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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第二章 婚約者編

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108.あなたに捧げる魔法



訓練場の入り口に向かうと、顔見知りの魔術師達が去年と同じようにステラを激励してくれる。

王城に味方がほとんどいなくなってしまったステラには、それが本当に嬉しかった。



入り口で敬礼して戦闘部隊長を迎える。


「今年も君と戦えて嬉しいよ。」

「私も光栄にございます、部隊長。」


二人で揃って訓練場の真ん中に向かうと貴賓席に体を向けて臣下の礼をとって頭を下げる。

ステラは国王陛下にも第一王子殿下にも臣下の礼をとりたいとは思わなかったが、第一王妃陛下を思って胸に手を当てた。



訓練場の端に向かって歩き出した戦闘部隊長を敬礼で見送ると、ステラも貴賓席のある側の訓練場の端に向かう。


去年は見て欲しい人がすぐそこにいたが、今年は横にそびえる天文台にいる。

ステラは天文台に向かってもう一度臣下の礼をとって頭を下げた。


去年は部隊長の魔法を受け止められるか少し緊張していたが、不思議と今年は何も怖くなかった。

涌き出る魔力が大丈夫だと教えてくれる。


ステラは前を見据えて、無詠唱で自分に防御魔術を施して、部隊長に攻撃魔法を仕込んだ。



「では、始め。」


審判役の魔術師の声がして、すぐに戦闘部隊長の強烈な赤い閃光が上からステラに降り注ぐが、先ほどかけた防御魔術で防ぐ。

揺らぐことのない防御を見て、これなら勝てると確信した。


部隊長はステラの攻撃魔法を無詠唱では防ぎきれず、杖を掲げて防御魔術を詠唱しているのが見えた。



ステラは上空高くに結界を張ると同時に詠唱する。


「《転移せよ》」


「《訪れし災厄を打ち払い、我を護れ》」


転移してすぐに自分を強力な防御結界で覆う。



そのまま天高くに杖を掲げて、強く魔力を込めて詠唱した。


「《我の望みし物を映し出せ》」


ステラの魔力が王城を覆い尽くすように広がると、空が瞬く間に茜色に染まり、夕陽の朱色が天文台を照らし出す。

その景色の美しさと、ヴァレン様がそこにいる苦しさで涙腺が緩みそうになったのをぐっと堪えて跪いた。

そのまま臣下の礼をとって、天文台に深く頭を下げる。



何の意味もない幻覚魔法だ。


ただ、あの日の、ステラの左手に指輪を収めてくれた日の美しい夕焼けをヴァレン様にお見せして、あなたを想っているということを伝えたかった。





部隊長の魔法がステラを襲うが、鋼の刃も火の玉も雷も、ステラの防御結界に当たっては霧散していく。

磨き上げたステラの防御結界はひび割れることもなく、隙なくステラを護っている。



ステラはまた立ち上がり、天に杖を向けて詠唱しながら、魔力を解放する。


「《癒えよ》」


金色に輝く魔力の波がステラを中心に広がっていく。

治癒魔法を込めた魔力の波が、天文台に打ち寄せるのが見えた。

もしヴァレン様が尋問で傷ついているのなら、どうか心も体も癒されますようにと願って天文台を見つめた。




空が黄昏の色に染まり、やがて天文台が月明かりに照らされると、ステラは地上に目を向けた。


部隊長は絶え間なくステラを攻撃している。

攻撃が防御結界に当たる度に手に持った杖がビリビリと震えるが、ヴァレン様を奪われたときの恐怖を思えばステラには怖いものなどなかった。




「《天に反逆せし者よ、汝が罪は我が裁かん。我にひれ伏せ》」



杖を地上に向けて、貴賓席や観客席には届かないように訓練場の中に魔力を込めて詠唱する。

部隊長は防御結界を張るが、ステラの魔術が込められた波は部隊長の防御をもろともせず通過していく。


魔力の波を浴びた部隊長がひれ伏すが、強靭な部隊長はその手にまだ杖を握っていた。



「《水よ、大地を潤せ》」


また地上に向けて詠唱すると瞬く間に訓練場がぬかるみ、ひれ伏す部隊長の白いローブが茶色く染まっていく。

泥がその呼吸を奪って咳き込むのが見える。


部隊長がやっと杖から手を離したのを見届けて水の魔法を解除した。




ステラが幻覚魔法で作り出した空には朝日が昇り、朝焼けの色に染まっていた。


「《天の恵みよ、大地を乾かせ》」


ステラが詠唱すると瞬く間に太陽が天高く昇り、ぬかるみを乾かして訓練場は元通りになった。




「《転移せよ》」


また地上に無詠唱で結界を張り《転移》すると、部隊長が立ち上がり、自分を《清め》ているところだった。


全ての魔法を解除すると、空はまた五月晴れの澄んだ青色に戻った。




ステラは部隊長に駆け寄って敬礼する。


「驚いた。君の実力は師団長にも匹敵する。」

「恐れ入ります、部隊長。」


部隊長がステラに笑顔で手を差し出してきたので、ステラもその手を握る。

父には敵いそうもないが、敬意を込めて頭を下げる。



二人で貴賓席に向き直って再び頭を下げると、観客席から拍手が送られる。

ステラの真っ白なローブが風に靡き、胸に留めた「英雄の証」とヴァレン様からいただいたローブの留め具の金色が、日の光にきらめいた。





ステラはそのまま貴賓席に向かった。

不敬にも国王陛下のお言葉に興味はなかったが、いずれにせよ第一王子殿下の警護に戻らねばならない。



「ステラ・アルカニス様がお越しです。」

「通せ。」


中から父の声がして扉が開かれたので入室して頭を下げる。



「面を上げよ。」


国王陛下の胸に響く声がしてステラは顔を上げて目を伏せる。


「そなたの実力は魔法伯にも劣らぬな。その才と力で国を守れ。」

「身に余るお言葉を賜り、恐悦至極に存じます。

命に懸けてこの国と尊き王家をお守りいたします、国王陛下。」


ステラがまた深く頭を下げる。

今年の幻覚魔法には興味がなかったのか、何も聞かれなかったのでほっと胸を撫で下ろした。


退出する国王陛下を頭を下げながら見送ってそのまま顔を伏せた。



第二王妃陛下と第一王子殿下も国王陛下の後に続いて静かに部屋を出る。

ステラも第一王子殿下に続こうとすると、部屋に残っていた第一王妃陛下に呼び止められた。


「ステラさん。」


その声に顔を上げると、第一王妃陛下の美しい青い瞳が潤んでいた。

ステラが驚いて固まっていると、そのまま優しく抱き締められた。



「ヴァレンを想ってくれてありがとう。」



耳元で囁かれると、天文台を見て緩んでいたステラの涙腺は決壊した。

第一王妃陛下は、ステラの魔法の意味に気付いてくださったのだ。


第一王妃陛下のお召し物を汚すなどとんだ不敬なのに、ヴァレン様への気持ちを認めてもらえた嬉しさと、鼻をくすぐる薔薇の香りに涙が止まらなくなる。



第一王妃陛下が体を離したので、ステラは慌ててハンカチで涙を拭う。


「も、申し訳ありません。」

「いいのよ。あなたが私の娘になる日を楽しみにしているわ。」


その言葉にまた涙が頬を伝う。

ステラが息を整えるまで、第一王妃陛下は優しく頭を撫でて微笑んでくださった。


やっと涙が収まったステラにまた優しく微笑むと第一王妃陛下も退出されたので、臣下の礼をとって頭を下げて見送った。





第一王妃陛下を見送った後、急いで第一王子殿下の背中を追いかける。


「お側にいられず申し訳ございませんでした。」


客席の中ほどでやっと追い付いて声をかけると第一王子殿下が立ち止まったので、ステラは慌てて頭を下げる。


「そなたの心はまだヴァレンにあるのか。」


急に聞かれて驚いて固まってしまうが、敵の前だ、とはっとして答える。


「私は第二王子殿下の近衛魔術師でございますゆえ、常に心は主君の元にございます。」


そう言って深く頭を下げる。



「顔を上げてくれ。」


なぜか懇願するような声に顔を上げると、薄い金色の瞳がステラを捉えた。


するとステラを引き寄せるようにそのまま抱き締められて、観客席の貴族が大きくざわめいた。

そのざわめきに、前を歩く第二王妃陛下も振り返ってこちらを見て驚いた顔をしている。


「殿下、お戯れはおやめください。」


ステラが胸を押し返すと体は離されたが、そのまま手を引かれて訓練場を退出した。



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