派の貴族達が深く頭を下げたのがわかった。
「そして、この者は『王家の巫女』として、告げるべきことがあるそうだ。」
また国王陛下の声がして、ステラは静かに呼吸を整える。
この前はステラに厳しかった国王陛下がなぜか今日は味方でいてくださる気がする。
もしかしたら第一王妃陛下がご助力下さったのかもしれないと思って胸が温かくなる。
ステラはヴァレン様からいただいた儀仗を握りしめて、第一王子殿下に向き直り、その薄い金色の瞳をまっすぐ見つめて告げた。
「第一王子殿下、あなたは『王家の魔法』を不当に利用して、罪なき者に罪を被せ、尊い忠誠の心を踏みにじり、国を乱しておられます。
私は『王家の巫女』として、あなたの罪を明らかにします。
そして、その罪が公正に裁かれることを願います。」
ステラが言い放つと、第一王子殿下ご自身からも、第一王子派の貴族からも、そして第一王子殿下に取り込まれた貴族からも殺気が放たれる。
第一王子殿下に心酔していた者が今にもステラを虐げようと魔力を込めているのを察し、ステラは儀仗に魔力を込めて詠唱した。
「《天に反逆せし者よ、汝が罪は我が裁かん。我にひれ伏せ》」
下位貴族を中心に何人かがその場に倒れ込み、ひれ伏した。
すぐに騎士が駆け寄ってきて「謁見の間」から連れ出された。




