第38話:一秒先の正解
[ TR_Nene knocked down REIGN_Ace ]
静まり返る会場。
王者の盾が割れた。その衝撃は、モニター越しに見守る数万人の視聴者に、一瞬の「奇跡」を予感させた。
「――慌てるな。ラインを下げろ」
だが、Captainの声はどこまでも冷徹だった。
相方を落とされた動揺をコンマ数秒で切り捨て、彼は即座に岩陰から後退。生存二人となったREIGNは、TRの突撃ルートを冷静に「L字」で挟み込む布陣へと移行する。
「……っ、流石に早い!」
ほむらが歯噛みする。
突進の勢いは死んでいない。だが、王者の引き際は鮮やかすぎた。このまま深追いすれば、今度は自分たちがクロスレンジ(十字砲火)の餌食になる。
リソースの底が見えた。
対するREIGNは、万全の装備とポジション。
実況席のボルテージが最高潮に達する。
『Trinity Raid、弾が足りない! 奇策で穴は開けましたが、王者の本陣はまだ崩れません! 万事休すか――!?』
その時。
二人の耳に、かつて葉月が言った「最期のレッスン」が蘇った。
『いいか。王者は常に「正解」を選ぶ。リスクを排し、最も勝率の高い択を、機械のように選択し続ける。……それが奴の強さであり、唯一の弱点だ』
「……ねねちゃん。一か八か、やってみる?」
ほむらの問いに、ねねが不敵に笑う。
「……ん。センセーの言った通りにする」
二人は、あえて射線の通る開けた場所へ躍り出た。
Captainの銃口が、吸い込まれるようにねねの頭部を捉える。
(甘い。そこは私の「正解」の範疇だ)
Captainが引き金に指をかけた、その瞬間――。
ねねが「屈伸」した。
ただの回避ではない。FPSにおいて、一瞬だけ視点を下げることで、ヘッドショットの判定を強制的にずらす高等テクニック。
パシュッ、とCaptainの弾丸が空を切る。
「な……っ!?」
王者が初めて、操作をミスした。
外すはずのない弾を外した。その「正解の崩壊」が、Captainに一瞬の硬直を生む。
その隙を、ほむらは逃さなかった。
彼女が狙ったのは、Captainではない。
――Captainの足元にある、「自分が先ほど捨てた無人の車」のガソリンタンクだった。
轟音。
爆発が、王者の視界を炎と爆風でジャックする。
「……『正解』を、上書きしてやる」
炎の中から飛び出したのは、ねね。
リロードすら間に合わない彼女は、銃を背負い、腰に差した「フライパン」を握りしめていた。
目潰しの爆風。リロードの隙。ゼロ距離。
王者の計算式に存在しない「野生」の一撃が、Captainのヘルメットを叩き割った。
[ TR_Homura knocked down REIGN_Sniper ]
[ TR_Nene killed REIGN_Captain ]
[ TEAM : REIGN WAS ELIMINATED ]
『……決まったぁぁぁーーー!! Trinity Raid、王者を完封! 伝説のコーチが授けたのは、理論を超えた「泥仕合」の美学だぁ!!』
暗いコーチ席。
葉月は、ゆっくりと天を仰いだ。
「……バカ野郎。あんなの、教えた覚えはないぞ」
そう呟く彼の瞳には、少しだけ、誇らしげな光が宿っていた。




