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第7話「直接対決!ヨシノVSムジカントム」 Aパート②

 ゲッシーのタブレットは魔法素粒子界のデータベースに接続可能な設定であり、

番組展開において、ルミナキャストに必要な情報を検索して、

ヨシノのために引っ張り出す事も時に可能とする。


「たまたまタキオンフィールドに使える情報があったけど、こりゃいいや」


 曰く、魔力体を常時展開させることで、その状態を体に適応させる。

つまり、タキオンフィールドのような技を出しっぱなしにすることで、

バリアを展開する行為を呼吸をするように自然に行えるようにする。

そこから、呼吸を整えたり、歩く速さを変えるような要領で、

タキオンフィールドの操作を可能にする、といった寸法となる。


「自分から持ち出したのはそうだけど…ちょっと想像できないなあ」


 ルミナタキオンとして必殺バリアを展開する際、

ヨシノはそれを身体動作と感じたことは一切無い。

それでいて無から疲労が込み上げてくるような、

通常、日常生活ではあまり見られないような虚脱感を覚える事を思い出す。


「ん?なんだ着信?」


 震えるタブレット。ゲッシーは見知らぬ番号からの着信に応じて、

そのまま通話を始める。先程の錬金術師の犬の博士とは違い、

相手の顔などは映らない。用事があるので窓を開けてください?


「はい。そこの窓でして…よろしくお願いします」

「いいですけど…どう言った用件でしょうか」


 通話相手に言われるがまま。指示に従い、

ヨシノの部屋の換気を始めるように、ゲッシーは窓を開ける。

そのままゲッシーの体を横切り、勢いよく飛んできたカードが、

クッションに突き刺さる。知らない電話に出るからこうなるんだよ!

子供を躾けるように怒るヨシノだが、事態はそれどころではなくなった。

カードに刻まれていたのは、仮面のシンボル。

そして、記されていた内容。ムジカントムからの挑戦状である。



前略


フフフ…近日中に

貴様のタキオンフィールドを

我が剣技で打ち破ろう

いわば宣戦布告だ


         草々


幻影紳士 ムジカントム



「手紙にまで笑い声を書く奴があるかい!」


 あまりの内容。思わず吠えるヨシノに、満足したのか切れる着信。

ブロックリストに先程の番号を入れつつ、ゲッシーは早速修行の段取りを考える。

まず、必要なのは練習場所。ヨシノに対して、人目につかず、

尚且つ広い土地は無いかと質問する。タキオンフィールドのような、

あまりに目立つ技を人目につかずに使用するのは中々に難しい。

人々の認識を阻害する、番組内のジャミング機能も決して万能ではない。


「ノリカに相談してみたら?あの子の家お金持ちって言うし」

「え…嫌だよ」


 ゲッシーの唐突な提案に、苦い顔のヨシノ。もしも、

イーヴィルタキオンのような爆弾を隠し持っていたらたまったものではない。

そうでなくとも、賢界(のりか)の凄まじい行動力と執着を考えたら、

何らかのトラブルが起こってもおかしくないとヨシノは考える。

そのままチャットツールで賢界にオーケーをもらうゲッシー。


「勝手に進めないでよ!」


 そのリンゴ型のタブレットに地球のアプリも入れられるのか、はたまた、

賢界が宇宙のツールに接続して、いつの間にゲッシーのアカウントと交流したのか。

いずれにせよ、一度番組を乗っ取られたのだから、ゲッシーの行為は迂闊。

監視と牽制も兼ねてだよ。ゲッシーは弁解するものの、

ヨシノの心拍数は急速に高まる一方。何もありませんように!



「この辺の河川敷、立ち入り禁止なのを知ってる?」


 実はウチの私有地なの。賢界はサラッと説明する。

曰く、河川法による公共化が、この区画においては例外的に見逃されたらしい。

ヨシノとしては、そのような説明を聞いてもピンと来ないが、

彼女達が訪れているのは、そんな車通りの少ない三鳥《みとり》家の河川敷。

尚且つ、見通しが良くない死角にあたる場所。

衆目を避けてタキオンフィールドの練習をするには最適の場所である。

そして、今の賢界はお小遣いを切らして充電中良かったああ…。

ヨシノは思わず安堵する。そのかわり、練習の風景は見せてちょうだいね。

などとお願いをするのもまた賢界ではあるが。


「それにしても…最近手をつけてなかったはずなのに随分綺麗ね」


 確かに、ヨシノが辺りを見渡しても雑草が見つからない。整備された印象である。

ようやく見つけた足元の草を引っこ抜きつつ、早速ルミナタキオンに変身し、

賢界はデジタルビデオカメラを構える。撮るんかい!

見てもいいなどと、安請け合いした自身を恨むタキオン。


「心の速度で、光と闇を包み込む!覆い尽くせ!タキオンフィールド!!」


 站樁功(たんとうこう)と言う、腰を落とし、膝を曲げる中国武術の鍛錬方法が存在する。

また、椅子に座るような姿勢を維持することで、腿の筋肉を鍛える、

空気椅子なるトレーニングも同様に存在する。体幹や下半身の代わりに、

バリアの出力を鍛えることを除けば、タキオンが行う特訓もある種、

站樁や空気椅子の在り方に近い。特に前者は、単純な筋肉への負荷だけではなく、

一種の瞑想のような役割があり、今回の特訓内容に殊更近いと言えよう。


「お弁当でーす」


 髪を染めた若々しい青年。快活な笑顔とともに弁当を差し出し、賢界が受け取る。

賢界のグループ会社内の、飲食店で勤務する若手であると言う。

へえ、そうなんだと耳を傾けて、そのまま何処かへ向かって、ゲッシーは走り去る。


「何やってんの、君」

「監視だ」


 弁当配達の青年。道の駅で働いていたESG職員である。

ゲッシーが聞くところ。弁当配達を行っているのも、この地球上で唯一、

宇宙との交信が可能となった危険因子、三鳥賢界の動向を探るため。

彼女の一族が経営する地方企業の一角。そこで、

道の駅のアルバイトとの兼業をしながらその様子を伺っているようだ。


「あれがお前のところの主演か。大丈夫か?」

「いやー…」


 遠間からESGの男が眺めるのは、

グロッキー状態で横たわる草之根ヨシノ。

最早タキオンに変身する余裕もない、と言った具合である。

ゲッシー達としても、ひとまず。

皆で食事を摂って休憩といった寸法だ。


「はい、あーん」

「いや、あーんって…」


 横たわるヨシノに、箸を運ぶ賢界。彼女の口に広がるのは、

甘みとしょっぱみの交じり合った、玉子焼きの風味。

弁当をご馳走してもらえたのはありがたいが、

同級生に食事まで任せてしまうのは、ヨシノとて気まずい。


「ありがとう三鳥さん…」

「いいのよ。撮らせてもらうけど」


 いやこの姿も撮るんかい!

自分の情けない姿まで撮影される、その有様。やはり、

別の場所を探して特訓すればよかった。ヨシノは後悔するばかり。

そんな萎びた心など露知らず。賢界は汗だくのヨシノに対しても、

甲斐甲斐しくタオルで汗を拭き取り、サポートする。


「何かしでかさないだろうな…」

「ノリカ本人はあれで満足なんだと思う」


 ゲッシーとESGの両者。昼の川沿いに二人、静かに立つ。

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