第79話:狂騒のデッドヒート
世界大会は、そこから歴史に残り続ける「二強」の壮絶な殴り合いへと突入した。
第5、第6、鎖して第7マッチ。戦況は目まぐるしく変化し、アリーナのボルテージは常に限界を超え続けていた。驚くべきは、初戦で計算を狂わされたBlack Lotus――マキナの変貌だった。
彼はTrinity Raidの「絆」を、ただのバグとして排除するのをやめた。その不確定要素すらも飲み込み、ヴィクターの圧倒的な個の暴力と融合させる、新たな凶暴な数式を組み上げてきたのだ。
『――Black Lotus、この土壇場でスタイルを完全にアジャストしてきた! ヴィクターがTrinity Raidの変則的なリズムを真っ向から受け止め、叩き潰していく!』
一方のTrinity Raidも一歩も引かなかった。ねねが最前線で命を削るように敵の意識を奪い、ほむらが神懸かり的な精度でカバーの弾道を走らせる。そしてレイが、戦場に響くすべてのノイズを調和させ、勝利への最短ルートを撃ち抜いていく。
激突するたび、互いの銃口が肉薄し、互いのヘルメットが弾け飛ぶ。かつてのように冷徹に敵を蹂躙するのではない。今のBlack Lotusは、マキナは、Trinity Raidを「自分たちの全知を脅かす唯一の宿敵」と認め、その上で全力でねじ伏せにきていた。
1キル、1順位ポイントを巡る執念の削り合い。その果てに、第7マッチが終了した瞬間――スコアボードに、ついに歓喜と戦慄の灯火が灯る。
【第7マッチ終了時・総合スコア】
1位:Black Lotus(104pt)→ [MATCH POINT ENABLED]
2位:Trinity Raid(101pt)→ [MATCH POINT ENABLED]
3位:Valkyrie(89pt)
―― 100pt到達でマッチポイント(MP)点灯 ――
『――点いたッ!!! 両チーム同時に100ポイント突破! Black Lotus、そしてTrinity Raid、ダブル・マッチポイント点灯ですッ!!』
ジャックの絶叫に、アリーナ全体がひっくり返るような大歓声で応える。
ついに、世界王者の条件は整った。
ルールは至ってシンプル。このMP点灯後に「チャンピオン」を取ったチームが、その瞬間に世界王者としてすべてを戴く。他チームの優勝の可能性が消滅した今、この第8マッチは、二強のどちらかがドン勝をもぎ取って決着をつける、正真正銘の最終決戦となった。翌日への順延などない。今日、この戦場で、どちらかが王座を掴み、どちらかが地獄へ落ちる。
その事実が、選手たちの肩に、かつてない重圧となってのしかかる。
ブースのガラス越しに、二つの影が交差した。マキナはもうタブレットを見ていない。その目はただ、モニターの向こうの戦場だけを凝視している。ヴィクターは、静かに己の指を鳴らし、かつてないほど鋭い闘志をその瞳に宿していた。
「……ねえ、二人とも」
ヘッドセット越しに、レイが静かに、しかし最高に楽しそうな声で語りかける。
「聴こえるよ。Black Lotusの音が、今はすごく熱い。私たちのことを、全力で潰しにくる音」
「ふん、上等じゃない。世界のトップが、私たちの不協和音に本気で付き合ってくれてるんだもの。最高のステージで、最高の引導を渡してあげるわ」
ほむらが不敵に微笑む。
「うん! もう怖くなんてないもん! レイ、ほむらちゃん、ラストいっくよーー!」
ねねが拳を突き出す。
ブースの後方で、葉月は腕を組み、三人の背中を見つめていた。
かつて自分たちが辿り着けなかった、その先の景色。歪で、不格好で、だけど何よりも美しい音楽が、今まさに完成しようとしている。
『――泣いても笑ってもこれが最後の戦いだ! 世界最強の称号を掴むのは、過去を統べる王者の数式か、未来を切り拓く三人の旋律か! 運命の最終マッチ、カウントダウン、スタートッ!!!』
全ての因縁を乗せた輸送機が、ロンドンの空へと飛び立った。




