第9話「盛岡旅行!再会と出会い」 Aパート③
「誰、知り合い?ヨシノ」
「いや、知らないけど……」
ワンテンポ遅れて、眼前の少女を思い出すヨシノ。
以前、ストレージコーナーにいた、ゴシックロリータの娘である。
学校は知らないけど、たぶんウチの地元の子だよ。
そう、あかりに対して嬉しそうに語り掛けるのに対して、
館内着を身に纏った件の少女はどこか気だるげ。
「もうちょっとムッとしなさいよ」
初対面も同然の状況。いきなり態度を改めろなどと言われたら、
確かに面食らうだろうが、ヨシノとしても凄まじい実況を行っていたのである。
誰かから文句を言われても致し方ない部分はあるだろうと、
無意識に感じていたのだろうか。むしろ納得を優先している。
「まあいいわ。せっかくだし、私もあんたたちが遊んでた白黒の奴、やらせて」
白黒の奴。囲碁であることは間違いないのだが、やったことがないならともかく、
こんな言い回しをする程度に囲碁を知らないなどという事、
ありえるのだろうか。ヨシノとあかりは互いの顔を見合わせ、
奇怪な発言を訝しむが、邪険にする必要もないと考え、
そのまま対局を行う。ルールを説明しながら。
「あ、碁石は面に置くんじゃなくて……線上の点、というかさ」
「は?ややこしいわね」
少女は眉間に皺を寄せつつも、素直に聞き入れる。
距離の詰め方や、その態度はどこか違和感こそあれども、
同世代の女の子と共通の話題を模索する程度の協調性はあるようだ。
「どこの中学通ってるの?高校だったりする?」
「今は別に」
複雑な事情があるのかな?ファッションなどは堂々としているが、
人付き合いの部分で悩みがあるのだろうか。ヨシノは内心考えるものの、
本人も特に負い目がなさそうな、棘はあるものの、
どこか穏やかそうな顔つきをしているのを見て、深く追求しないことにした。
「……よくわかんないわね、このゲーム」
雪が降ったかのように、純白の盤面。
後攻のヨシノもある程度手加減したものの、
やはり全くの初心者にはハードルが高かったのか。完敗である。
こんな状況においても、意外なほど満足そうに口角を上げる少女であったが、
そのまま席を立ち、場を立ち去る。
「またこのゲーム、遊んでみてもいいかしら?」
「いいよ、また会ったらね」
大敗を喫したとは思えないほど、威風堂々としたその背中。
唐突に割り込んだ不可解な少女に、あかりは鯉のように口を開ける。
なんか変わった子だったよね。その困惑に同意するように、
ヨシノも感想を一言述べるが、対局をする相手が地元にいない今、
心の片隅で、対局相手との再会を期待する表情はどこか柔らかい。
「オイ……ただボードゲームをやっただけか?お前は」
「いいでしょ?興味深かったわ」
銭湯の外観を背にして、いつもの衣装を纏うはエゴシック。
連敗中のアンタが、私の行動に口出しする資格はないわよ?と、
幻影紳士・ムジカントムに釘を指すも、仮面越しにフフフと笑うのみ。
それにね、ムジカントム。
「人となりの分からない人間を斃しても、何も面白くないわ」
エゴシックは決して、
ヨシノと仲良しこよしのお友達になりたいわけではない。
しかし、拒絶を示したいわけでもない。理解した上で、
否定したいのである。ペルソナクスの使命のため。
そして、魔法素粒子ルミナキャストという番組構造を知ってもなお、
戦い続けると誓った草之根ヨシノを打倒するため。
「デカイジャスコかー……あかりはいいよね、毎日行けるし」
「毎日は無理だよ」
巨大ショッピングモール・デカイジャスコ。ヨシノの住環境においては、
数個隣の市町村まで車を走らせないと辿り着けない程度には非日常である。
その気になればフラッとショッピングを楽しんで帰宅する。
ヨシノにとっては神業的芸当。
「向こうにもデパートはあったでしょ?」
「そうなんだけどさ〜……」
駅周辺に2つの大型店舗こそあれど、ヨシノの地元ではカバーできないものも確かにある。
ある種、贅沢な悩みではあるのかもしれないが、人の生活の尺度、
満足度は個人個人の内心が決めるものなのだ。そして、ハンバーガーを食べつつも。
「遊びに来た理由ってなんかあったりする?」
「ちょっと忙しいのが片付いたとかかな……」
明日、いかにして当初の目的であるレンタルショップに行くか。
いかにしてあかりを説得するかを、ヨシノは考える。
勿論、あかりと別れてから向かってもいいのだが、月曜日の登校に間に合うのか。
観光客としての悩みである。そんな思考を巡らせてる中。
「は……?」
ヨシノの視線が向いているのは、レストランが並ぶ通路。
そこで飛び込んできたのは四角形。人混みの中に混じるは、人間の顔ほどのサイズの、
角ばった水晶状の物体。プカプカと浮かびながらも、歩く人々の速度に調子を合わせ、
あたかも地球の常識のように溶け込むその様は、
ショッピングモールを巡っているかのよう。
「何アレ……ペルソナクス!?」
「うえっ!モノリス!?なんでヨシノがいる時に!」
ヨシノとあかり、顔を見合わせる二人。互い違いに言い放った、
謎のフレーズに対して、それぞれ思考を止める。




