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第十一章・暗い所で拾い物

「なるほど、これはたしかに変なもんだな」

「でがしょ?」

 枯れ井戸の底、ランタンに火をともして暗がりを照らすイルシアはなるほどとうなづいた。脳筋の案内で井戸の底におりると、石組みが崩れて奥の空洞に崩落しているのがわかった。奥にはなにがあるかというと…とりあえずなんらかの通路と思われるその古びた石組みの隙間に、女物のあでやかな髪飾りがきらりと落ちていた。

 ついでに周辺を捜索すると、長いこと使われず、細かいちりや砂で覆われた床にてんてんと小さな足跡があった。その足跡の上にはほこりもつもっておらず、かなり新しい足跡だということがわかった。

「なにかというよりあれだな、王妹の足跡だな」

 イルシアは髪飾りの細工の上等さをさわって確かめ、こんだけ状況証拠がそろっていてこれがただの村娘の足跡とかだったらそんな世界とは進んでおさらばしたいと思った。

 イルシアは枯れ井戸の上で待機している部下たちに下から声をかけた。

「どうだ?雨は降ってきたか?」

「いえ、まだです。ですが秒読みです」

「雨で足跡が消える前にたどるぞ。誰か明かり持ちについて来い…そういえば、うちの部隊にはこういう追跡が得意なやつがいたな、レンジャー資格を持ってるとか。そいつはどうしてる?」

「あいつならナタデココを探しに南方へ向かう船に乗るため港まで行きました」

「肝心なところでクソ使えない部下もいたものだ」

 フリーダムな命令をだした自分を棚に上げて苦い顔をするイルシア。

「まあ、追跡スキルなら猟師出身のヤツでも十分だろう。王宮からの距離を考えればそう先まで行くこともないだろうしな…」

 死ぬ気で逃亡する王妹の移動能力をやや楽観的に見積もって、イルシアはそう結論付けた。実のところ迷宮の入り組んだ通路を抜けた王妹の移動距離は直線に換算するとかなりのものとなる。パニックのバッドステータスは逆に言えば火事場のクソ力的な働きをするため、集中が切れた後の疲労はハンパないかわりに常識外の能力を発揮する場合が往々にしてある。

 しかしそんな事情などつゆ知らぬイルシアらはこの先すぐにでも王妹が見つかるだろうとの予測で穴の奥へと向かった。

「それにしてもこの地下道はそもそもなんだ?ずいぶん古いものではあるようだが…」

 古くて現在使用されていないことは確かなようだが、そもそも人気のない森の地下に石組みの通路がある時点でかなり奇妙だ。上水や下水などに使用するのであれば市街地の地下に作るはずだ。王都が砂漠地帯であればまあ遠くから水を引くこともあるかもしれないが、市中を川が流れているのにわざわざ遠くから水を引いてくることはない。

「これは、遺跡関係かもしれませんね。建築素材がレンガではなくて、砂漠の向こうで取れる珍しい玉石を使ってます。あの石をここまで規則的に整形する技術はすでに失われて久しいのに、ここではふんだんに使われていますから…」

「なるほどな…遺跡か。だが遺跡なら遺跡でまた面倒だな。たしか地元民がここらに来ないという報告は上がってきていた。それの理由が整備されてない遺跡が近くにあるからだとすれば納得はいくな。その遺跡はここからおよそどのくらいの位置にあるのか正確なところが分かればな…。まかりまちがって王妹がそこまで逃げ延びたとしたら、捜索する側からするとかなりの不利だな」

「入らずの森と呼ばれる区域が南西の森の奥にあるのですが…」

 王都周辺の地理に詳しい部下の一人が口を開く。

「一応その森の奥に通称池の遺跡と呼ばれるものがあるそうです。名前の由来まではわかりませんが、地元民の話ではほかの遺跡より危険なのだそうです。ですから立ち入るものもおりませんし、詳しいことはわかりません」

 先行きの不安が出てきたことで、なんとなくその場に沈黙が落ちる。

「…どうも雲行きが怪しくなってきたな。いや、地上の天気のことじゃないが」

「それに同意しつつ、地上の雲行きもすでにもうタイムリミットかと存じます」

 ランタンを掲げ、岩肌に触れるとじっとりとした湿気が感じられる。地上ではすでに雨が降り始めているものとみて間違いはないと思われる。雨の規模にもよるが、この地下の構造が未知である以上、危険は冒せない。

「ここまできて決定的な収穫はなしか…」

 イルシアは髪飾りを握り締めて嘆息した。

「雨が通路に流れ込んでくる危険、そして謎の遺跡に近づく危険…。だがここであきらめてしまえば手がかりは失われてしまう」

「申し訳ありません、われわれがもう少し早く王妹の手がかりを発見できていれば…」

「悔やむな、努力ではいかんともしがたいことがある。たとえばうっかり王妹の逃走ルートにつながる枯れ井戸に落っこちるとか…。ふむ、考えてみればちょっとした僥倖がわれわれを見舞ったともいえるな。少なくともここを王妹が通過した可能性が高いことがわかった。それがわかっただけでもよしとしよう」

「では?」

「うむ、引き返すぞ」

 実のところ、王妹の現在地は枯れ井戸から一キロと離れていなかった。イルシアがあと小半時も捜索を続けていれば見つかっていたはずの、ほんの彼らの目と鼻の先にいたことになる。

 王妹は自分の首の皮が運命の女神の気まぐれで皮一枚つながったことも知らず、叩きつけるように降り始めた雨に毒づくのが精一杯であった。

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