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第6話「パートナー解消!?ゲッシー、最大の危機!」 Aパート②

「ゲッシーどこ行ったんだろ…10円損だよ」

「10円?」


 コーラのお釣り。ヨシノが言うには、

自動販売機でゲッシーのために飲み物を購入した際、

エラー硬貨の10円玉が混じっていたのだと言う。

そんな災難の世間話をしつつも、ゲッシーもまだ、

そこまで離れた場所には行ってないだろうと、

学区内を回るヨシノ。傍らには、同行するしゃくしゃく。

ホームセンターでヒマワリの種を眺めていないか。

神社で神頼みをしていないか。旧宅を撮影スポットにしようとしていないか。

一通り巡るも、ゲッシーの手掛かりはない。


「ヨシノ…無理に捜す必要はない。あいつは簡単に諦めるようなタマじゃないだろう」


 身の丈ほどのハンカチを以て、ヨシノの汗を拭くしゃくしゃく。

ゲッシーが見せなかった気遣いに歓喜しつつも、喉元で閊(つか)える懸念。

エクリプスベルトの一件を考えると、ゲッシーの存在を抹消することもあるかも…。

ヨシノは以前の変身ポーズを思い出し、しゃくしゃくの前で実演しながらも、

どことなく不安を抱く。そんな中、「聞き覚え」がヨシノを呼びかける。


「ヨシノじゃん、どしたの」


 汗にまみれたヨシノの様子を案じるは、ヨシノの幼馴染、

バスケットボール部の節木(ふしのき)凪(なぎ)。疲れた様子の理由を問われるも、

普段使いの歩数アプリと最もらしい理由を付けつつ。

凪と町中(まちなか)を歩きつつ、ゲッシーを捜す事にした。



「どうにかして、僕が相棒だと示さないと…」


 恐怖と絶望。感情の混線に惑わされるがまま。

一心不乱に駆け抜けたゲッシーは、見知らぬ場所にたどり着いた事に気づく。

車飛び交う道路沿い。向こう側には緑色の看板が見える。


「地球の標識とかってまだよく分からないんだよな…なんだろあれ」


 知識にないものの意味を考えるのは二の次。

ルミナキャストを牽引する存在として、相応しい振る舞いとは何か。

自分一人で出来ることはないか。そう考えながら、

「ルミナストーンのすゝめ」をめくる。ルミナストーンを見つけ、

魔法素粒子界を救う手がかりを見出すために。ヨシノにとって、

それはなんの役にも立たぬ行為ではあるが、

番組(ルミナキャスト)の維持としては、目下の重要事項となる。


人を癒すは燃え盛る泉

水面の底にルミナストーンは眠る


「なんだこれ…」


 ヨシノを誘導する素振りが目立つ故、

何でも知っているように見えるゲッシーもまた、

番組に振り回される存在。決して全能ではない。

この古文書の記述にしても、文章は読めるとして、

ニュアンスまでは解せぬことがあるのは矛盾はしない。


具体的には地球で言う温泉という施設


「あっなんか前にヨシノが言ってた地球の風呂か」


 突如、古文書の記載の次行に浮かび上がり、追加される文言。

ゲッシーはその後付けの予言に導かれるまま、独り温泉施設を探す。

そういえば、ESGが目に着けている場所も、

オンセンが近くとか言っていたような…曖昧な記憶で思い出しながら、

タブレット片手にぶらりと始まる、ゲッシーの孤独な一人旅。


「開封してなかったパックがあったな…」


 まるで日常動作。当てのない探索に疲れ、

一か八かと取り出したのは、もしもの為にと保管していた隠し球。

カード型ルミナストーンの廉価版(コモン版)が封入されている、

明治大正の時代に作られた錬金術師のカードパック。

それら複数パックを、スナック菓子の袋を開けるように、

感動もなく開き、自身を導かないかと神頼み。


杜陵の地

レンタルショップの

カードコーナーのストレージで

レアカードが眠るであろう


「うおっマジか!」


 カードに記されていたのは、思ってもみなかった情報。

地名か、はたまた施設名か。読めない漢字と共に記されていたのは、

以前に探し損ねた、真のルミナストーン・カードの所在。

前回、アクアタキオンとしての姿に至らしめたその切り札。

それは使い捨てと言わんばかりに泡となって溶けていったものの、

今度こそヨシノ達の手元に渡るチャンスが訪れる。

余談だが、ゲッシーは地球の土地勘や地理に関しての知識などは皆無である。

この宇宙小動物単体では、示された情報を活かすことは未来永劫訪れない。


「でも今はオンセンの話だったよなあ…」


 主題はそこに無い事に気付き、ひとまず保留とするゲッシー。

その眼前で彼を見下ろすのは「天然温泉」の文字が記されし看板。

そして、ルミナストーンを収納する宝箱・ルミナボックスが、

通信機器の着信のように激しく震える。あった!

思ってもみなかった奇跡。ゲッシーは宝石(ルミナストーン)の獲得に向け、

そのまま勇み歩く。


「反応が特に強いのはお風呂の中…」


 店員の目を盗み、なんとか侵入に成功するゲッシー。

金銭の伴わない入場など御法度ではあるが、

ハムスターが経済取引をすることも番頭は想像していないだろうと、

忍び足で突き進みつつ。湯船の底で揺らぐ、

紅い輝きを目にして、そのままダイビング。


「うわっおめ何湯っこさ入っちゅうんずよ」


 脈絡なく、茶色い毛玉が湯船に乱入する異常事態。

老人の驚愕ももっともである。ゲッシーの方も、

見知らぬ一般人にその姿を見られたのは損失。

その場をやり過ごすために取ったのは、擬態。


「ワン!」


 無論、サッカーボール大の丸いフォルムのハムスターという生物は、

この地球に存在しない。犬の方がまだ近いのではないか。

そんな会話を以前ヨシノと交わしていたことを思い出し、

子犬のように吠え続ける。当たり前だが、犬が銭湯に入っていい道理はない。


「うえっすいません!」


 老人に思い切り湯をかけられて、たまらず塀を飛び越え脱出。

そして、それで諦めるゲッシーではない。即興で作り上げるは、

特製の釣竿。ルミナストーンをサーチして確実に回収する性質を持った、

錬金術師の弟子としての、ゲッシー謹製の秘密兵器。随分と都合のいい設定である。

そのまま勢いよく釣り糸を投げ込み、カラスが釣り針に食いつく。マジか。

不測の事態。カラスも興味を示したか、その嘴から離そうとしない。

引っ張ろうにも、ゲッシーの膂力ではカラスに敵わず。綱引きを早々に諦め、

思い切りその場で回転し、跳ね上がる。ジャイロ回転の遠心力と、その速度。

圧倒的な運動エネルギーを以てカラスと激突し、

そのままゲッシーは思い切り弾き飛ばされる。


「ウソだろあのカラス…化け物級じゃないか」


 どうした?こっちに来いよと、人間で言う手招きの仕草でその翼を動かすカラス。

番組が創り出したか、地球に元から存在する規格外の個体かは分からぬものの、

ワルターに匹敵する壁となるのは間違いない。そんな中、

カラスはゲッシーの懐から漏れる光を逃さない。アッと驚く。

そんな眼下のハムスターの表情を見て、カラスは確信に至る。

お前の大事なものはそっちの方か。陽射しの反射で煌めいたのは、

ゲッシーのお気に入りのヒマワリの種の袋。目にも止まらぬ速度。

そのまま、辻斬りの如くゲッシーを横切り、

盗人の如くその袋を掠め取る。太陽を背に舞い上がり、見下ろしたその先に、

激しく泣き喚く、弱々しいハムスターが地に伏せ項垂れている。

相手が悪かったな。彼の「本命」を掠奪(りゃくだつ)出来たことに満足し、

釣竿など最初から興味が無かったかのように、その場を去ってゆく。


「かかったな…知恵比べは僕の勝ちだ!」


 力で敵わないのならば。ヒマワリの種の袋からの一連の行為は全て、

カラスを誘導させるためのゲッシーの演技であった。

カラスのプライドの高さを察知し、咄嗟に自身の大好物をチラつかせる。

肉を切らせて骨を断たせない。釣竿を守るための捨て身の決断であったが、

その食い縛る歯から垂れる血液。それこそが、

勝利の代償たる、好物を喪った絶望を示している。


「捕まえたぞ…ルミナストーン!」


 圧倒的な強敵たる黒い鳥。カラスに対して、

多大な犠牲を払いつつも、何とか自らの使命を果たしたゲッシー。

吸い込まれるようにルミナボックスに嵌め込まれた宝石は、

ルビーのような紅い姿から、エメラルドの翠に色彩を変える。


「よし、いい魔力体反応だな」


 魔力体反応。平たく言えば、物質界の炎色反応の亜種である。

反応するエネルギー同士の反発や結合に応じて、

様々な輝きを見せる、といった代物。魔法素粒子界特有の現象である。

本来、賢者の石たるルミナストーンは赤い色を原則とするが、

それでは商品としてのメリハリがないと判断され、

ルミナボックスに嵌め込むと対応する色に変化する機能のために、

後付けされたのが由来の設定こそが、この緑玉の如き輝きである。


「疲れた…ちょっと休憩しよう」


 この時ゲッシーは、無意識下で最初から目標に向かっていた事に気付く。

歩いた先にあったのは、道の駅。そして、「ESG」がそこにいたのだ。


「…地球では見ない品種のハムスターだな」


 ハムスター扱いされてむくれるゲッシーの目の前に立つは、

荷物を運ぶ途中にある、エプロン姿の青年。地球人と遜色のないその容姿。

そして、話す言葉は暗号が如く。地球人の耳では知覚出来ない、

特殊な発声。宇宙の言語を以てして、二人は対話する。

Earth Strategy Government。日本語で「地球経済施策団」と言う。

彼らは地球の貨幣価値に優位性を見出し、この星に派遣された、

宇宙のエージェントとも言い換えられる存在だ。


「それがお土産屋で働いてるなんてね」

「そう不思議がるな…言わば異星の民族文化の発信地」


 それが道の駅。

初対面ではあるが、この星の人間ではないという共通項。

互いの素性を明かし合いつつ、ゲッシーとESGの男は話に花を咲かせる。

品出し、レジ打ち、清掃。ポップの作成、SNSの発信。

これでも、アルバイト代を仕送りするだけで馬鹿にならない金額になるのだ。

大層な肩書のわりに、やっていることはえらく地道だが、

得てして商売とはそんなものである。


「いらっしゃいませ〜」


 そう、冷徹な表情で熱弁するESG職員兼お土産屋さんのレジ担当は、

会計に買い物かごが置かれたその瞬間、再び地球の言葉を話す、バイトのお兄さんに戻る。

咄嗟に物陰に隠れ、そのまま場を去るゲッシーは、

彼のプロフェッショナルに笑えばいいか、感嘆すればいいか分からなかったが、

抽出された熱意のみを受け取った。



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