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或る武器商人の物語  作者: ぽこっち
第二章 死を売る仕事
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第七話 良い友達とは、あなたの最良の物語を知っている人。親友とは、あなたと一緒にその物語を作った人である

 それから5分も経っていない内に、オズはアリスたちの元へ帰ってきた。

 最初にオズが持ってきたのは、鈍い光を放つ巨大な斧。次に特殊な剣先をした剣。

 ガチャンと音を立ててオズが武器を壁に立てかけると、重厚な鉄の匂いが辺りに充満していった。

 ジンジンと痛む肩を擦りながらオズはノックスに向き直る。


「こいつぁ両方とも、大昔どこぞの国で処刑に使われてた形状の武器だ。敵と戦うことよりも、相手を苦しませることなく一撃であの世へ送ることに特化してるってわけ」


 客のノックスはオズの説明に対し、緊張したように頷く。


「そんな武器も売ってたんだ。でもなんかあんたが持ってた剣、昔私の家に飾ってあったやつと似てる気がするような」


 首を傾げ、考えこもうとしたアリスをポンポンとオズが手を叩いて引き戻す。


「はいはい、脱線はそこまでにして頂戴ね。今回はお急ぎのお客さんだ。昔を懐かしんでるとこ悪いが嬢ちゃん、商品の説明に戻っていいか?」


 アリスはオズを睨みつけ何か言い返そうとしたが、自らの隣で(かす)かに震えるノックスの横顔を見て押し黙った。

 深刻な空気のノックスたちをよそに、町の市場は今日も楽し気な笑い声で賑わっている。


『ノックスさんは大切な友達を殺さなくちゃいけないのに、自分たちだっていつそうなってもおかしくないのに、なんでみんな興味なさそうなの?なんで私、ノックスさん達を助けてあげられないの?』


 アリスはそんな呑気としか言いようのない市場の雰囲気と、先ほどまでまで彼らと同じで恐化病の存在すら気づかなかったうえ、オズと違ってノックスに何もかける言葉が見つからない自分自身に苛立ちを覚えた。


「分かったよ。オズワルド、さっさと続ければ」


 恨めしそうに唸ってそっぽを向いたアリスにぽりぽりと首の裏を掻きながら、オズは口を開く。


「こっちの斧はとにかく重量があって、その重さによって首を落とす仕組みなのよ。でも狙った場所を一回で切り落とすのは結構な技術が必要だから、割と玄人向けの武器にはなるね。斧だから、鋼の体積が少なくて剣より安価ではあるけど」


「そうですか……。やっぱり、苦しめないためにはそれ相応の練度がいるんですね。花屋の僕には、到底無理な話ですが……」


 目を伏せるノックスにオズはこくりと頷いた。


「そうだな。でもそれは大斧(おおおの)の話だ。もう一つの剣、一部では|エクセキューショナーズソード《処刑人の剣》なんて呼ばれたりもしてるが……こっちは斧に比べて比較的誰でも扱いやすい。まず、用途が戦いじゃないから、相手のことを突き刺す必要がないのね。だから切っ先が無くて、先端が丸かったり平らだったりする」


「へぇ」


 アリスが感心したような、でも悔しそうな複雑な表情を作る。ノックスもアリスにつられて頷いた。


「で、普通の剣みたいな切っ先が尖ってるものだと重心が手元側に近くなるんだ。この剣だと逆に重心が先端側に近くなるから、振り上げるための力こそ増すけど、その分遠心力が強くなって結果的に斬撃の威力が上がるって寸法よ。あ、そんなわけだからぱっと見片手剣に見えるけど、必ず両手で扱うように」


 以上、説明終わり。と再び手を叩いたオズ。


「あ、ありがとうございました。この二つであればまだ剣の方が、僕が扱えそうな気がします」


 おずおずとお礼を言いながら、ノックスは壁に立てかけられた剣に視線をやる。


「そんじゃあ、剣の方を手渡すから一旦構えて見てくれ。どんな重量感かは実際に触らねえと分からないことも多いからな」


 オズは剣を手に取ると、ノックスの手にそっと握らせてやった。

 ノックスは大きく深呼吸をすると、オズに教えられた通り両手で(つか)を握って持ち上げてみる。


「どうだ?」


 オズの問いにノックスは頷き、えーとですねと切り出した。


「振り上げるのに力が必要と聞いて、僕の筋力で大丈夫かと心配だったんですが、このくらいの重量感であればなんとか扱えそうです」


 先ほどまで震えていたノックスの身体も、ようやく落ち着きを取り戻してきたようだった。

 アリスはくるくると指に金髪を巻き付けながら、しかしオズたちの会話にしっかりと耳を傾けていた。


「こちらを購入したいです。おいくらですか?」


「金貨が2枚と銀貨が4枚だ」


「分かりました。今お支払いしますね」


 ノックスが鞄を開いて銭袋を取り出し渡そうとするが、それを止めたのは小さな白い手だった。


「ちょっと待ってよ!」


「?なんでしょうか?」


 アリスはノックスに向き直り、聞き返す。


「ノックスさん、本当に友達のロバートさんを殺しちゃうの?いくら親友に頼まれたからって、ノックスさんはそれでいいの?」


「おいおい、嬢ちゃん」


『営業妨害はご遠慮願うよ』


 オズは帽子の下で目を細め、アリスをたしなめようとするが、彼女は止まらなかった。


「だって、だって。人って死んで終わりじゃないから……遺された人は、寂しいんだよ」


 ノックスはアリスの言葉を聞き僅かに目を見開いた後、歯を食いしばりながら叫ぶ。


「……いやですよ。僕だって嫌ですよ!ロバートは、昔から人と関わることが苦手だった僕の唯一の親友なんです!僕が花屋を開いてからも何度も応援しに来てくれて……。そんな彼を殺すなんて、考えたくもありません!」


「ノックスさん……」


 瞬間、時が止まったような静寂が流れた。買い物をする人で賑わっているはずなのに、周囲の音が遠くなり何もない空間に3人だけが存在しているかのような錯覚を覚える。

 こみ上げてきた涙を必死に堪えるノックス。オズは心の内にやれやれと零す。


「でも、彼が言った、最後の頼みなんです。優しい彼が親友を殺した僕の負担を理解してない訳がない。それでもロバートは言ったんです。『理性を失って、お前や関わってきた奴らとの思い出が全部消えるのは絶対に嫌だ』って」


 ノックスが絞り出すように言った。固く握りしめられた彼の拳を見たオズは、黙って剣を差し出した。

 そして息を切らし立ちすくむノックスに向かい、帽子を取って頭を下げる。


「失敬。うちの嬢ちゃんが踏み入ったことを聞いて悪かったな。迷惑料だ。銀貨4枚はまけておくよ」


 オズが放った〝うちの嬢ちゃん〟という台詞に思わず顔をしかめるアリスだが、彼への反論は短く鼻を鳴らすに(とど)めた。

 ノックスはあっけらかんとオズを眺めるが、ハッとしたように息を飲むと彼に金貨2枚を手渡し、差し出された剣を受け取った。


「いえ……こちらこそです。急に叫んだりして、すみませんでした」


 オズは帽子を被りなおすと、薄い笑みを浮かべる。


「心配はご無用よ。なんせこの賑わいだ。俺たちのことなんざ誰も気にしちゃいないさ。お代ありがとうな。これにて商談成立だ」


 何度も頭を下げながら去っていくノックスを見送りながら、アリスは売れ残った大斧をしまうオズに声をかける。


「ねえ、でも私やっぱりノックスさんが心配だよ」


「ん、そう」


 空返事をするオズにアリスは言葉を重ねる。


「こっそり二人を見に行ってくるよ。ノックスさんがちゃんとロバートさんの想いを遂げられるかどうか」


「嬢ちゃんねえ……。さっき俺が言った話聞いてた?元々これは二人の問題なの。これ以上、ただの取引先である俺たちが出る幕はない。これから先は二人きりにしてやるべきだって」


 ようやく終了した本日一件目の商談だが、安くない商品が売れたのでこの町の成果にしてはまずまずといえるだろう。

 オズは欠伸をしながら昼食を何にしようか考える。この商売は、切り替えが重要なのだ。


「ほら、野暮なこと考えてないで昼飯買ってきてくれ。あ、俺ミートパイね。今朝行った屋台のが美味しそうだったからそこのがいいけど、見つかんなかったらどこのでもいいよ。嬢ちゃんのは自由に選んでくれていいけど、予算は一人銅貨3枚まででよろしく」


「なんなの、あんた私の言うこといっつも全然聞かないくせに、自分の主張ばっかりしてくるとか。そんなのでなんでお客さんが寄ってくるのか分かんないし。いつも私のこと、何かと都合つけて追い出すのも本当にありえない!」


 ぶつぶつと文句を言いながらも、アリスは銭袋を受け取って人混みの中に消えていく。


「さーてと、この様子だと午後は一体何組のお客さんが来てくれるやら……」


 オズは店の裏に回ると、頬杖をついて今回の旅での売り上げを計算し始めた。

今回のエピソードタイトルは【作者不明】です

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