122.長くて短い夜※
※軽いR15注意
深夜の誰もいない王城の長い廊下を、ヴァレン様に肩を抱かれながら早足で進む。
今更ながら、誰かに見られても大丈夫なのかと心配になってそわそわしてきた。
ヴァレン様とステラの隣り合った私室の前には王国魔術師と第一王子殿下の近衛騎士がずらっと並んで控えているだろう。
勝手に部屋を抜け出してきたことを知られてしまうし、ステラが丸腰の今、ヴァレン様に襲いかかられたらどうしようとパニックになる。
「ヴァレン様。お待ちください。」
「どうしたの?」
国王陛下の前でステラに厳しい目を向けていたのが嘘のように優しく返されて、どぎまぎしてしまう。
「す、すみません。私、第一王子殿下に監視されているのに勝手に部屋を抜け出してきたんです。
私室の前に魔術師と第一王子殿下の近衛がいるので、どうしようと思って…。」
「それでそんな格好なのか。
きっともう伝令が出ているだろうから大丈夫だよ。」
「そ、そうなんですか…。」
王城の情報の伝達の早さに恐ろしくなりながら、やはり尊い方々の常識は違うことを実感して、ステラは久しぶりに恐れ多さを思い出した。
恐れ多さに固まるステラを見てヴァレン様がクスっと笑うと、また肩を抱かれて廊下を進んだ。
◇◇◇
ヴァレン様の言う通り、私室の前の廊下には騎士も王国魔術師もいなかった。
情報の早さに戦きながらも、ほっとしたステラはヴァレン様の前に回って扉を開けて、ステラの私室に入ってもらう。
ステラも入って扉を閉めると、ヴァレン様に力強く抱き寄せられた。
「無理はするなと言っただろう。」
腰を抱かれたまま顎をくいっと上げられたのでヴァレン様を見上げると、その瞳には怒りが込められていた。
「…言いつけを守れなくて申し訳ありません、ヴァレン様。」
天文台でした約束を守れなかった申し訳なさに目を伏せると、顎を掴んでいた手が離されて代わりに背中に回され、ぎゅっと抱き込まれた。
「父上の前では生きた心地がしなかった。君と無事に戻ってこられてよかった。」
珍しく弱音を吐くヴァレン様に驚いたが、安心してほしくてその背中に手を回してそっと撫でる。
「ヴァレン様をお助けしたかったんです。またこうしてお会いできて、本当に嬉しい…です…っ。」
言いながら胸がぎゅーっとなる大好きな香りに包まれていることを感じて、引っ込んでいた涙がまた溢れ出した。
またこの部屋でこうして抱き締められている幸せが信じられなくて、涙腺が崩壊してしまう。
「ステラ、ありがとう。
辛い思いをしただろうに、私のことを想い続けてくれて、救い出してくれてありがとう。」
ヴァレン様の言葉に、たくさん押し殺してきた辛さや寂しさが一気に込み上げてくる。
その胸にすがって声を上げて泣くと、落ち着くまでずっとステラの頭を優しく撫で続けてくれた。
「ヴァレン様、に、お会いできないのが…一番辛かった…です…っ。窓から、天文台を見て…っ、ずっと会いたかった…」
なんとか声が出るようになって目を見て伝えると、ヴァレン様はステラの唇に優しく触れて、愛おしそうに目を細めた。
「私もステラに会いたくてたまらなかった。こうして腕に囲って、君と話したかった。」
「ヴァレン様……んっ……はぁ…っ」
熱い口付けが落ちてきて、ヴァレン様を欲していた体が一気に熱を帯びる。
雪崩れ込むようにベッドに押し倒されて、指輪がいくつも輝くヴァレン様のごつごつした手がステラを撫でると、電流が走ったかのように体がビクッと跳ねる。
もっと触れてほしくて、ヴァレン様を感じたくて、腕を伸ばしてその麗しいお顔を引き寄せて口付けをする。
濃い金色の瞳が溶けそうな熱を持つと、あっという間にローブは脱がされ、ヴァレン様の手に夢中になった。
夏の朝焼けが空を染め始めてもずっとヴァレン様を求め続けて、日の光が差し込んだ頃にいつの間にか眠りに落ちていた。
ヴァレン様と再会できたこの夜はステラの人生で最も長かったはずなのに、最も短く感じた。
◇◇◇
衣擦れの音がした気がして目が覚める。
時間がわからないが、日はとうに昇りきっていた。
まだヴァレン様の腕に抱かれていることに嬉しくなって見上げると、濃い金色の瞳が蕩けそうに細められてステラに口付けを落とした。
また求めてしまいそうになって、そういえば衣擦れの音がしたことを思い出して後ろを振り返って、時が止まった。
慌てて飛び起きそうになったが、ヴァレン様の腕に引き戻される。
部屋にはヴァレン様付きの侍女がずらっと並んでいた。
とんでもないところを大人数に見られてしまっている衝撃に固まっていると、ヴァレン様がステラの耳元でクスクスと笑う。
「ステラ、おはよう。」
挨拶を返したいけど羞恥と衝撃で声が出なくて、その顔を見上げて口をパクパクさせることしかできない。
「な、な、なんで……」
「母上がお呼びだそうだ。私も行くから準備しようか。」
ようやく声を取り戻したが、ヴァレン様の美しい筋肉の筋が目に映ってしまい、自分の格好にも気付いてまた赤面する。
「じゅ、準備…は、はい……」
こんな格好でこんな大人数の前に出る勇気がなくて固まっていると、侍女がヴァレン様にバスローブを二着さっと手渡し、ヴァレン様がステラにも羽織らせてくれる。
恥ずかしすぎて耳まで沸騰しながらよたよたとベッドを出て、ヴァレン様に笑われながら侍女に支度を整えてもらった。
◇◇◇
今日のステラは丸腰なので久しぶりにドレスを着させられて、ヴァレン様のお隣に並んで王城の廊下を進んだ。
すれ違う人々が皆ヴァレン様に恭しく頭を下げるのを見て城の情報の早さにまた驚きつつも、やっと王族として扱われるヴァレン様が戻ってきて嬉しくなる。
王族と面会するための応接室の前で先導の侍従が立ち止まると、中に声をかけた。
「第二王子殿下とご婚約者様がお越しです。」
「通しなさい。」
第一王妃陛下の声が聞こえたので中に入ってヴァレン様と一緒に頭を下げる。
「ヴァレン、ステラさん、顔を上げて。」
その声に顔を上げると、第一王妃陛下が優しい微笑みを浮かべていて、安心して涙が込み上げてきそうになる。
「少し時間が早かったかしら。」
「いえ、問題ありません。母上。」
第一王妃陛下が艶やかにクスクスと笑われるので、まさかそんなことまで伝わっていたのかと驚いて耳まで赤面すると、ヴァレン様にもクスクスと笑われた。
「よかった。さあ、座って。 」
そう言って指された机を見ると、ステラの儀仗と杖と剣が並べてあった。
ステラが驚いて目を瞠ると、第一王妃陛下が優しく言った。
「取り返しておいたわ。あとでヴァレンから受け取って。」
「お母様…。このご恩は忘れません。本当にありがとうございます。」
ドレスなので跪けないが、足を引いて深く頭を下げる。
「顔を上げて。ステラさん。
ヴァレンを救ってくれたんだもの。
お礼を言うのは私の方よ。ありがとう。」
「と、とんでも…め、滅相もございません、第一王妃陛下。」
どぎまぎするステラにまた艶やかに微笑まれると、ヴァレン様がステラの手を引いて椅子に座らせてくれる。
見上げると、ヴァレン様は少しだけ嫌そうな顔をしていたので笑いそうになってしまって、慌てて感情を抑えた。




