第6話「パートナー解消!?ゲッシー、最大の危機!」 Bパート②
ゲッシーを連れ帰る作戦の前に、
空腹に耐えかねたヨシノが入ったのは、ラーメン屋。
知らぬ店ではあるものの、外装はそこそこ古めかしい。
歴史がある店なら、味は問題なさそうだ。
店に入って最初に目に入ったのは店主。黒いシャツにバンダナと言う、
きわめてオーソドックスなラーメン屋の格好、それに白い仮面。
そう、ムジカントムだ。
「フフフ…へい!らっしゃい!見ない顔だね」
その薄ら笑いは聞き飽きたぞと言わんばかりに、
ヨシノは呆れと驚愕をその顔で浮かべながら、
ムジカントム!と声を上げる。
「フフフ…完璧な変装だっただろう?」
「バレバレだよ!」
咄嗟に口に出るのも無理もないが、
ムジカントムはそんなヨシノの即答に対しても、
いつものように笑って誤魔化すのみ。だが、
ちょっと目線は下がっているし、肩の角度も弱弱しい。
本気でバレないとでも思っていたのだろう。
いくらお約束だからと言っても、いい加減学習した方がいい。
ヨシノはそんな風に呆れた様子を見せながらも、
ルミナスコープを構えて、早速、臨戦態勢。
そんなヨシノを尻目に、ムジカントムはそば揚で麺を華麗に掬い取る。
その手捌きには感嘆するばかりだが、
その前に変装をもっと上手くした方がいい。
「フフフ…お前が勝ったらこのラーメンをタダで食べさせてやろう。だがお前が負けたら分かるな?」
と、どんぶりをカウンターに置きながら語る。断っておくが、
別にヨシノがムジカントムに中華そばを頼んだという事実はない。
そして、テーブルの上に置かれるは、
煮干しの効いた濃厚な香り。ヨシノとしても、
何をこの男は地元の味まで学んできたんだと笑うしかない。
「出てこいワルター!今日こそルミナタキオンに引導を渡せ」
キッチンから出てきたのは、筋骨隆々の奇怪な大男。
ワルターが今まで身に着けていた仮面は見受けられない。
その替わりと言わんばかりに、自己主張するのは丼。
頭蓋の替わりにラーメンが載ったその姿。ご当地キャラクターの類を、
極限まで誇張したようなその容貌。
「敵はルミナキャストばかりではない…となると」
「今のままではまだ不足、と言うわけだな…フフ」
数日前の出来事である。ペルソナクスのアジトで語らう、
エゴシックとムジカントム。イーヴィルタキオンに対して、
完膚なきまでに叩きのめされたこともあり、
現状に強い懸念を抱くのは当然の帰結と言えよう。
「ワルターだけじゃ足りなさそうね。ルミナストーンがあればいいのだけど」
ワルターもピンキリ。仮面への特別なチューンナップ、
素体の精神状態、そして生成の際の工夫。
さまざまな要因で強弱は変わっていくものの、
ペルソナクスは強力なワルターを生み出すことに余念がない。
ルミナストーンを求める理由も、その石があればより効率的に、
強いワルターを開発できる。或いは直接、
改造を施したワルターに組み込む材料になり得るからだ。
「そんな雑兵、いたところでどうにもならんわ」
異議を唱えるのはハラガヘッタ。確かに、
イーヴィルのようなイレギュラーを考慮せずとも、
ワルターは今のところ全敗。敵の戦闘能力には、
到底及ばないのも事実である。元がダメでは、
強くしたところでどうにもならないと言うのも一理はある。
「ダメ出しなら誰でも出来るわよ」
代案を出しなさいよ。エゴシックはすかさず反論するが、
ハラガヘッタが出した答えはシンプル。ワシの怪人を出撃させる。
この唐突な提案。仮面男とゴシックドレスの少女の二人組は、
思わず互いの顔を覗き込む。大言壮語か、確信か。
大仰な見栄を切った太った男の方も、自身の配下にある兵は、
お前たちの扱う烏合の衆の比ではないと、確かな自信を覗かせる。
「我が名はラーメン怪人・チュウカソバンなり!!」
「何それ」
ワルターですらない。ハラガヘッタが用意した、
不可解な怪人。さすがのムジカントムとて頭を抱える。
ヨシノが漏らした率直な対応も、
この拉麺怪人が持つ違和感を漠然と察しているが所の物だろう。
「フフフ…こいつはワルターだぞ?」
情報は決して対称ではない。
草之根ヨシノがハラガヘッタの存在を知らないのをいいことに、
ムジカントムはこの拉麺は自分の舎弟だと主張する。
拙はハラガヘッタ社長の部下である。そう拉麺が訂正しようにも、
口を塞ぎ、場の主導権を握らせるのを決して許さない。
「行け、チュウカソバン。そいつの持つルミナストーンを奪い取れ」
「え?」
唐突なムジカントムの発言に、ヨシノが目を丸くする。
その唐突なヨシノの反応に、ムジカントムは思わずえっと声を出す。
お前まで驚くな。そうヨシノが感じた矢先、カット編集でもしたかのように、
取り繕った冷静な姿を取り戻す。試しに、財布の中身を確認してみろ。
そう言われるがままに、小銭入れを覗き込むヨシノに飛び込んだのは、
光り輝く赤いメダル。変則型のルミナストーンである。
「そうか、ヨシノ…俺が動き出したのはその10円のおかげだ」
しゃくしゃくは自分が意思を持ち、動き始めた意味を知る。
偶然、自動販売機から出てきた不可思議な釣銭。
ヨシノがエラー硬貨と思っていたそれは、賢者の石。
今更気付いたのは、普通の硬貨に擬態しきれていたから。
俺達のような、強い魔力を有する存在と対峙することで真価を得る、
いわば一種の魔力体反応。そうムジカントムは予測するものの、
ヨシノにとっては未知の単語。
「ムジカントム殿…拙は魔力を持ちませぬ」
「黙りな?」
ムジカントムに命じられるがまま、ヨシノめがめて突っ込むチュウカソバン。
そんなヨシノがルミナスコープを覗き込んで、至る姿はルミナタキオン。
そのままタックルを受け止めるものの、タキオンの視界は大きく揺れる。
「ヨシノ!無理に組み合おうとするな!そいつ、体格に見合った力があるぞ!」
ゲッシーは不在、ワルターも不在。そして、
この変則的な戦いのセコンドとして立つは、しゃくしゃく。
タキオンに変身したヨシノにアドバイスを行いつつも、
彼女の財布からルミナストーンを抜き取り、走り抜ける。
「フフフ…抜け目ない奴だな」
そのまま身を乗り出し、追いかけるはムジカントム。
戦いの隙に硬貨型ルミナストーンを盗み取る可能性を想定し、
咄嗟にそれを保護しようと駆け抜ける。
仮に奪い取られたとしても、それは今であってほしくない。
ゲッシーとまだ正式な会話を行っていない事を思い出つつ、
しゃくしゃくは人の入れぬ隙間を潜り抜ける。
「2VS1ではさすがに格好がつかないな…」
しゃくしゃくに逃げられ、ムジカントムは途方に暮れる。
ワルター…もといチュウカソバンと一緒に戦う行為は、
彼の美学においては決してありえない。
この男がルミナキャストと行っているのは、
単なる生存競争ではなく、自身を主役と誇示する行為に他ならない。
戦いをワルターや不気味な麺類に任せても、
自身の戦いに補助輪を付けてもらうような感性までは持ちえない。
「そんなに言うならタッグマッチにしてやるよ、ムジカントム!」
今度は聞き覚えのある声だな。
嘲笑うように確認するムジカントムの眼前に現れたのは、
泥にまみれて薄汚れた毛玉。ゲッシーである。
必死に駆け抜けたことが伺える、その車体。
そしてその傍らに掲げるは、ルミナボックス。
ムジカントムも一目見て宝石箱の意味を理解し、
ゲッシーに対してひとつ推測をする。
「そこに入っているルミナストーンでタキオンを強化されるわけだな」
そのままゲッシーがルミナボックスを展開して、
ルミナストーンを激しく輝かせる。その光を吸い込むように体に纏い、
そのまま体を丸めて、砲弾のように仮面に突っ込む。お前が戦うのか。
ムジカントムもたまらず仮面を抑えるものの、攻撃としては効いていないのか、
勢いを維持しつつも、顔を抑えて得物のナイフを振り回す。
「は…速い!やばいぞコレ」
体に鞭打ち。ゲッシーも無理を強いれば、
相応の速度で周囲を翻弄できるのだが、ムジカントムはそれを上回る。
自分よりも足が速いと言うよりも、不思議な引力で近づいていくような、
奇妙な威圧感。この不気味な触感から逃げ出すように、
ゲッシーは空中前転で思い切り突っ込み、ラーメンの湯船に思い切り飛び込む。
「ゲッシー!」
思わぬタイミングでの再会に、タキオンは思わず叫ぶ。
チュウカソバンの頭から顔を出す、スープまみれのゲッシーに、
呆れと笑顔を交えつつ。戦闘の最中ではあるものの、
今のヨシノに不安はない。




