第8話「赤点のムジカントム」 Aパート③
放課後。ヨシノは警戒しながらも帰路につく。図書室で勉強してもよかったが、
学校内で件の知育玩具で遊ぶ羽目になったり、
賢界が面白そうだからとルミナキャストに介入してきても困る。
そんな理由から、今日は誰とも一緒に帰るわけでもなく、通学路を歩く。
「あら、そこのお嬢さん?学校成績を上げたいと思ったことはないかしら〜」
えっ何?不意打ちの如く。ヨシノはいきなりのセールストークに思考が止まる。
声の主は若い印象の女性。組織を背負うほどの貫禄もないが、
新人と言うには齢を重ねている。そして、レモンのような黄色い肌。
宇宙人!?いや、魔法素粒子界の住民!?地球人としてはあり得ない、
その奇妙な特徴にヨシノは警戒する。間違いなく、
今この瞬間こそ、賢界の言っていたタイアップイベントの幕開けである。
「うわあ、ザルガ・エレクトロニクス社のお姉さん!」
歓喜の声をあげて飛び込んできたのは、茶色い毛玉のサッカーボール。
もとい、ゲッシー。異世界の魔法素粒子界ですらその名を轟かす、
宇宙規模の企業の社員が眼前にいることに感激。目を輝かせながら、
ヨシノにザルガ社の商品の購入を勧める。ところで、
ザルガ・エレクトロニクスって何だろう…。
「これさえあれば成績アップも間違いないよ!」
「いきなり購入だなんてとんでもない、まずは無料でお試しできますよ〜」
これ、どちらかと言うと通販番組のテンションじゃない?
ヨシノは内心で苦笑いをしながらも、トントン拍子で事は進む。
宇宙の大企業のお姉さんとゲッシーの契約は確かに結ばれ、
実物も見ることは叶わないまま知育玩具の無償レンタルが始まった。
その直後、まるで画面効果のように、ヨシノの視界は切り替わる。
「は…?森…?」
辺り一面、生い茂る草木。熊や猪でも飛び出してきそうな、
不安を煽る見晴らし。地元の山の中にでも来たのだろうか。
そうヨシノは考えつつ、突然の事態を頭の中で処理しようと、
周囲を見回し歩き始めるが、その必要はないと訂正するように、
物を言わぬ何者かがヨシノを牽制する。
「えっ熊!?」
草陰から飛び込んで来たもの。万が一にも、
丸腰の女子中学生では敵わないような野生動物であればひとたまりもない。
ルミナタキオンに変身すれば勿論勝てるだろうが、
そういった問題なのだろうかとも考えつつ、視界に飛び込んだもの。
「え…め…メカ?」
空に浮かぶは、SFの人工惑星のミニチュアのような丸い機械。
続けて四つほど、同じ造形、大きさのミニチュアが草陰から現れ、
最後に、遅れて一回りほど大きい機械の球体が姿を現す。
「コンニチハ。ルミナキャスト様。"アルマゲスト"デゴザイマス」
「あ、いやどうも…」
思わず返事をしてしまったが、熊をも仕留めてしまいそうな無骨な機械。
そして、当たり前のように引用してきたルミナキャストの名前。
地球人からすれば兵器のようであるが、これこそがタイアップ商品。
そう、ヨシノは確信する。
「ヨシノ!今すぐタキオンに変身するんだ!」
更に木の隙間から駆け抜けてきたのは、茶色い猛獣。ゲッシーである。
困惑のままルミナスコープを展開し、そのままルミナタキオンに至った直後。
待ッテマシタと言わんばかりに、小さな衛星から瞬く光が放たれる。
間一髪。身を逸らして避けたのはいいものの、
タキオンが見たのは樹木に開いた風穴。
「何このビーム!?いったい何のオモチャなのコレ!!」
「勉強道具だよ」
嘘でしょ!?突然破壊光線を撃ってくる機械を使って、何を勉強するのか。
そんなタキオンの怒号に割り込み、ゲッシーは説明を行う。
「アルマゲスト-2459」。宇宙でも老舗の知育玩具の最新式。
勉学には痛みと刺激が必要、といったコンセプトで製作されたこのおもちゃ。
「実際に発売されているバージョンはちゃんと殺傷力を抑えてるんだよ」
じゃあ私が戦うコレには殺傷力があるの!?
そんなヨシノの内心の叫びを掻き消すように、ゲッシーの解説は続く。
四つの浮遊小型砲台が光線を放ち、それを子供達は回避する。
そして、その上で正しい答えに相当する砲台に攻撃を叩き込む。
「地球で言う四択クイズやマークシート式の試験の練習問題だね」
要は、クイズ番組や動画企画のように、
バラエティ性を伴わせた学習ツールなのだ。つまり、
ルミナキャストのタイアップ。そしてヨシノの中間テスト。
この二つを組み合わせることで販促と勉強の双方を潤せる、といった寸法だ。
番組陣営も、地球の文明については中途半端な理解である中、
彼女の日常と噛み合う販促行為を考え抜いたことになる。些か不器用すぎるが。
「ちなみに、ちゃんと防御しないと風穴が開くから注意してね」
「怖すぎるわ!」
タキオンとして魔力のコーティングで防御を行えば問題ないとは言うが、
なんてものと対峙させると言うのか。宇宙の教育観でも近年は賛否両論、
とゲッシーは付け加えるものの、何のフォローにもなっていない。
「というか、魔力のコーティングって何!?」
「そこは気合いだよ、気合い!」
要するに、タキオンフィールドの領域操作のように、自分の体に力をこめて、
筋力や敏捷性を強化する行為を指すようだ。タキオンとして戦う中で、
無意識にやっていた行為ではあるが、特に前回の特訓を経た後ならば、
容易に可能であるだろうと、ゲッシーはタキオンに信頼を寄せる。
寄せてやることなのか、これは。
「水ノ電気分解ノ問題デス」
「このアルマゲストは、エリートを育て上げる宇宙の教官なんだ!がんばれタキオン!」
早速クイズが始まった。こんな、非常識に足が生えて、
そのまま突っ込んでくるこの状況。呆れ返るような絵面だが、
驚くことに、既にタキオンの目には一切の迷いが無い。
やるからには、逃げるわけはいかない。どんなふざけた状況でも完遂する事。
それが、彼女の憧れたヒロイン。そして、私もそんな風に勇気を届けたいから。
「…でも主人公で勉強が好きだった子、どれくらいいただろう」
それでも、ふと内心は出るが。




