121.証拠
国王陛下がまたステラに話しかけたのでステラは再び向き直った。
「証拠があると言ったな。」
「はい、国王陛下。」
「どのような証拠だ。」
「第一王子殿下に支配されていましたが、自力でその支配から逃れた者がおります。」
ステラの言葉に国王陛下は特に反応を示さなかったが、ヴァレン様はまた驚いたようにステラを振り返った。
「…何者だ。」
国王陛下が静かに問う。
「元々は第二王子殿下の近衛騎士だった者です。
先日、私の命を狙ったのでその場で捕らえて、天文台に収容しています。」
「ステラ、どういうことだ。」
ステラが答えると、横からヴァレン様がステラの肩を掴んで怒気を含む声で言った。
ステラは怒られることはわかっていたので、感情を押し殺して淡々と告げる。
「学院でヴァレン殿下の警護をしていたイグニス・マルクスという者です。
先日のフォード伯爵家主催の夜会で私を狙って襲撃しました。
第一王子殿下の近衛騎士と警備の王国魔術師もその場におりましたので、私を狙った証拠はございます。
第一王子殿下による洗脳が不完全だったようで、捕らえた際に尋問にかけたところ自我を取り戻しました。
第一王子殿下がどのようにして人を支配して、何をさせているのか、証言させることができます。」
ヴァレン様は信じられないという顔でステラを凝視していたが、やがてその手が肩から離された。
ステラはまた国王陛下を見て話を続ける。
「他にも私が捕らえた罪人で、洗脳された形跡がある者が複数おります。
現在は王国騎士団の管理下にあるかと存じますが、お許しいただけるのならば私が洗脳を解いて証言させます。」
もしかしたらもうこの世にいない者もいるかもしれないが、生きていればその洗脳を解くことができると確信していた。
「『王家の魔法』を解除することができると申すか。」
「はい。『巫女の魔法』を使うことができます。」
ステラの言葉にまたヴァレン様が驚いたような表情で固まり、国王陛下も目を瞠った。
あの絵本で描かれていた魔法を、父は否定しなかった。
きっとステラが祈れば、「王家の魔法」による洗脳を解くことができるのだ。
重い沈黙が流れた後、国王陛下が質問を続けた。
「…第一王子が王位の継承を狙った証拠とは何だ。」
「第一王子殿下が、第二王子殿下と関係の深い貴族を洗脳してご自分の陣営に取り込んでおられます。
第一王子殿下の警護をしているときに、貴族達に対して『王家の魔法』を使っておられましたので間違いありません。
第一王子殿下はその瞳の色を変えることなく『王家の魔法』を使っておられますが、私にはわかるのです。
貴族達の前で『巫女の魔法』を使う機会をいただければ、第一王子殿下が『王家の魔法』で貴族を取り込んでいたことを証明できます。」
「ステラ…。」
ヴァレン様が呆然としたように呟いた。
天文台で会ったときは心配させたくなくて何も伝えていなかったのだ。
ステラが第一王子殿下の警護をしていたことも、「巫女の魔法」を使えるようになったことも、何もご存知ない。
話してしまったら止められると思ったので言わなかったのだが、ヴァレン様に隠し事をしたことに申し訳なくなって目を伏せた。
「…ではそなたの言う通り、機会をやろう。
そなたが『王家の巫女』であるとはいえ、もし証明できなければ命はないと思え。」
「有り難き機会を頂戴できますこと、恐悦至極に存じます。国王陛下。」
国王陛下が放つ威圧感に体が震えそうになったが、ステラは恐怖を殺して言って頭を下げた。
「これから貴族達を召集する。それまでの間、ヴァレンは城で過ごすがよい。」
「寛大なお心に感謝いたします、国王陛下。」
ヴァレン様が国王陛下に頭を下げて退出すると、父もさっと臣下の礼をとって頭を下げて、ヴァレン様の後を追うように退出した。
第一王妃陛下も立ち上がったので、ステラは最初と同じように椅子を引き、後ろに立って顔を伏せた。
「国王陛下、私のお願いをお聞き入れいただきありがとうございました。
夜も更けましたので、ご無理はなされないようお過ごしください。」
第一王妃陛下が国王陛下に頭を下げたので、ステラも一緒に頭を下げた。
「セレナは残ってくれ。そなたは帰るがよい。」
「承知いたしました、国王陛下。」
第一王妃陛下がまた国王陛下に頭を下げたので、ステラも再び頭を下げた後に静かに部屋を出た。
部屋を出てすぐに指輪をはめ直して、髪色が栗色に戻ったのを確認してから王城の廊下を歩き出す。
王城の廊下を一人で、しかも丸腰で歩くのは初めてだったが、ステラはそんなことは気にならなかった。
ヴァレン様も城で過ごされるのなら、私室に向かわれたはずだ。
気が急いて、歩くというよりも小走りで私室へ急ぐと、廊下を曲がった先に父と一緒に歩くその背中が見えた。
「ヴァレン様!」
愛しいその背中に想いを我慢しきれなくなって呼び止めると、ヴァレン様が立ち止まって振り返った。
大好きで愛しいヴァレン様が、ステラに微笑みかけてくれる。
駆け寄ってその腕に飛び込む。
ステラを抱き止めてくれたヴァレン様から、胸がぎゅーっとなる甘い香りがしてステラは涙が止まらなくなる。
「お会いしたかったです。ヴァレン様。」
「私も、この日を待ち望んでいた。」
ステラがヴァレン様を見上げると、ヴァレン様の濃い金色の瞳が優しく細められて、頭を撫でられた。
ヴァレン様に引き寄せられて唇を重ねかけたとき、盛大な咳払いが響き渡った。
「……そういうのは私室でやってくれ。」
父がこの上なく顔を歪めてヴァレン様を睨み付けている。
「ご、ご、ごめんなさい、お父様!」
すぐに涙が引っ込んで、慌ててヴァレン様から飛び退こうとしたが、腕を引き寄せられて抱き締められる。
「魔法伯、そなたの尽力に感謝する。ではまた。」
ヴァレン様が父にさっと頭を下げたのでステラが驚いて固まっていると、そのまま肩を抱かれてヴァレン様に連れ去られるように私室に連れて行かれる。
ヴァレン様の腕越しに父を振り返ると変わらずにヴァレン様を睨み付けていたが、ステラと目が合うと呆れたように優しく微笑んで手を振ってくれた。




