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第1話「ええ!?私がヒロインに!?」 Aパート②

「なんだそれ、知らねー」


 テレビを見た翌日。通学路の凪(なぎ)や教室の賢界(のりか)、

近くの席の男子生徒などに、

昨日見た夢として仮面の男の話題をさりげなく振るも、

皆、心当たりはないようだ。

間違えて蹴ったり、自ら抱えたりしたゲッシーの質感。

あれは決して妄想や幻覚の類ではない。

本当に自分に「何かの素質」があるのだ、と

ヨシノは考える。


 もしも、私が何かを救えるなら。それで誰かが笑えるなら。

私も今よりも笑える。そんな展望と一緒に。

同時に、こんな事を正直に話すわけにもいかない。

ヨシノは、昔見ていたテレビ番組の憧れのヒロインが、

正体を隠しつつ戦いに身を投じていたことを思い出す。

そして「ルミナキャスト」を知っているであろう、

ゲッシーにどう会うかを考える。

わざわざあんな話題を持ち掛けてきた以上は、

変身するためのアクセサリーの所在を知っているに違いない。


「力が欲しいって、どういう事だろう…」


 誰にも聞こえないような声量で、ヨシノは呟く。

自分に助けを求めるという事は、現地民だけでは処理できないのだろう。

あの触れる立体映像を作れる技術がある中で、何故人間の力が必要なのか。

疑問は尽きないが、それはゲッシーが教えてくれるはずだ。


「げっ歯類だからゲッシーって、そんな名前あるのかな…」


 放課後。ゲッシーを探す中、ふと呟いてみるヨシノ。

なんとなく、で流していた事を改めて疑問に思う。

仮定の話だが、哺乳類だから「ホニュウ」と名付けられる人間や、

ヒト科だから「ヒト」と親に名付けられる人間がいるとする。

名前のバリエーションが多岐に渡るこの時代。そんな現代を生きる彼女でも、

二度見や三度見をするだろう。あのハムスターにそんな名前を付けたのは、

一体どんな意図なのだろうかと思えて仕方ない。


「教育番組じゃないんだよ…」


 確かに、ヨシノの言う通り、その名は分かりやすさを通り越して

説明の類に近い。思考と足と視線。それらを混線させていくうち、

普段は通学路として通らない、交差点付近に立っていることに気づく。


「これでゲッシーをさがして!って言えば楽かも…」


 人も車もいないのを良しとして、視線を上げて、呟くヨシノ。

真上にある巨大なモニター。ちょっとしたビルの上に佇むこの大画面。

都会のそれには敵わないが、宣伝効果としては十分であろう。


「いや、何言ってんだ私!自分で捜そう」


 ゲッシーを公にしたら騒ぎになる。

そんな常識を上書きするほど、

不思議な状況とあてもなく歩く行為に疲れていた。

ふと我に返り、思い直すヨシノ。大して歩いていないのになあ…

と、自分の体力に嘆いた矢先。



「フフフ…」


 ヨシノの疲れをも吹き飛ばす、薄ら笑いの形の仮面。

それに似つかわしい嘲笑う声。

昨晩のテレビに映った、燕尾服の仮面の男である。

モニターから響く静かな笑い声。あのモニター、普段は無音だよね?

思わず日常の延長線上で疑問を抱くヨシノ。

ふざけているわけではない。この現実離れした状況を処理できないだけである。


「何なの!?あなた!!」


 ようやく頭がまとまり、その感情を言葉に乗せるヨシノ。

確固たる声量。しかしながら、腹から声を出すのには慣れてはいない。

喉を傷めつつ、彼女は叫ぶ。


「出てこい、ルミナキャスト。俺達はお前を迎え撃つ準備が出来ているぞ?」


 昨日と同じ言葉。

この様子からして、モニターの仮面の男は、

ヨシノをルミナキャストとは思っていない。

と言うよりも、そもそも一方通行。

特定の個人に向けたメッセージではなさそうだ。


「ルミナキャストの適性…?」


 ヨシノは一言呟く。ゲッシーの言う、伝説的な戦士。

その適性がある者にあの仮面の男が見えるのではないか。

クラスメイトは皆、あの仮面男への心当たりなど皆無。

SNSにも手掛かりがない以上、今のヨシノはそう推測する他ない。


「フフフ…しょうがないなあ。なら強硬手段に出てやるよ」


 強硬手段…?心の中、

ヨシノは仮面の男の言葉をそのまま繰り返す。

そんな心の声に応える仮面の男。オペラ座ならぬ、

モニターの怪人は、懐から仮面を取り出す。


「我らがペルソナクスの技術…ワルターをお見せしよう」


 何それ!?そんなヨシノの心中。

仮面の男は彼女の疑問を無視して仮面を取り出す。

紫の隈取。そのようなペイントが施された仮面を持ちながら、

装飾のない、純白の仮面を被った男は宣言する。

そして、電気を流し込んだかの如く。

唐突に隈取の仮面は、隈取のラインに沿って、激しい光を放ち始める。


「行けワルター。この街の人間を襲いな」


 モニター越しから、仮面の男は指示を出す。

その号令と共に、黒い影が物陰から飛び出す。

人型ではあるが、自分の倍の大きさはありそうなシルエット。

おおよそ、人間ではあり得ないサイズの不可解な巨人。

だが、ヨシノの思考は巨人への困惑や恐怖へと到達しない。


「仮面の…影?」


 先程モニターに映った、隈取の仮面。それが体を成したもの。

形を持たないものが、無理矢理形を持ったような姿。

言ってしまえば、立体的な影そのもの。

次の瞬間、一目散にヨシノは走り出す。

理解不能と対峙したヨシノの直感と思考は、

ようやく恐怖という結論に辿り着く。


「市役所…公園…」


 目に入った建物をそのまま呟く。

唐突さに頭が追いつかないまま、

ヨシノは何kmも先まで飛ばしたことに気付く。

歩いていくにはそれなりの距離。いつの間にか辿り着いた、

観光名所たる公園付近。ヨシノは市内の観光案内施設の展望に立っていた。


「ゲッシーが助けを求めたのって…」


 仮面の男が述べた、ワルターと言う単語。

状況からして、あの影の巨人の名前なのだろう。

ヨシノは逃げただけ。直接傷つけられたわけではない。

それでも、見かけ倒しではない威圧感。

最初は頭で処理できなかったヨシノでも、

魔法素粒子界が受けた被害を想像できる。


「いるなら来てよ!ゲッシー!!」


 叫ぶ傍ら、そこにゲッシーはいない。

言ってどうにかなるものではない。

ヨシノも分かってはいるものの、他に手段など何もない。

その替わりと言わんばかりに、ヨシノに叫びに応えるのは、

冬の屋根雪が間近に落ちてきたかのような衝撃。


「うわ…さっきの影!」


 実体の曖昧な姿とは裏腹。

轟音とともに、影の巨人がヨシノの視界に入る。

観光案内所は、周辺道路を俯瞰できる高さに建てられている。

見晴らしはいいが、今のヨシノはそれを歓迎しない。

これじゃあどうしようもないよ…。そんな風に内心思うヨシノ。


「来るなら来てよ!ルミナキャストが相手になってやる!!」


 内心とは裏腹。ヨシノは家から持ち出していた、

思い出のステッキを掲げ、叫ぶ。え、何やってんの私!?

ワンテンポ遅れ、その内心で、ヨシノは自身の行動に驚愕する。

更にもうひと間隔。ヨシノは記憶を呼び起こし、自分の行動に納得をする。

私は、テレビで見たスーパーヒロインに憧れていたのだと。



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