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第32話:正解の証明

 第3マッチ、 Trinity Raid は惜しくもチャンピオンこそ逃したものの、島からの精密な狙撃と安地外からの非情な追走により、目標を上回るキルを稼ぎ出し、総合3位でフィニッシュした。

 この結果、彼女たちの合計ポイントは 100 を突破。

 ついに、第4マッチ以降で「チャンピオン」を獲った瞬間に優勝が確定する、真のマッチポイントが点灯した。

 第4マッチ直前のブリーフィング。

 全チームが血眼(ちまなこ)で TR 対策を練り、殺気立つロビー。だが、三人のヘッドセットに届いたのは、意外すぎる言葉だった。

「……。……。……。……特に言うことはない。……。……。……。……楽しくやれ。……。……それだけだ」

 カチャリ、とマイクが切れる音。

 拍子抜けしたような沈黙の後、レイが、ほむらが、そしてねねが、モニター越しに不敵な笑みを漏らした。

 縛るものは、もう何もない。

 ただ、自分たちの「正解」を戦場に刻みつける。その本能だけが、三人の指先に宿っていた。

 ハッチオープン。

 全チームが TR のランドマークである孤島や、激戦区のミリタリーベースを注視する中、三人の影は、誰一人として降下予定のないマップ端の小さな集落へと滑り出した。

『……。……。……。……ここなら、誰にも邪魔されずに「準備」ができるわね。……。……。……さあ、世界を終わらせに行きましょう』

 ほむらの冷徹な号令。

 初動から、彼女たちの位置を特定した下位チームとの激しい近接戦闘を強いられたが、今の彼女たちにとってそれは「調整」に過ぎなかった。

 弾丸を奪い、地形を利用し、襲いかかる刺客たちを次々と返り討ちにしていく。



 

 ――そして、運命の最終局面。

 第6パルスの収縮。

 遮蔽物のほとんどない平原に、生き残ったのはわずか 4チーム。

 

 王者 REIGN 。

 知略の ASTRA 。

 暴力の 『鬼神』 。

 そして、死神 Trinity Raid 。

 

 安地の直径はわずか 50メートル。

 互いの息遣いすら聞こえそうな距離にありながら、四つの怪物は、一発の銃声すら響かせなかった。

 牽制すら、もはや無意味。

 動けば、他の三方向に喰われる。

「……。……。佐藤さん、この沈黙……。……。……誰も、引き金が引けない! 全チームが互いの『正解』を読み合い、完全に盤面が凍りついています!!」

 実況の田中が、息を呑んで戦況を見つめる。

 ジリジリと、背後から迫るパルスの青い光。

 死の境界線が、四チームの背中を等しく焼き始める。

『……。……。……。……。……。……来るわよ。……。……。……。……パルスに飲まれるのが先か、誰かが「正解」を書き換えるのが先か……』

 ほむらの囁きと共に、戦場に究極のカウントダウンが刻まれ始めた。

 最終パルスの収縮開始。青い光が迫り、ついに 『鬼神』 が堪らずに飛び出した。一瞬で静寂が弾け、四方八方から火線が交差する。

「撃て! 始まったぞ!!」

「TRを殺せ! ポイントトップのあいつらを先に落とせ!!」

 ――ドォォォォン!!

 岩陰を狙った精密なグレネードが炸裂し、爆風が三人を見舞った。

 [ ASTRA_Leader knocked down TR_nene ]

 [ ASTRA_Leader knocked down TR_Homura ]

『……きゃあぁぁっ!!』

『……、……しまっ……。……。……レイちゃん、……カバーを……!』

 膝をつく二人。レイは咄嗟にスモークを焚き、二人を蘇生させるべくその体を引き寄せた。

「……大丈夫、今助ける! ほむらちゃん、ねねちゃん!!」

 レイの手が、仲間のアバターに触れた、その刹那。

 ――ッパァン! ッパァン!

 立ち込める煙の、わずかな隙間。

 王者 REIGN の狙撃手が放った冷徹な追撃が、無防備な二人のヘルメットを正確に撃ち抜いた。

 [ REIGN_Sniper killed TR_Nene ]

 [ REIGN_Sniper killed TR_Homura ]

 蘇生ゲージが消え、二人のアバターが、物言わぬ黒いボックスへと変わる。

「……。……。……ぁ……」

 レイの指先が、空を掻いた。

 一週間、寝食を忘れ、共に泥を啜り、怒鳴られ、泣きながら「正解」を追い求めてきた仲間。その二人を、目の前で文字通り「消された」のだ。

『……。……。……レイちゃん……、……あとは、任せたわ……』

 ボイスチャットに消え入るような、ほむらの最期の声。

 その瞬間、レイの中で、何かが音を立てて千切れた。

「……。……。……。……。……楽しくやるよ、ほむらちゃん。……。……地獄を、見せてあげる」

 レイの瞳から、光が消えた。

 代わりに宿ったのは、一週間で 10万発の弾丸を撃ち込んで研ぎ澄ませた、純粋な殺意のロジック。

 パルスダメージで視界が赤く染まる中、レイは岩陰から「消失」した。

 ――ッパァァァン!!

 まずは確殺を入れた REIGN の狙撃手を、空中で吸い込まれるようなヘッドショットで沈める。

 [ TR_Rei killed REIGN_Sniper ]

 着地と同時に反転。 『鬼神』 のリーダーが銃口を向けるよりも 0.1秒早く、腰だめのフルオートがその胸を抉り取った。

 [ TR_Rei killed KISHIN_Aka ]

「……化け物か!? 11位、一人残ってまだ止まらない!!」

 実況の田中が絶叫する。

 最後の一人。王者 REIGN のリーダー。

 互いにリロードの時間はない。レイは迷わず、サブ武器の拳銃を引き抜いた。

 ――ッパァン!

 パルスの「死」が彼女の体を飲み込む、まさにその0.1秒前。

 レイが放った最後の一発が、王者の眉間を撃ち抜いた。

 [ TR_Rei killed REIGN_Captain ]

 [ Trinity Raid THE CHAMPION ]

「決まったぁぁぁぁーーーーーー!! 1位、 Trinity Raid ! 大逆転のチャンピオン!! そして、本選AvsB総合優勝だぁぁ!!」

 スタジオの実況、田中が椅子を蹴り飛ばし、マイクが割れんばかりの声で絶叫した。

「信じられません! 仲間二人が目前で確殺され、絶体絶命の一対三! そこから一人で王者たちを屠り去りました!! 佐藤さん、今の! 今のエイム、見ましたか!?」

「……。……。……言葉が、出ません。パルスダメージで視界が真っ赤に染まる極限状態。そこで一発の無駄弾もなく、すべての敵の頭部だけを正確に貫いた。……これはもはや、競技の域を超えた『処刑』ですよ……っ!!」

 解説の佐藤も、興奮で震える拳をデスクに叩きつけていた。

 配信の同時視聴者数は 35 万人を突破。チャット欄は、もはや判別不可能な速度で流れる「TR!!」「死神!!」「伝説誕生!!」の文字で真っ白に埋め尽くされている。

『……嘘だろ、一人で全員捲りやがった!』

『鳥肌が止まらない。……これ、本当に人間が操作してるのか!?』

『「逃亡中」とか言ってた奴ら、全員土下座しろ!! 本物の「怪物」が現れたんだ!!』

 各自室。

 レイは、汗で滑るマウスからそっと手を離し、深く、深く吐息を漏らした。

 ほむらは震える指先で眼鏡を直し、ねねは、「やったぁぁぁ!!」とモニターの前で言葉にならない泣き声を上げている。

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