第10話「我ラ裏生徒会ナリ 其之壱 護国神像・大和」 Aパート①
「突然だが、本日は全校集会があるからみんな準備してくれ」
担任の一言に、ヨシノは少し身を乗り出す。
予定のない集会から想起されるイメージといえば、よからぬ事件や事故の話題。
他のクラスメイトの心象風景までは分からないが、ヨシノの内側の世界が再生するのは、
そんな凶兆である。
「嫌だな〜……なんだかすごく怖いんだけど」
「ヨシノさんなら普段はもっと恐ろしいもの、体験してるでしょ」
ルミナキャストとのそれとこれとは違うと言うか……。賢界の無邪気な茶々が、
体育館へ向かう気怠い行進の中のコントラストとして、
ヨシノの重い足取りも少しばかり軽くなる。イーヴィルの件が異常だっただけで、
やっぱり良い友人なのかもしれない。
「そういえば私、ルミナキャストへの脚本コンテスト、送ってみたの。楽しみだわ」
「ゲエ!」
もっと恐ろしいものを体現してくるはこの少女。聞いたこともない大会。
相変わらず宇宙との交信が可能であることと、まだまだ番組に干渉する意欲が、
誰よりもマンマンであること。その目の輝きが物語る。しかも、
お小遣いと言う非正規のルートで番組を買収する可能性も未だ残る中。
次の爆弾が投げ込まれないことを祈りつつ、体育館で整列するヨシノと、
そのクラスメイトたち。どんな話題が壇上で飛び出すのかと、
にわかに体育館全体がざわつく。
「諸君、これより集会を開始する」
そんな群れるような喧騒を掻き消すように。唐突な宣言が、静寂へと上書きする。
いつの間にか壇上に立っていたのは、学校指定の制服をそのまま白く脱色したか、
あるいは染め上げたような不可解なカラーリングの衣装を纏った青年。
全校生徒を睨みつけるように、その後ろには、同じく白い制服を纏った集団が横一列に並ぶ。
「諸君らは、この日常を当たり前に享受出来ると思っているようだが──実は違う。
物理法則、数式、歴史、法律──これらは人が得た概念、知識、或いは力である」
白い制服。髪を短く刈った鋭い眼光の見慣れぬ男は、
最初からこの学校に存在し、今日この日まで生徒を統べていたかのように、
威風堂々と、人類が蓄積した知識と概念、ルールを語る。
「だが、人が得られる力は所詮その程度なのだ。摂理……真理はまだ、人の視界の外にある。
その力がいつ、我々に牙を剥くか。或いは……我々が本当の意味で手に入れるか」
誰の横槍も許さない、あまりにも確信に満ち足りた言葉。
自分は人の知らない摂理を知っています。そのように主張しているかのようである。
馬耳東風でいられたらどれだけ良かったか。物言わず、
見たことのない上級生の言葉に困惑するばかりのヨシノは、
最初に予想していた事故・事件の報告の方がまだマシであったと、
不謹慎ながらもその内心でポツリと呟く。その内心に被せるように。
白い制服の青年は結論を先に告げる。
「ここに宣言する──我ら、裏生徒会がこの学校を統治する!!」
「いやバカじゃないの!?」
ヨシノも罵倒したくて罵倒したのではない。
絵に描いたような、文章に記したような。
創作、あるいは妄想が目の前で喋っている。
フィクションの真っ只中にいる彼女。
だからこそ、荒唐無稽に誰よりも敏感である。
「我らが統治に異議があるか」
やべっ!自らの失言に、今更気付くヨシノ。
裏会長が直々に彼女に問う。
我々の何処がバカなのか。そう言いたげに威圧的なトーンではあるが、怒りは感じられない。
あくまで純粋に反論に耳を傾けるつもりのようである。
「えっと……」
「ならば──裏生徒会が支配するに相応しい証拠をお見せする」
学校をまとめたりするのは校長先生だと思います。
ヨシノがそんな風に一言返そうと思った矢先、
突如として、裏会長の背後から光の渦が巻き起こる。
さしづめ台風。体育館を巻き込みながら、
嵐とも激流ともつかない破壊的な衝撃が生徒たちを圧倒する。
「ウソでしょ!?」
ペルソナクスによる力。そのような説明可能な根拠を疑いながらも、
その異常な体感にヨシノも叫ばざるを得ない。
そんな混乱を尻目に、破壊的な濁流は一つの形を成した。
「これぞ我が力。『護国神像・大和』也」
光の血肉で構成された、威厳に満ちた武者。
天井があったはずの空から、光の武者はヨシノを見下ろす。
既に半壊した体育館。あたかも最初から
この巨大な光の展示場であったかのように、存在感を示している。
「何この世界観!?」
いきなりの出来事に頭が追いつかず、勝手に動き出す体。
いつの間にか、廊下で息を切らしていたヨシノ。
あまりの困惑。ヨシノとしても、頭が処理できず
あの場から逃走せざるを得なかった。
「いつものルミナキャストって感じじゃないよアレ…」
ワルターやムジカントムとも違う異様さを
何処か感じながら、頭を整理する。そんな中、ふと、売店が視界に入る。
ヨシノも時折、ここで昼食のパンを購入している。
彼女の中学校生活にとって、そこそこ大事なインフラだ。
「チョコチップメロンパンが食べたいな……」
いやいや落ち着こう。一瞬、現実逃避をしたヨシノ。
しかしながら、目下の課題は裏生徒会が何たるかを知ること。
思考を巡らせる中、売店の店員が視界に入る。
バンダナにエプロン、そして白い仮面。ムジカントムだ。
「うわ出た!」
「フフフ……人を化けて出てきたように言うんじゃないぞ」
化けて出てきたようなものだろう。ヨシノは表情で訴えつつ、口で問いただす。
あの裏生徒会は何なのか。ワルターの類なのか。
「フフ……知らん。何だあいつらは」
マジか。ムジカントムの回答は、ヨシノが求めていたものでは無かった。
そしてムジカントム曰く、ああいった者にはワルターの適性もない。
いつもの笑い声を弱々しく漏らすムジカントム。
ワルターを使えない以上、これではどうしようもないと俯きながら、
チョコチップメロンパンの購入をヨシノに促す。後にしなさい。
「ワルターは強固な自我には弱い……」
廊下を走りながら、ヨシノは呟く。
先程のムジカントムが、愚痴とともに語っていた情報。
レンタルショップで凪がワルターに取り込まれたが、
彼女の心が弱いようには到底見えない。
「それだけあの裏生徒会ってヤバいのかな…」
確かに、あのような超人的な能力を持つ者が、
人並みの心持ちである方が不自然である。
焦燥感を覚えつつ、駆けるヨシノの足元に飛び込んで来た茶色い毛玉。
へたり込み、弁慶の泣き所を抑えつつも。ヨシノは骨に染み渡る痛みに悶えるよりも先に、
駆けつけてきたゲッシーに目線を合わせ、そのまま思い切りその体をゆすり、思い切り叫ぶ。
「ゲッシー!?何この状況!!説明してよ!!」
「テ……テコ入れで……」
聞くところによると、宇宙では今、所謂「能力バトルもの」も産業として、
大きく発展しているとのこと。上層部がそれを取り入れようと、
急遽、能力者との戦いを始めようとルミナキャストの世界に捩じ込んだのらしい。
「バカ!!!!」
ヨシノがここまで声を荒げるのも、初めてのことである。そりゃそうだ。




