第6話「パートナー解消!?ゲッシー、最大の危機!」 Aパート①
「フフフ…コックもいないのによくもそんなものを用意できたな」
ムジカントムとハラガヘッタの両名。ペルソナクスの男二人は、
エゴシックがテーブルにエクルビスとグルヌイユを並べ、食している様に魅入られる。
要するにザリガニとカエルなのだが、
フランスではこういった食材もまた、
相応に品のある料理として食されるのである。
「ガハハ!格好をつけるのも大概にしろ」
ハラガヘッタは笑いながら、チーズかまぼこをつまみ、麦酒を飲む。
その様子を見るムジカントムも変わらず、フフフ…と仮面から声を漏らし、
お前はもう少し格好をつけろと、ハラガヘッタを嘲笑う。男二人には目もくれず。
エゴシックはナイフとフォークを巧みに連動させながら食事を嗜む。
余談ではあるが、彼女はこれら料理の食材を、
その辺のドブから探し出し、丹念に泥と寄生虫を取り除き、
自ら調理を行なった。自らを演出するのに余念がないのは、
何もムジカントムだけではない。ドブ周辺で野宿を行い、
数日間かけてその泥を取り除いた彼女。そんな事実は胸にしまい、
口をナプキンで拭くエゴシックである。
ゲッシーは睨んでいた。
自分よりも小さく、それでいて、ふてぶてしくリンゴを齧るハムスターに。
まるで、自分の方が強いんだぞと誇示するが如く。
「何ぬいぐるみとにらめっこしてんの」
こいつ僕よりイケメンじゃない!?と、ヨシノに怒りをぶつけるゲッシー。
まさか、私物のぬいぐるみに嫉妬を覚える奴が現れるとは。
ヨシノとしても、今まで考えもしなかったことである。
「僕の方が学歴はあるんだからな!」
ゲッシーはヨシノ本人から、彼女の宝物へと矛先を方向転換。
一般的なジャンガリアン程度のぬいぐるみに対し、
自分より小柄なくせに生意気だぞと、サッカーボール大の体躯のゲッシーは怒り散らす。
全く、いじめないの。ヨシノはリンゴを齧る彼を抱きしめた。
「言っておくけど、いじめられてるのはゲッシーね」
こんな可愛い子に勝手に傷つけられてるんだからと、
リンゴのハムスターを愛おしむヨシノ。それを見たゲッシーは、
何も齧ってないのに頬袋を膨らます。一方的に荷造りを始めるゲッシーだったが、
これは何も、拗ねたからと言うだけではない。前倒しにしただけで、
以前より、番組の上層部との報告と打ち合わせを行うと伝えていたのは、
当のゲッシーである。
「僕がいない間に他のハムスターを増やすんじゃないぞ!」
「あ、ゲッシー。コーラ冷やしてるから」
風呂敷に荷物を詰めて、そそくさと部屋を後にする。
宇宙でも風呂敷って使うんだ…。そんな気の抜けた心持ちで、
ヨシノはひとまず馴染みのぬいぐるみに触ることにした。
「ヨシノ、ワルターについて色々聞かせてほしい」
「ワルターはね、人の心の闇の部分を無理矢理引き出したものみたいなんだ」
翌日。ヨシノの部屋に帰ってきたゲッシーは、
信じられないものを目にした。
ハムスターとヨシノ。カップルと呼ぶにはアンバランスな両者が、
ベタベタとくっつき、楽しげに雑談を行っている。そして、
ヨシノの傍らの喋るハムスター。ゲッシーが敵愾心を覚えた、
あのリンゴのハムスターのぬいぐるみである。
「あ、ゲッシー帰ってきたんだ!」
ヨシノが振り向くも、既にゲッシーの姿はそこにはない。
何処へ行ったのかと身を乗り出す。リンゴのハムスターも、
そのままヨシノの肩によじ登り、ゲッシー捜索に参戦する。
「ウソだろ…降板!?」
昨日のことである。ヨシノの立ち入れない、とある領域。
真っ白い風景が広がるようにも、宇宙空間が拡がるようにも解釈できる、
不可思議な領域にゲッシーは訪れていた。草之根家を不在にして、
番組サイドから命令を受ける際は、ここで食事を摂ったり打ち合わせをすることも多い。
要するに楽屋裏である。そこで、ゲッシーはとある相談事を受けていた。
「地球の経済に乗っかることも視野に入れた方がいいかもしれんな」
魔法素粒子ルミナキャストはビジネスである。特に、辺境の惑星かつ、
経済・文化的特異点の地球でロケを行うことについて、
ゲッシーの上司は一つの番組の枠組みをも超えた、
一大プロジェクトと位置付けているとしても過言ではない。
「この番組のロケ地には経済機関も潜伏してるみたいだからな」
「ああ、地球ではESGと名乗っているとか」
日本円の1円が、宇宙では5万円、10万円ほどの価値まで跳ね上がる。
そこまで極端なレートの飛躍があると言う事実は、
宇宙の放送局との交渉を試みた地球の女子中学生が現れるまで、
誰一人想定していなかったことであるが、それとは別のルートで、
貴重な文化資源である地球にて、ルミナキャストの撮影が行われると事前に察知し、
宇宙から派遣されたエージェントがヨシノの地元に入り込んでいたと言う。
「そう言った側面から…勝手ながら地球の経済と結びつけることができないかと思った」
何か始めるんです?と尋ねるゲッシーではあったが、
"上司"も決めかねていると言う。ひとまずは、
地球の商品を番組内映像に組み込んで、売り込む。
ルミナキャストを視聴する富裕層に地球旅行に来てもらい、
そこで宇宙の経済的組織と提携を結ぶことで、莫大な利益を得る。
「…と言った寸法だ。うまくいけばいいが」
特に、「お土産」たりうるもの。ESGも目を付けていると言う、
地球のローカルな商品に注目したい。そのような相談事である。
走るゲッシーは、昨日のやり取りを思い出し、確信する。
自分の替わりが現れたこと。地球のぬいぐるみを、
ルミナタキオンのパートナーとして売り出すことを。
「もしかしてだが…ゲッシーの奴は見捨てられたと思ったんじゃないか?」
「ええ…しゃくしゃくが新しいパートナーだと思ったってこと?」
「しゃくしゃく」とは、リンゴのハムスターの名前である。
決して実際の商品名ではないが、ヨシノがそう名付けたのだ。
ゲッシーが、彼女のぬいぐるみたる「しゃくしゃく」に嫉妬し、
到底伝える空気ではなかったが、リンゴを齧るかのような在り方が、
その名前の由来である。
「俺の方がゲッシーよりもヨシノとの付き合いは長い…それで俺が喋り始めたとなると」
しゃくしゃくはそのまま推測をする。自分が喋りだしたのも、
ルミナキャストという番組からの介入、不可思議な力が由来なのは間違いない。
そして、都合よく設定を改竄する形態である以上、
ゲッシーも例外ではないと思ったのではないか、と。
「なにをそんな…それで私がゲッシーをいらないと言うとでも思ってるの?」
ヨシノが振り回され続けているのは事実。
ゲッシーに対して、腹が立ったり苛立ったりするのも事実。
しかし、ルミナタキオンとして一緒に戦う決意をしたのも、
また事実。馴染みのハムスターのぬいぐるみが喋ったこと。
彼女はそれが嬉しかっただけで、ゲッシーの存在意義とは別問題。
「どっちかなんて決めなくていいじゃん」
相棒と走り抜くこと。少なくとも草之根ヨシノにとって、
その目標に「選り好み」などと言う選択肢は存在しない。




