第8話「赤点のムジカントム」 Bパート②
「フフフゥゥゥ…」
マジか。ムジカントムがワルターと化した、
まさかの状況。苦笑いをすればいいのか、驚けばいいのか。
対峙するヨシノも、いつもの笑い声を以て唸る怪人に対して、
自身の感情を言葉にすることが出来ない。
「いずれにせよ、戦うしかないよね…!」
いつまでも呆れているわけにもいかない。
窓が開いていることを確認して、そのまま一直線。
水平方向の空へ向かって走り、飛び降りる。空気の重さを感じながら、
ルミナスコープを覗き込み、ルミナタキオンへとその身を転じる。
そして、体を丸めて一回転。二階から見事着地し、体をひねって見得を切る。
「実技はテストの項目に無かったけどね」
新体操なる項目があれば間違いなく満点だったかも。
いつになくおどけるタキオンに対抗するように、
ワルターも同様、体育座りのように膝を折り曲げ、
思い切り体を回しながら、華麗に地面でポージング。
だが、分は先に降りたタキオンの方にある。所作は既に予習済み。
着地時にとった姿勢から、そのままタキオンシフトに移行し背後に回る。
それに息を合わせてワルターも体を回す。ムジカントムが見せた速さは、
この不定形の姿でも据え置きか。それでも、一手先を読んでいたのは、
ルミナタキオン。ステッキを構えて、今にも光弾を発射する瞬間。
その一手に無理矢理割り込む。どこからともなく黒い霧を集め、
不定形のナイフを模り、握りしめるムジカントム・ワルター。
その得物で光弾を受け止め、タキオンを振り払うようにそのまま薙ぎ払い、
強引なカウンターを完遂する。
「ぐっ!」
窓と窓の隙間に叩きつけられ、その筋肉と脊椎に痛みが走るも、
校舎を足場にして、そのまま三角飛びで着地。タキオンは怯まない。
そして、ワルター。前回、生身のムジカントムと戦った際は、
もう少し根拠を以て自身を攻め込んでいたはずだと、タキオンも考える。
自慢の十二の剣技を使う素振りもない。一般人はともかく、
ムジカントムのような存在の心の闇を抽出したところで、
本体の劣化版にしかならないのだろう。
「でも、油断は出来ないよね…」
その速度や膂力までが劣化版、とは限らない。こうして考えている最中でも、
タキオンは影のナイフを躱し続ける以外の行動を封じられ、息継ぎをする暇もない。
予備動作が必要という根拠のもと、タキオンシフトを潰しにかかった前回と、
無造作に暴れる目下の戦い。雲泥の差ではあるが、
攻め手を封じられる状況は、奇しくも同じ。
「なら、受け止めるまで!」
ヨシノが試験中に行った「力み」。あれは本来、
ルミナタキオンとして身を守る為に行う、防御の姿勢。
守りのエネルギーを発揮する際に伴う、身体動作の一部である。
腰を落とし、その腹筋、あるいは体幹そのもので相手の攻撃を受け止める。
魔法素粒子界特有のエネルギーたる魔力、そしてタキオンの生命力を結びつけ、
守りのエンジンを回す感覚。入れた電池が、灯りの代わりに頑強さを提供する、
この感覚。家電製品においては異常事態でも、こと、
魔法の戦士・ルミナキャストの枠組みにおいては荒唐無稽なものではない。
「くっ!それでも…!」
防御の型を以てしてもなお、無傷で受け止められるほど甘い太刀筋でもない。
その鋼の質感で刃を弾き返すのは容易だが、副作用が如く。
棍棒で殴られるような重量が、タキオンの骨まで届き、震わせる。
だが、ムジカントム・ワルターも不意をつかれたが故か、体勢を崩す。
「心の速度で、光と闇を包み込む!」
光よりも速い粒子、タキオンの名を冠す意義。この瞬きほどの僅かな時間。
仰け反り、丸腰同然となった一瞬の隙に目を光らせ、
タキオンはすかさずタキオンフィールドを展開する。そのまま光に包み込み、
不定形の身体を焦がし、浄化させる。
「…ウソでしょ?」
もとい、させようと試みた。だが、ワルターはその脚に力を込め、地面を踏み締める。
それはまるで、タキオンへの意趣返しのように。質量を超越したかのような踏ん張りを以て、
そのままタキオンフィールドの領域に耐え切った。
ワルターとは、抑圧された心の影を素材とした怪人。そんなシャドウですら、
変わらず自身を誇示する。その様こそ、ムジカントムの在り方を示してると言えよう。
「タキオンフィールドが通じないだなんて…!」
事実、ワルター相手にタキオンフィールドが通用しなかった事例は皆無。
ムジカントム自身を素体に使っただけあり、その胆力は確かなもの。
特訓までして鍛え、一度は打ち勝ったはずの必殺技が受け止められたこの事態には、
流石のタキオンも不安を覚える。
「ルミナキャスト様。オ困リノヨウデスネ」
唐突に響くスピーカー。わざとらしい程の機械音声。
振り向いたタキオンが目の当たりにしたのは、メカニカルな金属球と、
衛星のように金属球を軸にする、一回り小さな四つの球体。
「アルマゲスト!」
「私ト一緒ニ、彼ニ勉強ヲサセマショウ」
落第寸前の生徒がいるならば、助けてあげるが教官のさだめ。
ムジカントムが暴走したきっかけは、元々はテストが解けずに撃沈したことにある。
そして、教え子がピンチの今。アルマゲスト-2459に、
駆けつけない理由などない。
「今度ハ、ルミナキャスト様ガ保護者トシテ私ヲ操作シテクダサイ」
タキオンと宇宙式知育玩具・アルマゲスト-2459の共闘が、今始まる。




