第9話「盛岡旅行!再会と出会い」 Aパート②
「ほらヨシノヨシノ!ここの本屋!」
駅ビル構内。
走ると言うにはあまりに落ち着いた歩幅ながら、
ヨシノとあかりは目的地を捉えて、一直線に突き進む。
何も、本を購入するわけではない。
岩手にまつわるぬいぐるみのマスコットが、
丁度ここで販売しているというのである。
「うおー、かっぱ!」
きゅうりを愛おしそうに抱えた、緑色のフォルム。
並べたらしっくり来そう。自身の持つハムスターのぬいぐるみ、
しゃくしゃくと一緒に飾りたいというヨシノの情熱が刺激される。
いいでしょう?自慢げにあかりは微笑み、
私はもうそっちの河童は持っているからと、
色違いのぬいぐるみを手に取り、一緒にレジに向かう。
「いや~、いいですね、キャッシュレス」
「どんな反応?ヨシノ」
地元ではまだまだ現金対応専用の店舗も多いことを思い出しつつ、
ヨシノはスマートフォンの画面をかざして会計を行い、ご満悦。
そのような部分で盛岡に来たことを堪能するのはいかがなものか。
いやいや!それがいいんだよ。と、あかりの疑問にも軽やかに返しつつ、
ヨシノは新たなパートナーをハンドバッグに入れる。
「ちょっ……動かないで」
「あかり?」
いやいや!何でもないよと、今度はあかりの方が咄嗟に応える。
突然放たれたあかりの独り言。まさか、以前のしゃくしゃくのように、
勝手にかっぱのぬいぐるみが動き出したのだろうか。そう咄嗟に身構えつつも、
今日買ったばかりのぬいぐるみが知己のように振舞うわけがないかと、
ヨシノは自身の番組脳を反省し、緊張を解く。
「念の為だけど、僕らがモリオカに来た目的、忘れないでね」
「今言わんでいい!」
手番制のゲームか。ハンドバッグの中のゲッシーの唐突な釘刺し。
今は少し空気を読めとヨシノが軽く喝を入れつつ、
彼女の掌で軽く叩かれた手提げの中、ぐえっ!とゲッシーは声をあげる。
以前もこんなやりとりがあったなと回想しつつも、
この不可解な挙動はタブレットの通知であると、なんとか誤魔化す。
「うわっ!ごめん、ちょっと用事できたから待ってて」
唐突な一言。最後はあかりの方が走り去り、
ヨシノは置いてけぼりに。いったい何があったと言うのか。
その隙を見て、いかにもハムスターのぬいぐるみです、
と言わんばかりに、ゲッシーは盛岡の駅ビルの店内を見回す。
「明日、レンタルショップのストレージでカードを見つける」
それが僕たちの第一の使命。魔法素粒子界の使者・ゲッシーとして、
陳列されたマスコットの造形に、ガンをつけ威圧しながらも再確認をする。
いちいちぬいぐるみのかわいらしさに嫉妬をするな。
カバンの中に押し込むことで、言わずともその意思表示を行うヨシノ。
短いやり取りではあったが、そうしている内にあかりが先ほどの路を逆走し、
此方へ帰って来る。
「いや~……ちょっと銀河鉄道に用があって」
「銀河鉄道!?」
どうと言うことはない。空の向こうまで、
カムパネルラを連れていくような列車が走っているわけではなく、
あくまで岩手県で走る路線の一つである。
あかり曰く、盛岡の友達が預かっていた忘れ物を、
該当する路線のホーム付近で受け取った、
とのことで、隠し事は何もないと強調する。
「すごい汗だけど……大丈夫?あかり」
息も絶え絶え。余程急いで用事を済ませたのか、
はたまた冷や汗をかくような事情でもあったのか。
何はともあれ、このままの状態でいるのも。
特別、プランを固めていなかった二名は、そのままビルを背にして、
市内を走る路線へ乗車。隣の駅まで着いたのち、
そのまま歩いた目的地は、町に陣取る温泉施設。
「ここって、結構若いお客さんも多いんだよ」
「へー……なんか意外かも」
ヨシノの住む地方都市では、たまに家族と銭湯に行っても、
周りの客は専ら中高年。ヨシノとあかりがわざわざこんなやり取りをするのも、
どうにも先入観とのギャップがあるからである。
数階建ての外観、というのも地元じゃ見たことないかも。
そんな事を考えながら、ひとまず休憩をすることにする。
「じゃーん」
ひと風呂を終え、館内着を身に纏ったヨシノとあかり。
そんな中、あかりが用意したのは碁盤である。こと、
対面においては久しぶりの対局。囲碁部同士。
コミュニケーションの手段は、何も会話に留まらない。
「なんか、入りやすくてすごいいい感じだったかも」
無言で碁石を運ぶのを繰り返していく中、
最初に言葉を発したのはヨシノの方である。特に、
地元の温泉は温度が高い。それと比較すれば、
相当に優しい入り心地であると、体を温めたヨシノは考える。
「そうかもね……盛岡の方が立派ではあるかも」
ヨシノの碁石を取りつつも、あかりもヨシノの感想に理解を示す。
普段使いの銭湯としては、値段も手ごろで、
日常の延長にあった、かつて住んでた地の温泉の方が安心はするが、
レジャーと言う観点においては、炭酸泉や壺湯、
電気風呂などが充実しており、設備も目新しい盛岡の温泉は見逃せない。
「他のところも行ったりしたんだけど、結構いいところだよ、盛岡のお風呂」
盛岡の市内の温泉施設は、ヨシノと地元と比較して、
日常よりも非日常的な雰囲気に近い、というのは共通項のようである。
そんなやり取りの中、一局を終え、折り畳み式の碁盤を片付けつつ、
せっかく色々あるんだからと、棚から取り出したのは漫画本。
「うわ〜!やばいやばいやばい!
これ絶対負けるって!
こんな技食らったら立ってられないっしょ!
体を巡回する鉱力を起爆させて
爆発を起こす技なんでしょ!?
無理無理無理無理!!死ぬ〜」
これら全て、
実際には口に出してはいない。
ヨシノの心の歓声である。
「よかったああああ……!まさか一回自分から死んで、
攻撃のタイミングをずらした上で、事前に仕込んだ技で
心臓マッサージをして回避するなんて、すごすぎるよ……!」
無論、これらもすべて、実際には口に出してはいない。
ヨシノの心の歓声である。コロコロ変わる表情。
自分が手に取った漫画よりも、その顔面実況の方が面白いと判断したのか。
あかりも目を丸くし、驚きつつもその表情に魅入っている。
「ヤバッ、恥ずかしっ」
いくらルミナタキオンとして、
自分の戦いが宇宙で放送されるヨシノとしても、
友達に自身の滑稽な姿を見せるのは、赤面をするのに十分。
そんなに面白いバトルものなら、今度は私に見せてよと、
あかりは屈託のない笑顔を見せるものの、
グチャグチャの感情を纏めるのには時間がかかる。
「いいじゃない、殊勝な事よ。物語にそこまで感情を働かせられるのは」
突然、二者に割り込んできた聞き慣れぬ声。
顔を回した先には、ヨシノとあかりに近い背格好と、
さして遠くない年齢であろう、年若い娘。
同じ館内着をまとっているが、以前、
レンタルショップのストレージコーナーで鉢合わせた、
ゴシックドレスの少女である。
「でも、もうちょっと品は持った方がいいわよ、あんた」
名は、歌劇令嬢・エゴシック。
ヨシノはまだ、そのペルソナクスの幹部たる少女の名前を知らない。




