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第41話:三つ巴の胎動、頂きへの距離

 第2マッチ、第3マッチ。

 公式配信のチャット欄は、Trinity Raidへの疑念から戦慄へと塗り替えられていた。

『安置運がいいだけだろ』

『いや、移動のタイミングがおかしい。接敵を完全に避けてる』

 そんなノイズをよそに、彼女たちは「地を這う」戦術で確実に順位を上げていた。

 第2マッチ開始前のインターバル。葉月の指示は簡潔だった。

「……いいか。撃ち合うな。安置の『縁』を這え。敵がやり合っている音を、自分たちの進路を決めるメトロノームだと思え」

「……はい、コーチ!」

 通信が切れる。ここからは彼女たち三人の判断だ。

 第2マッチ。他チームが有利な高台を奪い合い、派手な銃撃戦を繰り広げる中、Trinity Raidの三人は遮蔽物から遮蔽物へ、まるで影のように移動した。

「今よ、レイちゃん。あそこの岩陰! 敵がリロードしてる隙に!」

「了解、ほむらちゃん! ……隠れて移動!」

 葉月が教えた「射線を切る角度」を忠実に守り、一発も撃たずに安置の最深部へと滑り込む。

 結果、疲弊した他チームを最後に漁る形で、2位入賞。

 続く第3マッチ。

 今度は、建物に立てこもる彼女たちを二チームが包囲した。

(――パニックになるな。窓から顔を出すな。『音』だけで敵の配置を上書きしろ)

 脳裏に響くコーチの言葉。ほむらが微かな足音から敵の突撃タイミングを割り出し、ねねがドアの隙間から正確に投げ込んだグレネードが炸裂する。

 崩れた包囲網を、レイがサブマシンガンで一気に食い破った。

 [ MATCH 2 :2nd ]

 [ MATCH 3 : 3rd ]

 二試合連続の上位入賞。

 ついにリーダーボードの頂点に、三つのチームが並んだ。

 王者REIGN。

 圧倒的なフィジカルでなぎ倒してきた強豪Valkyrie。

 そして、無名の新人Trinity Raid。

 インターバルに戻った三人を、葉月の低い声が迎える。

「……100ポイント到達だ。次でチャンピオンを獲ったチームが、総合優勝になる」

 マッチポイント点灯。

 画面越しでも伝わる、レイの指先の震え。

「……レイ。あいつら(Valkyrie)は、お前たちの『弱さ』を狙ってくる。だが、忘れるな。お前たちの『弱さ』こそが、あいつらの正解を狂わせる唯一の武器だ」

 運命の最終マッチ。

 日本一を決める戦場へ、三人は再び、静かな闘志を燃やしてダイブした。

 運命の最終マッチ。

 生存チームは残り3。マッチポイントを点灯させた王者REIGN、圧倒的火力のValkyrie、そして無名の新人Trinity Raid。この中の誰かがチャンピオンを獲った瞬間、日本代表の座が決定する。

 公式配信の同時視聴者数は、ついに100万人を突破した。

『決着の時です! 日本一を決める三つ巴、極限の睨み合いだ!』

 最終アンチ。遮蔽物はわずかな岩場と、大破した車両の残骸のみ。

 葉月の自室。マイクは切れているが、彼は祈るように画面を凝視していた。

(……耐えろ。自分から動くな。REIGNとValkyrieがぶつかる『音』を待て)

 静寂を破ったのは、Valkyrieによる強引な仕掛けだった。

 REIGNの盤石な守りを、火力の暴力で抉じ開けにかかる。

(今だ……! 私たちが、世界に行くんだ!)

 レイの胸に、かつてない高揚が走った。敵の注意が逸れた絶好のタイミング。彼女は葉月に教わった「死角からの強襲」を完遂しようと、遮蔽物から飛び出した。

 だが、その一歩が、わずかに早すぎた。

「あ――」

 レイの足元で、REIGNが残したクレイモアが炸裂した。

 爆音と火花。一瞬の硬直。その「隙」を、Valkyrieのエース、Johanは見逃さなかった。

 タタタッ! と乾いた銃声が響き、レイのアバターが膝をつく。

「レイちゃん!?」

「……しまっ、ごめん、二人とも……!」

 崩れる連携。ねねとほむらが必死の抵抗を見せるも、数の有利を得たValkyrieの猛攻に、防波堤は呆気なく決壊した。

 [ Valkyrie THE CHAMPION ]

 画面に躍り出た、残酷なまでの黄金文字。

 Valkyrieのメンバーが優勝の咆哮を上げる一方で、Trinity Raidのボイスチャットには、重苦しい静寂と、鼻をすする音だけが流れた。

「……ごめん。私のせいで、1位……総合優勝できなかった……」

 レイの、消え入りそうな声。

 だが、その沈黙を切り裂いたのは、公式実況の絶叫だった。

『決まりましたぁぁ!! 総合優勝はValkyrie! そして準優勝、Trinity Raid! この二チームが、日本代表として世界大会への切符を手にしました!!』

 その言葉に、ねねが、ほむらが、そしてレイが息を呑む。

 準優勝までが、世界への招待枠。

 切符は手に入った。しかし、レイの瞳から溢れたのは、安堵ではなく悔し涙だった。

 葉月はマイクをオンにし、いつもの冷淡な、だがどこか熱を帯びた声で告げた。

「……泣いている暇はないぞ。準優勝、立派な結果だ。お前たちは今日、間違いなく日本を震撼させた」

「……コーチ。でも、私……」

「お前のあの時の判断自体は、『正解』だった。ただ、プロの『罠』を読み切る経験が足りなかっただけだ。……喜べ。その足りない経験を、世界一の連中に直接叩き込んでもらう権利を得たんだ」

 不器用な肯定。

 レイは涙を拭い、力強く頷いた。

「……はい! 次は、絶対にミスしません。世界大会、全部勝ちに行きます!」

 窓の外、夜明けの光が差し込む。

 世界最弱と蔑まれた日本。その「正解」を上書きする本番は、ここからだ。

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