124.かつての夢※
※軽いR15注意
第一王妃陛下の部屋を出ると、再びステラの私室に戻った。
「ヴァレン様、執務室に向かわれなくてもよろしいのですか。」
「明後日にはまたステラと離れる可能性があると思うと、執務どころじゃないからね。」
ヴァレン様の言葉で、この時間は仮初めのものだということを思い出して顔を伏せた。
絶対にヴァレン様をお助けしようとまた心の中で誓った。
「…それ、どこで見つけたの?」
ヴァレン様の驚いたような声に顔を上げると、机の上に置いてあった「ともだちの ふしぎな まほう」の絵本を手にとっていた。
第一王妃陛下に呼び出してもらったときに読んでいたので、そのままになっていたのだ。
「…ご不在の間、ヴァレン様の私室にお邪魔して本棚の本を読ませてもらっていたんです。申し訳ございません。」
ヴァレン様の許可を得ないまま勝手に私室で過ごしていたので頭を深く下げる。
「顔を上げて。こちらにおいで。」
怒ってはいなさそうな声にそっと顔を上げると、ヴァレン様は嬉しそうに微笑んでいた。
絵本を持ったままカウチに腰かけると、自分の横をぽんぽんと叩いた。
「寂しくて私の部屋にいたんでしょう。可愛いから許す。」
「…ヴァレン様。」
寂しかったのに加えて残り香を嗅ぎたかったからなんて、恥ずかしすぎてとても言えない。
顔を真っ赤にしながらカウチに腰かけると、頭を優しく撫でられた。
「この絵本も本棚にあったの?」
「そうです。時間があったのでヴァレン様の学院時代のノートを何冊かお借りしていたら、その奥に絵本を見つけたんです。」
「あんなところにあったのか。これは私が子供の頃、お気に入りだった絵本なんだ。」
ヴァレン様は懐かしそうにページをめくって、ふとその手が止まる。
ともだちが「みんながなかよしになるまほう」を使う場面だ。
「…もしかしてこの絵本で『巫女の魔法』を知って、使えるようになったのか?」
「はい。私は読んだことがなかったので、ヴァレン様の本棚で見つけるまで知らなかったんです。」
「魔法伯は本当に徹底していたんだな。」
ヴァレン様の言葉で、やはりこの絵本は棚にあった他の絵本と同じように、この国の子供達なら誰でも知っているような有名な話なのだと気付いた。
「子供の頃はこのような魔法が本当にあってほしいと願っていたな。
それに、いつかこの絵本のように自分と同じ色を持つ女性が横にいてくれたらと夢見ていた。
全て叶っているのが夢のようだよ。」
ステラはヴァレン様の言葉に驚き、目を丸くする。
ヴァレン様もこの絵本にステラを重ねてくれたのが嬉しくて微笑みかけると、ヴァレン様の金色の瞳も嬉しそうに細められていた。
「指輪を外してくれないか。」
「…はい。」
ヴァレン様に頼まれるのは二回目だったので少し驚いたが、何度も見せているので素直に従った。
右手の中指の指輪を外して机に置くと、みるみるうちに白銀に染まっていく。
「…本当に夢のようだ。」
ヴァレン様の濃い金色の瞳が熱を帯びてステラを見つめ、頬を手で優しく撫でられる。
ステラもこの麗しくて尊い御方が、目の前で自分を見つめてくれているのが夢みたいだと思う。
「ステラ、愛してる。」
そう言って口付けを落とされると、もう止められなかった。
「ヴァレン様、愛しています。」
本来の髪の色でその腕に抱かれるのは少し恥ずかしかったけど、ヴァレン様がステラの首元に顔を埋めると合わさって一つになる色に嬉しくなってぎゅっと抱き締めた。
夕焼けが二人の白銀の髪を染めるまで、またお互いを求めあった。
ヴァレン様の髪が黄昏の神秘的な色に染まるのをその腕の中でぼーっと見つめていると、ふいに呟かれた。
「昨日父上の部屋でこの髪で跪くステラを見て、一瞬心臓が止まったよ。」
「…驚かせてしまってすみません。」
ステラは申し訳なさで縮こまる。
特に動揺されていないように見えたので、ヴァレン様の感情を殺す能力はステラ以上だと思った。
「君がこの髪で堂々と歩ける日が来るかもしれないな。」
ヴァレン様に言われて気付いて固まる。
たしかに、「王家の巫女」であることを公表したら髪色を隠す必要はない。
でも、これまでずっと隠してきたので皆の前でこの髪色で歩くなんて服を纏わないのと同じ感覚だった。
「そ、そんな日が来てもこれで出歩くのはやめておきます……」
「この髪であのドレスを着せて、宝石で彩ったら美しいだろうな。」
「ひっ……」
きっとあの白銀のドレスだろう。
あれだけでも恐れ多さに息が詰まるのに、宝石まで与えられたらステラは息ができなくなるだろう。
想像しただけで恐ろしくて震えると、ヴァレン様は肩を震わせて笑った。
「私の隣で、この髪の色で立ってほしい。」
「か、考えておきます…。」
ステラが目をそらすと、ヴァレン様はまたクスクスと笑ってステラのことを抱き締めた。
◇◇◇
それから翌日までの間、離れていた間の出来事を話したり、また体を求め合ったり、これまでにないくらいヴァレン様とずっと一緒に過ごしていた。
四六時中第一王子殿下の警護をしていた話にヴァレン様は怒りを滲ませて、今にも第一王子殿下のところに行こうとされたので必死に止めた。
「…兄上は私からステラまで奪おうとしたのか。」
「ヴァレン様、私の心は常にヴァレン様の元にありました。
それに、王国魔術師としては当然の任務です。
私は何とも思っていませんのでご安心下さい。」
ステラだって守りたくて守っていたわけではないが、王国魔術師としてのただの任務なので怒ってほしくはなかった。
「兄上の命までは、と思っていたが、命を奪うことになっても後悔はないな。」
「…ヴァレン様。お気持ちをお静め下さい。」
その瞳が紅く染まりかけていたので、慌てて自分の魔力を込めて背中を撫でる。
瞳はすぐに金色に戻ったが、ヴァレン様はまだ怒りの滲んだ顔をしていた。
「触れられたりはしていないか。」
「…大丈夫です。」
抱き締められた話やカウチに体を押し付けられた話など、知られてしまったら今から第一王子殿下に斬り込みに行きかねないと思ったので、悟られないように落ち着いて頷く。
ヴァレン様は怪しむようにステラを見たが、ステラが静かに見つめ返すと息をついた。
「本当に無事でよかった。」
また抱き締められて、夕食の時間まで本当に触られていないか体に触れて確認された。
ステラが心も体も嘘をつけなくなって頭を撫でられたことだけは話してしまったので、怒ったヴァレン様をまた必死で止めた。




