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第7話「直接対決!ヨシノVSムジカントム」 Bパート③

「これがトリスタンクラッシュ3…!」


 子供がイタズラでボタンを連打するように。無造作な突きの連打。

逆に言えば、全く軌道が読めないナイフ捌きに対して、

ただひたすらに腰と脚を縦横無尽に動かしつつ避けるほかない。

それを放つムジカントムのスタミナも無尽蔵ではないのか。

一通りトリスタンクラッシュ3を披露したのち、

地面を思い切り蹴り距離を取るも、タキオンはそれを見逃さない。

すかさずタキオンフィールドを展開し、速度と重さの伴った、

より暴力的な剣技──トリスタンクラッシュ4を受け止める。


「フフ…ワルターに使ってた今までのタキオンフィールドと少し違うようだな」


 キュビスムという言葉がある。端的に説明すれば、

あえて空間を固定せず、画面に描きたいものを全て収める。

パブロ・ピカソを代表とした、空間の分解と再構築を主旨とした画法である。

あくまで比喩ではあるが、ムジカントムのトリスタンクラッシュは、

視点すら存在しない。空間を結びつけたかのような速度で、

タキオンフィールドに猛攻を仕掛ける。


「トリスタンクラッシュ5だ…」


 ふざけたネーミングではあるが、そんな事を気にする暇も与えず。

円卓の剣技による攻撃を繰り返すムジカントム。しかし、

タキオンフィールドはそれすらも翻弄。あたかも、

キュビスムで無理矢理結びつけた空間に対して、バリアの体積を縮小し、

戦場に余白を挿入させる。展開の範囲と出力をコントロールすることで、

バリアの領域を狭め、トリスタンクラッシュ6と7の空振りを誘発させる。

距離を詰めたムジカントムに対して、高密度のエネルギーで、

トリスタンクラッシュ8を押し返す。矛と盾。一進一退の激突。


「フィールド全開!」


 飛びかかり、空中から奇襲するトリスタンクラッシュ9に対し、

可能な限り出力範囲を広げて弾き飛ばす。ムジカントムも見越していたのか、

驚く素振りも見せずに、曲芸のように回りつつ空中から後方に着地する。

タキオンレーンを発射さえすれば、ムジカントムとて回避は不可能。

ルミナタキオンはそう確信し、前方にルミナステッキをかざそうとした瞬間、


「ムジカントムキックだ」


 唐突。ふざけた名前と共に、

彼女の眼前にムジカントムの脚部が現れる。

ヨシノはその両腕を交差しつつ、顔面をガード。

確かに防御は間に合ったが、構えが乱れる。

タキオンフィールドを放つにも

タイムラグが生じる危機的状況だ。


「何そのネーミング…」


 円卓はどうした。大ピンチではあるが、

あまりにも唐突な路線変更。この隙だらけの命名。それに反して、 

この攻撃によって生じたチャンスを、確かに見逃さない。

ヨシノはそのナイフに対して、鍔迫り合いを行いつつも

思わず呆れを漏らす。だが、そんな呆れ声すらも掻き消すかのように、

タキオンは息を詰まらせる。ムジカントムの仮面が、

顎下から照らすライトのように、コントラストを演出する。


「トリスタンクラッシュ11」


 ステッキとかち合うナイフから発した光が、爆発のような衝撃を生む。

今までのトリスタンクラッシュに伴っていたエネルギーとも一線を画した、

強烈な力を以て、辺り一面が激しい光に包まれた。


「フフフ…こればかりはひとたまりもないかな?」


 ムジカントムもこればかりは勝利を確信したのか、

思わず余裕の態度を示す。が、鍔迫り合いに伴う質量は未だ変わりがない。

ホワイトアウトから解放された空間。そこには先程と変わらず、

タキオンがいた。今度はムジカントムの側が息を詰まらせる。

ルミナタキオン、その体の発光。まるで、

タキオンフィールドを纏ったかのように光沢がある。


「ビックリした?これがゼロ距離タキオンフィールド」


 まるで、と言うのは厳密には誤りだ。

ヨシノはタキオンフィールドのコントロールを果たした事を、

数日かけて必死に特訓した過程を含めて、改めてムジカントムに語る。

もっとも、周囲に張るバリアを通り越した、

「コーティング」のような状態に至ったのは、

この場のアドリブであると、タキオンは正直に申告する。


「この鍔迫り合いの中で、タキオンフィールドの構えを果たしていたか」

「ご名答!」


 眼前の正中線にルミナステッキをかざし、

念じるのがタキオンフィールドの所作である。

短刀の膂力を相殺する過程そのものに、

彼女の必殺バリアを成立させる条件が確かに隠されていたのだ。

ムジカントムはすかさず後退。体幹を思い切りひねり、

そのまま右腕で突っ込む。腰ごと座標と空間を捻じ曲げたかのような突進突き。

トリスタンクラッシュ12を放つムジカントムだが、

タキオンフィールドのエネルギーをそのまま身体能力に変換したのか。

キュビスムを上書きするかのような速度で、ナイフを持った右腕を掴み、

そのまま思い切り引っ張る。一気に前傾姿勢で倒れ込むように、

体勢を崩したムジカントム。それに対して、背後に回ったタキオンが、

光弾・ルミナライトアップで追撃。ワイヤーアクションのように吹き飛ぶ、

ムジカントムに照準を定め、伸ばした右腕の肘関節にそのまま左腕を添え、

タキオンレーンの構えに移行する。光弾と光線の連携が、この戦闘に引導を渡す。


「全てを突き抜けるは、光を超えた通り道!貫け!タキオンレーン!!」


 全身全霊の見栄を以ての光の線。その決め台詞ごと、

ムジカントムに届き決着をつける。

この激しい熱量をダイレクトに浴びてなお、

肉体は維持しているものの、激しい勢いでこの男は吹き飛ぶ。

喩えるならば、坂道を回る雪だるまの顔面部分。

ムジカントムは積もった雪を抉るかのように転がる。


「フフフ…見事だな」


 この言葉は余裕や強がりなどではない。

感嘆である。ムジカントムは、

ようやく鳴り響いた破砕音と、ひび割れる仮面と共に、

ルミナタキオン──草之根ヨシノの強さを賞賛する。


「だが、まだ終わってはいないぞ?ルミナタキオン」


 虚空へ消えていく男は、それでもなお余裕を見せる。

敗北してもなお、ムジカントムの底は仮面に覆われ、

今のタキオンでは剥がすことは叶わない。



 何時ぞやのように。ひび割れた仮面を付けたまま、

ボンドで修繕を行う仮面の男。エゴシックは、

ガルニエでひとまずの休憩を行う敗者《ムジカントム》に対して、

少しばかり嫌味を込める。十二の剣技も立場なしね。


「オペラ座の怪人が円卓の騎士って言うのがそもそも間違ってたのよ」

「オペラ座…フフフ」


 ムジカントムは、自分がそう喩えられた事に笑う。

不気味な仮面と芝居がかったその仕草。

解釈としてはそこまでおかしくはない。

だが、人差し指を立て、メトロノームを振るように、

そのジェスチャーでハッキリ「No」を示す。

思わず目を見開くエゴシック。道化師の方が良かった?

それに対してムジカントムはこう述べる。


「俺にクリスティーヌは必要ないさ」


 クリスティーヌ。かのオペラ座の怪人が愛し、

その狂気を理解されずとも情熱を捧げ、それでも恋は叶わず。

怪人を拒絶し、すれ違った女性。自分は愛に殉じた怪物とは違うと、

ハッキリと宣言した形となる。彼がそう語った意味を、

エゴシックはまだ知らない。



「ひ、昼ドラ!?」


 この単語も彼女の母親からの受け売りではある。

戦いが終わったのち。珍しく図書館から借りてきた、

アーサー王物語の書籍を手に取り、その概要を読んだヨシノ。

アーサーとランスロット、ギネヴィアの愛と忠義のすれ違い。

それに対する、このあまりにも世俗的な困惑が、

今の彼女の結論である。


「読みが浅いな、ヨシノは」


 ゲッシーはそれに対して冷ややかに対応する。当時の騎士道、

価値観などを照らし合わせて語るべきである。

一言で修羅場と切り捨てるのは些か単純すぎないか?と、

タブレットで円卓の騎士の読み方を先読みしながら語る。

受け売りかい!深く理解していない、という意味において、

ヨシノとゲッシーに大差はない。

私、草之根ヨシノ!

盛岡に行くため、中間テストの順位を上げないと!

そんな中、ゲッシーが用意したのは

魔法素粒子界にあるザルガ・エレクトロニクス社のオモチャ、

アルマゲスト!これを使って、猛勉強だ!


次回、「赤点のムジカントム」

届ける想いは光を超える!


ザルガエレクトロニクスって何…?

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