第1話「ええ!?私がヒロインに!?」 Bパート①
「それだよ、ヨシノ!」
「それだよ?」
突然のオーディエンス。
意味も分からず振り返った先にいたのはゲッシー。
ようやく見つけたハムスター。ヨシノが助けを乞おうとしたその瞬間、
おもちゃのステッキが激しい光に包まれる。
「いいかい、ヨシノ。これがルミナスコープだよ」
ゲッシーが嬉しそうに語るものの、その眩い光に、ヨシノの思考は追いつかない。
光が消えたその先。瞑った目を開いた、ヨシノの眼前の左手首。
先程まで握っていたステッキの替わりに、腕時計のようなアクセサリーがそこにはあった。
時針も分針も数字もなし。透明のガラスとジュエルの装飾。
「え、何この時計」
「ルミナスコープは時計じゃない。顕微鏡だよ」
唐突に現れた「ルミナスコープ」に、疑問だらけのヨシノ。
それに応えるように、ゲッシーの解説が始まる。
レンズを弾くように上げて、その手を顔に近づけ、覗き込む。
この一連の所作を行うことで、変身を可能にするのだと言う。
「変身?」
「もちろん、ルミナキャストにだよ」
このやり取りの間にも、黒い影の巨人は近づく。
ワルターを倒せるのはルミナキャスト。ゲッシーの言葉で、
影の巨人の名前はやはり「ワルター」であること。魔法素粒子界は、
ワルターに何らかの被害を受けたこと。自分なら戦えること。
ヨシノはそれを確認する。
「さあ行こう、ルミナタキオン!」
ゲッシーの掛け声と共に、ヨシノはレンズを覗き込む。
次の瞬間、ヨシノはレンズに吸い込まれる。ルミナスコープの中。無数の光の奔流。
光の道に沿い、ヨシノはスコープの中の空を舞う。
先程まで着ていた制服が、「光」そのものに変換される。
そこから更に、光は実体のあるフリルのドレスに。
そして、ドレスに合わせた新たなデザインのステッキを携え、
そのままヨシノは観光案内所の地に立つ。
「変身しちゃった…」
「その初々しい対応、いい画だよタキオン」
煌びやかな自分の姿。ゲッシーのカメラマンのような反応。
ヨシノの思考は未だ追いついていない。ルミナタキオン?
先程ゲッシーが述べたフレーズを不思議がるヨシノに、
君が変身する戦士の名前であると、ゲッシーは言う。
「ルミナキャストのルミナタキオン…私が戦わなきゃダメなんだね」
その矢先にワルターが、ヨシノ…もとい、ルミナタキオンに荒々しく飛び掛かる。
猛獣のような俊敏さ。タキオンは目を丸くするも、
その軌道を目で追えている事に気付く。
「ウソっ!速すぎない!?」
そう叫ぶのも、動きを捉えられているから。その突進を、タキオンは軽々とジャンプで躱す。
ヨシノは、運動が特別得意なわけではない。喧嘩が出来るわけでもない。
そんな自分が、2階建ての観光案内所よりも高い位置まで跳んでいること。
そして、すぐさま次の行動を思考できること。
そんな自分に、ヨシノは驚愕する。
「私、本当に魔法少女になっちゃったんだ…」
そのまま、魔法とはかけ離れた暴力的な鋭い急降下でワルターを踏みつける。
脳天に激しい一撃を叩き込まれ、大きく体勢を崩し、悶えるワルター。
ヨシノは、ルミナタキオンとして、破格の力を得たことを自覚する。
感慨とも混乱ともつかない心持ちのまま、ワルターを踏み台にして、
新体操を始めたかのように宙に返りながら着地。そのまま、
流れるようにファイティングポーズを取り、タキオンはワルターと相対する。
それに割り込むのは、男の声。タキオンの背中は何度か聞いた薄ら笑いを耳にする。
「フフフ…遂にルミナキャストが現れたか」
名前はルミナタキオンだな。そう確認しつつ感嘆する、先程のモニターの仮面の男。
飛び上がり、走り、タキオンの足元に飛び込むゲッシー。
その後ろで、仮面の男を覗き込むように顔を出す。
「破滅劇団ペルソナクス!あいつらがワルターを使って魔法素粒子界を襲ったんだ」
声を震わせ説明するゲッシー。あの仮面の男はワルターを使役する、
幹部に相当する存在であると言う。ゲッシーが口を閉じたタイミング。
仮面の男は説明ご苦労と言いたげに、肩で笑いつつも、指先から毒々しい色味の光を発する。
光線が向かう先は、タキオンではなく、うずくまるワルターの元。
「ワルターに発破をかけた。先程までの無様な姿と思うなよ?」
その言葉に違わず。
暴力的な速度と勢いは「荒々しい」を通り越し、猛獣そのもの。
対応できないタキオンに飛びかかるワルター。猫がネズミを襲うように、
そのままタキオンの体を切り裂く。
「ッ!!」
ハサミで指をうっかり切ったような、そんな痛み。
それを指から胸部全体に移し替え、広がったもの。
目に見える裂傷こそないが、タキオンが感じる痛みに嘘偽りはない。
歯だけでは受け止められない。目と顔を食いしばり、
歪ませながら、背中で体を包むように姿勢を倒す。
「大丈夫、血は出ないから!」
「違う、痛いんだよ…」
ゲッシーの何処かズレたフォロー。
全くそれどころではないと、痛みを堪えつつも物申す余裕。
タキオンにはまだ、立ち上がるだけの力が確かにある。
何も、ルミナキャストの力が優れているからではない。
ゲッシーは不安そうにタキオンの顔を覗き込むも、予想外にタキオンは微笑んでいる。
バカみたいかもしれないけど、と言うのは、彼女が述べた前置きだ。
「今、すごくワクワクしてるんだ」
昨日、ゲッシーに遭った日の夜。
ヨシノがステッキを振り回しながら考えていたのは、かつてのヒロインのこと。
自分がそうなったら?自分が誰かを守る立場になっていたら?
少なくとも、大好きだったヒロインのように戦いたい。
理由は単純、そうじゃないと格好が付かない。誰も守れないから。
「フフフ…なかなか優秀な奴をルミナキャストに選んだようだな」
仮面の男がその戦いっぷりに感心する。ヨシノが内心で回顧しつつも、
タキオンとワルターの攻撃の応酬は続く。ステッキを盾がわりにして、
不定形の拳を受け止める。そのまま懐に潜り込み、地面に背をつけワルターを蹴り上げる。
柔道で言う巴投げ。タキオンは道路にワルターを思い切り投げ込んだ。
「逃がさないよ!ワルター!!」
大きくなったらヒーローになりたい。ヒロインになりたい。
小学校に通う前にほのかに抱く、そんな将来の夢。
今のヨシノはその頃の気持ちに回帰し、それを叶えている。
その勢いのまま、タキオンは一飛びで放り投げたワルターのもとへ。
そして、その付近にはゆっくりと歩くお婆さん。
状況を飲み込めていないのか、特に意に介さず。
それに気付かない仮面の男ではない。
「ワルター…ここはひとつ、その年寄りを攻撃しな」
「ウソだろ!?やめろ!」
タキオンよりも先に、声を荒らげるゲッシー。
独りで戦うなら余計なことは考えなくてもいい。しかし、人質がいたら?
庇護すべき対象がいたら?傷つけないフォローが必要となる。
即ち、戦況は先程までと比較しても一気に不利になる。これが仮面の男の戦略だ。
「ダメだ!まだタキオンは戦いを始めたばかりなんだぞ!絶対にそのお婆さんが傷つく!」
「フフフ…お前はわざわざ敵が強くなるのを待つのか?」
更に焦るゲッシーと、それを嘲笑う仮面の男。
確かに、私はまだ今日初めて変身したし、今が限界じゃないのかも。
タキオンも一瞬、そのように仮面の男に対して同意しかけるが、今は老婆の命の危機。
そして、意にも介さず攻撃を仕掛けようとするワルター。
距離があり、間に合わないかもしれない。そんな中、
タキオンが駆けると同時に、ゲッシーが叫ぶ。
「カット!」
「コンプラ的にまずいって!」
「え?」




