第6話「パートナー解消!?ゲッシー、最大の危機!」 Aパート③
「あ、ヨシノも歩数気にしてる?」
一瞬立ち止まり、スマートフォンを操作しつつ凪が語りかける。
「歩数」とは彼女らが利用するアプリの話である。
一定の歩数に達したら、何らかのポイントに変換可能。
そうすることで買い物もしやすくなる、といった構造だ。
「私は凪とは違うアプリだけどね」
そんな風に、動画広告を尻目に彼女と歩き雑談しているヨシノ。
彼女は歩数をコンビニで使えるポイントとして貯め、
派手な結果主義の凪は、懸賞応募のポイントを適宜発散する。
そんな互いの性格の差が表れている。それなりに歩いた後、
彼女たちの地域に馴染んだクレープ屋に初めて行く。初めて、
と言うのは、以前は大型店舗の一角にあったクレープ屋であったものの、
事業再編の影響でそのテナントが様変わり。空中分解してしまったところを、
地域の無辜の鶴の一声で移転することになったからだ。
「うわうまっ!なんでもっと早く行ななかったんだろ私」
「一人で行くの大変じゃん。んなもんっしょ」
チョコバナナとキャラメルバナナ。阿吽の呼吸で同時にかじる。
しゃくしゃくも食べる?とこっそり聞くものの、俺はいいと突き返す。
ぬいぐるみが動き出した存在とはいえハムスターである以上、
人間の食べ物を摂取するのはやはり問題。ゲッシーとは違う。
そうした現実的な観点のもと、しゃくしゃくはカバンに隠れてヒマワリの種をかじる。
「いやーでもヨシノがいてよかったわ」
流れるように歩いて二人がたどり着いたのは、ボウリング場。
当初、凪はバスケ部の友人数人と一緒に出かける予定を立ててたところ、
都合悪く急用ができてしまったと言う。予約こそ入れてなかったが、
最初のプランの中にあったのがこのボウリング場とのことだ。
どうせならもっと大人数で盛り上がりたかったとは凪の弁だが、
わざわざみんなを呼び寄せる状況でもないなと訂正し、見送る。
「あと美術部の三鳥とか?」
「み、三鳥さんか〜…」
ヨシノ側の友人はどうだろうと、凪も一瞬話題に出すも、
当のヨシノの反応はこの通り。悪意こそ無かったものの、
自分の命を狙う彼女との距離感は、さすがにヨシノとて計りかねる。
先日のイーヴィルタキオンのような異常事態は一回限りと願いつつ、
華麗にガターを決めるヨシノ。雑念が入ってるんじゃないかと凪は笑う。
「ほら、私やり慣れてないから…」
「そんなのあたしも一緒だし、ホラ」
そう言って、7本ほどのピンを薙ぎ倒す。なにが一緒じゃ!
凪も悪気があったわけではないが、このコントラスト。
ヨシノが自身と全然違うと、悪態をつく理由も分かると言うものである。
「あとは、雑念って言ったらまあ…」
気を取り直して、ヨシノは先程の凪の言葉を振り返る。
イーヴィルとの激闘。賢界は大いに喜んだものの、
ヨシノにとって、それは実力の勝利ではない。真正面から戦っても勝てない相手。
今後、ペルソナクスは勿論、バグのような存在との戦いが待ち受けるとなると、
どうやって戦えばいいのか。ゲームを続けながら彼女は考える。
そんな中、凪が叩き込んだストライク。ヨシノの視界は、
その光景に吸い込まれていく。
「(ボウリングって、真ん中を狙わなくてもいいんだ…)」
球とピンの衝突が、乱反射の如くドミノ倒しを引き起こす。
凪が投げたボウルの軌道は、中心からはズレている。
しかし、伴っているのは速度と所作。二つが乗算された勢いは、
ピンを暴れさせるには十分であった。ルミナタキオンとして戦うにあたり、
常に正攻法を見出そうとしていたヨシノにとっては青天の霹靂。
彼女は凪のストライクにヒントを見出した。
「マグレにしちゃ上出来上出来」
凪はヨシノの気付きなど露知らず。
自身の思わぬ会心の一投に浮かれるばかりだ。
腕を伸ばしハイタッチを求めるも、
自分の世界から抜け出さない相方にむくれる。
「ちょっと感動しすぎじゃね?」
戻って来いと言わんばかりに頬をペチペチはたく。
沈黙が厳禁のラジオであれば、間違いなく放送事故だ。
我に帰ったヨシノはワンテンポ遅れて、慌てて調子を合わせる。
「骨董屋…」
そんな二人のやり取りの中、そろりとヨシノのカバンから抜け出し、
外を散策していたしゃくしゃく。鼻を動かす彼が見つけたのは、あまりにも不審な店。
どこか昭和から平成初期の面影を残す、レトロな風景の残ったこの一帯において、
この骨董屋の佇まいは、それとも一線を画す外観を持つ。黒い塗装にゴシック調。
ひび割れた壁には大量の文字。呪術的とでも言うべきか。
物を売る行為には到底似つかわしくない、物々しい雰囲気を漂わせている。
「あっ、しゃくしゃく!そんな所にいたの?」
ボウリングを終え、用事が出来た凪と一旦別れたヨシノが走り寄る。
自分が気付かぬ間に抜け出していたしゃくしゃくを叱ろうとしたのも束の間。
目の前の骨董屋に対して思わず声を上げる。何コレ!?
「入ってみよう。俺と同じ匂いを感じる」
「同じ匂い?」
魔力のようなものの匂いではないかと、しゃくしゃくは言う。
ここで言う魔力とは、ルミナストーンのような、異世界のエネルギー。
自分が一人でに動き出したのも、恐らくはそれが由来。
「ゲッシーもルミナキャストと関係ない設定を付け加えるはずもないしな」
「ま、まあ…それはそうだね」
こんな事を言えるのも、普段からぬいぐるみとして、
ヨシノとゲッシーのやり取りを見守ってきた、しゃくしゃくならでは。
今回ばかりはゲッシーも不可抗力だったのではないか、と言うのは心の片隅に置きつつ。
何か自身に近い気配を感じているしゃくしゃくと共に、ヨシノは骨董屋に入店する。
「無人なのかな…」
黒いカーテン。黒い床に黒い壁。陳列される、甲冑やフスラコ。
お土産のように並び立つ、水晶で作られた髑髏。遮光器土偶。
外装が不気味なら当然内装も不気味に決まってるだろう。
そんな声が聞こえてきそうな、凄まじい自己主張のその店内。
「客人か」
喧しい内装と相反した、呟くような低い声。バックヤードから現れたのは、
骨董屋の主人のようだ。その奇しい店内に違わず、あまりに異様な風体。
接客にも品出しにも、対応できるようには到底見えない、
黒いローブを纏ったその姿。不気味に輝く金属のアクセサリー。
そして、干上がったように皺の刻まれた、カエルの顔。
魔法素粒子界の住民だコレ!
「そなた…もしや当代のルミナキャストか」
思わず声を上げたヨシノに対しても、蛙男は冷静。
事情を知っているのなら話が早いと、骨董屋は草之根ヨシノに一つ、質問を行う。
そなたはペルソナクスを知っているか、と。ヨシノが知っている情報。
これは実質的には「敵であること」のみである。ゲッシーは教えないし。
「本来、科学も芸術も…人の営みにとってどちらかが欠けてはいかん」
ペルソナクスはまさに後者。魔法素粒子界も単純な世界ではない。
様々な派閥が存在し、中には文化排斥派、とでも言うべき勢力も存在する。
それに反旗を翻した上で、野望を燃料にして突き進む存在。それこそが、
科学偏重の時代を壊して、世界を演劇に書き換えるのを目的とした、
破滅劇団・ペルソナクス。
「ルミナキャストはその調和を司る者…そなたも知っておろう」
知らなかった。よりにもよって、最初の変身の際に、
世界の真実・番組撮影の事情を目の当たりにしたヨシノ。
ゲッシーが取り繕わずに、開き直って商売根性を以て振る舞う行為。
これも全て、こうした出会いが招いた側面があるからなのだろうが、
それにしたってもう少し話してもいいだろう。
「ゲッシーが帰って来たら叱ってやれ」
一言、しゃくしゃくが微笑む。




