第9話「盛岡旅行!再会と出会い」 Bパート②
アミューズメントパーク万代盛岡盛南店。この店舗にて、
硬貨を入れるのに勤しむのは草之根ヨシノ。動じぬわ!
アームで掴み取ろうとのものなら、ぬいぐるみはそれを弾き返すかのよう。
「うお、なめるな!」
「ぬいぐるみにかける言葉じゃないでしょヨシノ」
ごもっともである。思わず込められたヨシノの邪念に怖気付き、
引っ込んでしまったぬいぐるみの替わりと言わんばかりに。
カップ麺をフックに引っ掛け、撃沈したヨシノにお裾分けしつつも、
あかりは血の気の増したヨシノの言葉を諌めるばかり。
「ちぇー、次は君たちお家に連れてくからね」
こと万代は、単純なホビーの他にも食料品の景品が数多く存在する。
普段、ぬいぐるみに一直線のヨシノとしても、これは中々に新鮮な体験と言えよう。
そして、普段はそうそう見られない、10円からでの遊技が可能な筐体すらある。
それでもなお、中学生の旅行客の予算感としては全ツッパは難しいのだが。
「ついてないようね、アンタ」
つい昨日聞いた声。ヨシノはカップ麺から声の方へ顔を動かす。
いつぞやのゴシックドレスを纏った、温泉施設の囲碁の少女。
まだ名前も知らぬ少女は、そのまま張り合うかのように。
同じくコインを入れて、ぬいぐるみを取ろうとするが、クレーンを動かす素振りはない。
初期位置から微動だにせず、いきなりアームを降ろすが、当然ターゲットには掠りもせず。
「二回もみっともないところ見せたんじゃ世話ないわね…」
ところでアンタ、せっかくだからもう一回やってみなさいよ。
ゴシックドレスの少女は自分の情けなさを自戒しつつも、
シームレスにヨシノに再プレイを促す。なんだか距離の詰めかたが独特かも……。
そんな内心の中、ヨシノは再びコインを投入しつつ、見事景品を獲得。
「すごいじゃない」
「いやいや!すごくはないよ、マグレだし」
ぬいぐるみを抱きしめつつも、申し訳なさそうに少女の言葉に謙遜するばかり。
どこか無機質な容貌に対して、ゴシックドレスの少女は何処か感心するような仕草を取る。
頷きつつも、今度また会ったらよろしくねと、ゴシックドレスの少女は再会を誓う。
自らの名前、エゴシックの名前は出さずとも。そして、レンタルショップを背にし、
パチンと指を鳴らし、合図を出す。エゴシックの技術、ワルターもどきの生成。
人間の感情そのものではなく、漠然と蓄積された澱みの抽出。
以前、河川敷で利用した小型の使い魔と比較して、
今回のエゴシックが生成したワルターもどきは、盛岡市内に漂う広域の負の感情の集合体。
「これくらい倒せないようじゃ、私の敵たる資格なんか無いわ」
少なくともその外見は、人間を素体としたワルターと比較しても遜色はない。
不定形の影の巨人が形を成そうと、本来、存在しないはずの質量を以て、
地面を踏み締めようとしたその瞬間。水晶の物体が、人間で言う心臓部に組み込まれる。
「…は?」
ヨシノとあかりが目撃した、デカイジャスコを漂う不気味なクリスタル。
唐突に入った横槍は、そのままワルターもどきと一体化した。
その不可解は、店内にいたゲッシーのタブレットにも通知として鳴り響く。
「ヨシノ!ワルター反応だ!」
「あかり!モノリスエフェクトだ!」
そのまま左腕に、腕時計の如く巻くコンパクト型顕微鏡──
ルミナスコープを何処からともなくさせるヨシノと、
懐からメカニカルな防犯ブザーといった体の、サイバーチックなガジェットを、
印籠のようにかざすあかり。そのまま店外へ向けて走り出すが、
それぞれ双方。最大の秘密を間近にいる友人に開示したことに、
互いに大嫌いな献立が並べられた時のような苦い顔をする。
「ルミナスコープ!!」
「アンタレス──アルタイル──プロキオン──サーペント…イコライジング」
最早気にしている暇もない。ヨシノはそのままスコープに吸い込まれ、
ルミナタキオンとしての姿を示す。その隣には、ボディスーツのインナーに、
スカート状のメカを腰回りに浮遊させ、胸部や前腕部も同様、
まるでフリルのようにサイバーチックなフォルムの機械を漂わせた、
現時点での地球人では、到底再現出来なさそうな奇怪な格好をしたあかりが立つ。
「その…なんと言うかさ、あかり」
「何にせよ、やることは一緒でしょ。だよね、ハニエル」
ハニエル。以前、ゲッシーがその名を述べた、大学時代の同期である。
何処からともなく飛び出し、あかりの隣を漂うその姿。
星型のフォルムと、大きく丸い目つき。確かに、ヨシノに以前話した特徴と合致する。
その横で、何処までも調子の悪そうな顔をしているのは、勿論ゲッシー。
「ゲッシーじゃないか!いたのなら、色々話が出来たのに」
「お……お前がいると調子狂うんだよ」
この二人、知り合いだったの?あかりは不思議そうにヨシノの顔を覗き込むが、
ヨシノとしてもハニエルが何者なのかはさっぱり分からない。
強いて言うならば、そのフォルム。ヨシノ好みの可愛らしさに、
なりふり構わず触りたくはあるのだが。
「その子、ゲッシーって言うの?あのモノリスをやっつけたら、私、だっこしていい?」
「え……いいけど」
普段散々ゲッシーに振り回されているヨシノとしては、
ゲッシーを愛玩する感情は抱きにくい。それ故、盲点とでも言うべき反応だったが、
相棒が評価されるのならば本望。ついでにこちらはハニエルを抱きしめようと、
ルミナタキオンとして、ルミナステッキを構える。一方のあかりも、
スカートを発光させ、不可思議な力の空間を展開させる。
「届ける想いは光を超える。ルミナキャスト――ルミナタキオン!」
「スターゲイザー──ジンギュラリゼーション」
スターゲイザーが何たる存在なのか。ルミナタキオンとしては全く存じ得ぬこと。
しかし、眼前の黒影の巨人を倒すと言う条件が一緒であることのみ分かれば、それで十分。
何も言わずとも、鏡合わせのように構える両者の姿がそれを物語る。
このエピソードを書くにあたり「アミューズメントパーク万代盛岡盛南店」様からお名前の引用のご許可をいただたいております。誠にありがとうございます。




