第7話「直接対決!ヨシノVSムジカントム」 Bパート②
「律儀なもんね、ムジカントム」
「フフフ…お前だって同じ条件なら、騙し討ちを狙わないだろ?」
世界を狙う悪党とて、自身のプライドを汚す行為は許し難し。
河川敷に立つのは、そんな仮面の男と、志を同じとするゴシックドレスの少女。
タキオンの特訓が完遂するまでのその間。ムジカントムも空気を読み、
手を出す事は無かったようだ。エゴシックもそれに異論はない。
それに、もう用事も済ましたからと、彼女が片手に持つのは赤き宝石。
ワルターもどきを用いてルミナストーンを回収した以上は、
この河川敷でやるべき事は8割がた済ませたようなもの。
「目的は、我らが"団長"の復活…」
「フフフ…その"団長"が寝ている間に、俺が事を終わらせてるかもな」
不敬よ、ムジカントム。首領たる存在の出る幕など無いと、
暗にそう述べてるようかのようなその有様。自信に満ちた同僚に対し、
エゴシックは叱咤する。上の者の手を煩わせないのもまた、
俺達部下の役目だろう。ムジカントムはそう反論しながら、
何かに気付いたように肩で笑う。
「来たわね」
円卓の騎士って言うのなら、是非とも正々堂々戦いなさい。
宿敵の気配を感じ、エゴシックはそのまま、
空に溶けるように姿を消す。まるでシャッフル。
入れ替わるようにムジカントムの前に現れたのは、
既に変身を終えたルミナタキオンと、その相棒たる魔法素粒子界のハムスター。
己が得物、ルミナステッキを携えて、決闘に向き合う。
「直接対決だね、ムジカントム!」
そう一言述べたら、あとは構えるのみ。しかし、
無言のタキオンが指し示す、その自身に満ちた表情から、
ムジカントムは確かに聞き取る。剣技が何か、見せてもらうよ。
確かにそう言い放った、タキオンの宣戦布告。
「お前の偽者に醜態を晒した時の俺と、一緒だと思うなよ?」
迅い。ルミナライトアップの弾丸で先手を打とうとしたところ、
既に距離を詰め、短刀での攻撃を始めるムジカントム。
咄嗟にステッキで受け止め、鍔迫り合いを始めるが、
何を思ったかムジカントムの方から先に後退する。
そのままステッキを掻き消すように収納。素手の状態から、
体を捻ってタキオンシフトの姿勢に行こうとするが、
「フフ…タキオンシフトは常に予備動作を必要とするだろ?」
ムジカントムはそれを逃がさない。イーヴィルとの戦いにおいて、
高速移動同士の戦いが成立したのは、同じ技の使い手だから。
それを持たないこの男が対策を取るならば、それはやはり、
「最初から使わせない」こと。予備動作を誘発させるブラフを以て、
目にもとまらぬ速度でタキオンに刃先を突き付ける。
「白刃取りなら慣れてるよ!」
イーヴィルタキオンの振り下ろしを受け止めた時と同様。
その両掌でナイフを受け止める。鈍器同然のステッキを受け止めた前回と異なり、
今度は、正真正銘の真剣白刃取りである。
「タキオンシフト!」
そのまま、腰を落とし、体を捻る。タキオンシフトの予備動作。
その勢いでナイフごと放り投げ、吹き飛んだムジカントムの元へ一気に飛び込み、
思い切り蹴りを叩き込む。その隙にルミナステッキを展開し、
ルミナライトアップでダメ押し。光弾の熱量がムジカントムを襲う。
しかし、閃光手榴弾としては役立っても、
ムジカントムを吹き飛ばす爆弾にはならないのか。
怯みはしたものの、無傷。そのまま立ち上がり、再び距離を詰める。
「十二の剣技、見せてやろう」
更なる速度。ルミナステッキの出し入れを行い、
タキオンシフトに移行するのも間に合わないスピード。そして、
妖しく光るナイフの刃先。タキオンは咄嗟に、正中線上にステッキをかざす。
「心の速度で、光と闇を包み込む!」
「トリスタンクラッシュだ」
タキオンの眼前のムジカントムは、腰が捻じ切れるかのような回転に、
その体が無理矢理追いつかせるようにナイフをスイングさせる。
しかし、その所作に荒々しさは無く、無駄がない。
トリスタンクラッシュがタキオンフィールドと衝突したのに気付いたのは、
展開されたフィールドにまでその振動が伝わってからだ。
「フフフ…トリスタンクラッシュでも割ることはできないか」
矛と盾のぶつかり合い。ムジカントムのその言葉も、自嘲とも余裕ともつかない。
そして、膠着状態の二者に駆け寄る茶色い球体。あまりの速度で割り込む事すら出来なかったゲッシー。
タキオンを気遣い駆け寄りつつも、ハッと息を出し何かに気づく。
「さっき言った"十二の技"に、トリスタン?まさか、この星に伝わる円卓の騎士か!」
さりげなく宇宙人目線で発言した事にヨシノは目を逸らす。
その横で、ゲッシーは魔法素粒子界の使者として、
アーサー王物語を解説する。王様は勿論、ランスロットやガウェインといった、
様々な騎士が活躍した地球の有名な騎士伝説。
「宇宙でも沢山の翻訳版やアレンジ版が出版されているくらいだ…」
何度も宇宙を引き合いに出して、傍目から見たら、
世界観を壊す怪しさを展開しているが、あくまで宇宙の視聴者に語っているのだろう。
「つまり、残りの騎士の技が来るってこと!?」
トリスタンの他にもアーサー王の元で戦う有名な騎士がいるという、
キャメロットの物語を詳しく知らないヨシノにとっても未知の情報。
よくぞご存知、と言わんばかりにムジカントムはナイフを構え、
あたかも巨大化したようにタキオンの眼前に飛び込む。
「フフフ…トリスタンクラッシュ2」
何故使いまわしたのか。遠近感を無視したようなスピード感を警戒すべきだが、
それより先に、ムジカントムのその投げやりな命名にヨシノが至った思考は「無」。
「に、2?」
瞬きほどの間。なんとか草之根ヨシノから、
ルミナタキオンに心のスイッチを切り替え、攻撃を見極める。
危機一髪の状況ながら、直線的な突きであったのが幸いし、
紙一重で上体を横に捻る事で回避したタキオン。
しかし、彼女は一切安心していない。勢いとキレ自体は、
先程の数字の付かない「旧版」より増していると確信する。
「え、何あの名前」
「ゲッシーも知らなかったの!?」
たった今放たれた、ゲッシーの率直な言葉に、
戦士としてのタキオンの意識が逸れてしまう。
音声が拾われない程度の小声で、ハムスターの耳元に対し囁く。
円卓の騎士を簡明直截に解説──あんなに分かりやすく
みんなに教えたのは何だったの!?と、激しくも静謐に語りかけるものの、
その答えは「アドリブ」。やはり、ペルソナクスの動向は伝えられていなかったらしい。
そんな中で円卓の騎士を見事説明してみせたゲッシーに、
あっぱれとルミナタキオンは思いつつ。
「この何が起こるか分からない無軌道さ!これこそがリアリティだよ」
「その無軌道さで私は振り回されてるんでしょうが!」
思う前に声が出る。タキオンフィールドの正式名称にしろ、囲碁にしろ。
その勉強の成果でネーミングや知識の偏りをどうにか出来なかったのかと、
草之根ヨシノ、いち個人としても考える彼女である。
「フフフ…俺の技に呆気に取られたかな?」
どちらかと言うと技名の方に驚愕したものの、
危険な技である事には間違いない。ムジカントムの放つ更なる技、
トリスタンクラッシュ3に、再びタキオンが立ち向かう。




