丘の上
アリスは退屈していた。さっきまでディアレストのしっぽを捕まえようとするエイミーを見ていたのだがエイミーも捕まえられないままそれに飽きてしまった。
細長い尻尾をディアレストは振っている。
リガードは手の届かない木の上でゆったりと眠っていた。
不意に聞こえてきたハミング。どこか聞き覚えのある曲調。
アリスはとっさに振り替える。
心ここにあらずといった風にメアリーが呆然とたたずんで歌を口ずさんでいた。
「どうしたの」
メアリーが歌うなんて珍しい。アリスは不思議そうにメアリーを見ていた。
「私は何を忘れているの」
不意にメアリーは歌いやめて呟く。
何か思い悩んでいるような顔をしていた。
「どうしたの?」
メアリーはアリスを見て何かから我に返ったような顔をしていた。
「何かを忘れている気がするの」
「何かって?」
メアリーは胡乱な目をしてアリスを見た。そして苛立たしげに爪を噛んだ。
「いいわよ、あんたには関係ない」
そう言ってメアリーは踵を返して家の中に駆け込んでしまった。
「どうしたんだろ」
アリスが首をかしげる。エイミーは不意に上を見上げた。つられてアリスも上を見る。
「デイジー」
デイジーはいつの間にか木の上にいた。リガードのしっぽをしっかりとつかんでいる。
「デイジー、危ないよ」
デイジーは音もなく木から飛び降りた。
デイジーは丘を指さした。
アリスはあの奇妙な遺跡のある丘に何があるのだろうと思う。
「デイジー、どうしたの」
デイジーはそっとアリスのエプロンドレスに顔をうずめた。
「とても怖い、怖いことが起きる」
言葉の意味とは裏腹に抑揚のない声だった。
「お父様が言っていた、あの丘には古代の詩が溶けていると」
古代の神官があの丘で捧げた古代の忘れられた神に対する忘れられた詩。
そう父親はその詩がどんなものだったのか時折村に伝わる古い歌などを調べていた。
いくつか候補はあるのだけれど覚信には至っていない。
「これから何か起きるの?」
デイジーはいつになく怯えているように見えた。
「アリス」
デイジーはアリスの目をはっきりと見ていった。
「行ってはいけない、あの丘は行ってはいけない場所」
こんなデイジーは初めてだった。アリスはデイジーの目をのぞき込んだ。
その時木の上にいたリガードがアリスの頭の上に落ちてきた。その衝撃でアリスは思いっきり勢いをつけて倒れこんだ。
「あ、たあーうううう」
言葉にならない呻き声、エイミーもぽかんとした顔で地面に伏せたアリスを見ていた。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
アリスの頭上から声が降ってきた。
メイフェザーは地面から顔を上げたアリスをのぞき込んだ。
「だ、大丈夫です」




