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風に溶けた詩  作者: karon


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13/18

森の中

 アリスの背筋は凍っていた。とてもとても嫌な目をしてメイフェザーはアリスを見ていた。

 表面上は優しそうな顔に見えるけれど、妙な卑しさを感じる。

 アリスは後ずさった。

 エイミーは黙ってアリス達を見ている。

「エイミー。マティルダが呼んでいたから居間に行って」

 エイミーを守らなければ、まずエイミーを何とかここから遠ざけよう。

 エイミーが母屋のほうに歩いていくのを確認した後アリスはとっさに駆け出した。

「おい、待て!!」

 男の怒号が聞こえた。その声に背を押されてアリスはそのまま走り続ける。

 そのまま森に逃げ込んでしまう。森に入ったら家の見えない場所まで行ってはいけないと言い含められていたがその時はそんなことは吹っ飛んでしまっていた。

 アリスはそのまままっすぐに駆けていった。

 森の中、今まで来たことのない場所まで駆けていってしまった。

 小柄なアリスは木の隙間や障害物を飛び越えて必死に走る。徐々に周囲が薄暗くなっていくのにも気づかずに。

 徐々に周囲の木が太く苔むしていた。そして音が消えた。

 アリスは立ち止まり周囲を見回す。

 森の入口より、だいぶ薄暗い。

 鳥の鳴き声も聞こえない。まったくの無音だった。

 それに違和感を覚える。森の中心はもっと鳥がいるはずだ。

 アリスは周囲を見回した。戻ろうと思ったけれどまたあいつが来るかもしれない。

 アリスは周囲をきょろきょろと見まわす。

 がさがさと草木をかき分ける音とともに誰かが近づいてくる気配がある。

 アリスは肩をはねさせた。

 歌が聞こえた。いくつもの声が重なる合唱。言葉は聞き取れない、ただ旋律だけがアリスの耳に届く。

 それは美しいが。アリスにそれに聞き入る余裕はなかった。

 アリスはその歌をしばらく聞いていたが音の方向を探った。

 明らかに複数の人間の合唱のように聞こえるのに人の気配はない。

 幾つもの単語が聞き取れたのだが前後の言葉が聞き取れないので意味が理解できない。

 だけどそれでもアリスは声の聞こえる方向を確認してその方向に向かって歩き始めた。


 メイフェザーは舌打ちした。障害物の多い森の中では小柄なアリスのほうがはるかに素早く進むことができる。

 アリスは明らかに何か知っている。だからこそ自分から逃げたのだ。

 自分がどれほど異常な顔をしていたのか全く理解していなかった彼は自分の思い込みを強めた。

 とにかくアリスの行方を追っていく。

 エイミーがマティルダのもとに行ってアリスがメイフェザーに追いかけられて森に入ってしまったと伝えたところでこの客人の妙な行動にこの家の使用人は心を一つにして全員主のところに注進に行ったことも分かっていなかった。

 そんな背後の状況を全く理解せずメイフェザーは森の中を進んだ。

 都会向きの細身の靴は森の中を進むには向いていない。アリスは駆け足だったのでだいぶ引き離されたようだ。

 森の中で彼は異変に気付かなかった。


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