第81話:トロフィーとスコーンと、きらめく明日
眩いゴールドの紙吹雪が、アリーナの天井から容赦なく降り注ぐ。
ステージの最高峰に設置されたお立ち台。その中心には、世界王者の証である重厚なガラストロフィーが、ライトを浴びて青白く輝いていた。
「――さあ、万雷の拍手でお迎えください! 新たな伝説の始まりだ! 世界王者の称号を掴み取ったのは、日本代表――Trinity Raidッ!!!」
ジャックの絶叫と共に、割れんばかりの歓声が三人を包み込む。
レイ、ねね、ほむらは、お互いの手をしっかりと握りしめながら、一歩ずつその階段を上っていった。
「重っ……! っていうか、本当に私たちがこれ、掲げちゃっていいんだよね!?」
ねねが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、トロフィーの持ち手に手をかける。
「当たり前でしょ。私たちが力ずくで捥ぎ取ったんだから」
ほむらがいつになく誇らしげに胸を張り、眼鏡の奥の瞳を潤ませる。
「……みんなで、掲げよう」
レイが微笑み、三人の手が重なる。
せーの、の合図で頭上へと高く掲げられたトロフィー。その瞬間、フラッシュの嵐が彼女たちの最高の笑顔を世界中のモニターへと焼き付けた。
ステージの袖では、コーチ席から見守っていた葉月が、腕を組んだままフッと優しく目を細めていた。かつて絶望し、一度は捨てたはずの「明日」の景色が、今、目の前でこれ以上ないほど眩しく輝いていた。
激動の表彰式とメディアの取材をすべて終え、ホテルの自室に戻る頃には、ロンドンの夜はすっかり更けていた。
ドアを閉めた瞬間、三人は糸が切れた人形のように、ベッドへと同時に倒れ込んだ。
「疲れたぁぁぁぁ! でも、最高に気持ちいい!!」
ねねが枕に顔を埋めながら足をバタバタさせる。
「本当にね。人生の運を全部使い果たした気分だわ……」
ほむらが天井を見つめながら、心地よい疲労感に浸る。
そんな時、三人のスマートフォンの共有チャットが、賑やかに通知を鳴らした。
画面を開くまでもない。差出人は、日本から一睡もせずに配信を見守っていたであろう、あの人だ。
ノートPCを立ち上げ、通信を繋ぐ。画面に現れたMintyは、すでに号泣したあとらしく、鼻を赤くしながら、それでも満面の笑みでクラッカーを鳴らした。
『みんな、本当におめでとうーーー!!! 私、最後の1対1のとき、心臓が止まるかと思っちゃった! 今も日本中のファンが、お祭り騒ぎで大盛り上がりだよ!』
「Minty姉! 見ててくれたんだね!」
ねねが画面にすり寄る。
「ありがとう、Minty。……私、二人が繋いでくれた音を、最後まで信じて撃てたよ」
レイが少し照れくさそうに笑うと、画面の向こうでMintyがまたぽろぽろと涙をこぼした。
『うん、伝わった。画面越しでも、三人の音がひとつになってるの、ちゃんと聴こえたよ。……あ、そうだ! ハヅキは? あいつ、ちゃんとみんなを褒めてくれた?』
「あ、コーチなら……『よくやった、お前たちが世界で一番かっこいいプレイヤーだ』って、頭を撫でてくれましたよ」
ほむらが少し悪戯っぽく報告すると、Mintyは一瞬驚いたように目を見開き、それから本当に嬉しそうに、何度も何度も頷いた。
『そっか……。あいつにそんな顔をさせてくれて、そんな言葉を言わせてくれて、本当にありがとうね。……よし! 湿っぽい話はここまで! 約束通り、あと10分だけ女子会しよ?』
「あ! そういえばね、Minty姉! 昨日リベンジで頼んだルームサービスのスコーン、今日はちゃんとサクサクで美味しかったんだよ!」
「ちょっとねね、世界一になった直後の最初の話題がスコーンってどうなのよ……」
「いいじゃない、お腹空いたんだもん!」
クスクスと笑い合う三人の声が、通信回線を通じて日本へと響いていく。
世界王者になっても、彼女たちの本質は何も変わらない。不格好で、お喋りで、どこまでも愛おしい三人の旋律。
夜の静寂の中、レイは窓の外のロンドンの街並みを見つめながら、そっと胸に手を当てた。
明日、日本に帰れば、また新しい日常が始まる。
だけど、もう何も怖くない。自分を現実に繋ぎ止め、未来へと引っ張ってくれる最高の仲間と、信じてくれるコーチが、いつも隣にいるのだから。
「……行こう。私たちの、次の『明日』へ」
三人の絆は、世界で一番美しく調和していた。




