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第5話「最強の敵、イーヴィルタキオン!」 Bパート③

「自分の心の闇にもこんなに果敢に…さすがヨシノさんだわ」

「何が心の闇じゃ!」


 イーヴィルタキオンは草之根ヨシノの人格から派生した闇でもなんでもない。

三鳥(みとり)賢界(のりか)が創り出した、全くの捏造である。

如何にしてイーヴィルが生まれたのか。賢界による台本を口頭で突きつけられるが、

ありもしない闇などルミナタキオンは望んでいない。


「ノリカ…何故君はそこまでヨシノに入れ込むんだ?」


 数ヶ月分のお小遣いを出した価値はあったわね。

そう、自身の同級生を称賛する賢界に対し、ゲッシーは番組を乗っ取った理由を問う。

それを聞くの?と言った顔つき。そんな彼女の動機は単純。眩しかったから。

ヨシノがルミナタキオンとして戦い続けることを選んだ理由。

戦いを続けるか否かの選択肢を突きつけられたきっかけ。それらは必ずしも、

世界平和のためでもない。金銭のためでもない。


「そんな中、いきなり戦いの場に放り込まれて喜ぶ人がいる?」

「う…すいません」


 謝るな!タキオンは、ゲッシーの不甲斐なさに思わず怒号の横槍を入れる。

しかし、賢界はむしろ、先に答えを言ってくれたと朗らかに笑みを浮かべる。

騙す側すら申し訳なくなるその構造。それこそが、

賢界がルミナタキオンに惹かれた理由である。


「私も、クラスメイトも…みんな投げ出すと思うわ」


 ゲッシーのタブレット越しに見せられた、ファンの声援。

事故のように眼前に飛び込んできた、いかがわしいファンアート。

確かに、草之根ヨシノはルミナタキオンとして、視聴者からの声援を受けていた。

だが、面を向かって自分の歩みを肯定される行為。

無論、これは初めてのことである。


「だから、最強の壁たるイーヴィルタキオンを乗り越えて、輝いてほしいの」

「いやもっとやり方があるでしょやり方が!!」


 草之根ヨシノに誰よりも希望を見出した少女。

そんな賢界が行っている事といえば、死の概念をダイレクトにぶつける事。

よもや、自分の覚悟が友人を狂わせたとは。そんなヨシノの動揺を許さぬように、

イーヴィルは正中線上にステッキを構え、ネガ・タキオンフィールドの次弾を装填する。


「まずい!ヨシノ、逃げるんだ!」


 イーヴィルの位置関係を見るに、タキオンに対しての追撃は問題なく可能。

身の危険を案じ、逃走を促すゲッシー。だが、タキオンは逃げる素振りを見せはしない。

そのまま、ルミナステッキを前方に掲げ、伸ばし切った右腕の内側の肘。

肘窩《ちゅうか》に左の掌を添える。


「まさか…新必殺技!?」


 思わぬタイミング。ゲッシーすら予想外のこの事態。

ただの新技ではない。ゲッシーがその体毛で感じたのは、

タキオンフィールドをも凌駕する、敵を打倒する強烈な力。

あり得ざる最強の敵の存在。それこそが、タキオンの生存本能を後押しし、

草之根ヨシノの心を昂らせるトリガーとなる。

友達が応援してくれるんだから、ファンサービスの一つくらいはしないとね。


「タキオンレーン!!」


 ネガ・タキオンフィールドと同時に放たれたのは、

前方一直線に突き進む光の線。輝く閃光がそのまま破壊のバリアに直撃する。

最強の盾と激突するは、最強の矛。この場にいる誰もが、

万物を貫くであろう、その威力を確信する。


「させるか!ルミナタキオン!!」


 前振り一つ存在しない、未知のデータ。大腿筋、ヒラメ筋、アキレス腱。

常に優位に立っていたイーヴィルタキオンも、未知の力に対して、

その顔を四方八方に歪ませ、全身全霊で受け止めざるを得ない。

反発する光の奔流が溢れ出し、皆の視界を覆い尽くした。


「効いてない…」


 最強の矛と最強の盾の激突は、引き分けに終わる。

タキオンフィールドから汎用性を取り除き、破壊力に特化させた、

タキオンレーンの威力はおおよそ数倍。だが、

それはネガ・タキオンフィールドと同程度に留まる。


「違うよ、ゲッシー。イーヴィルも消耗してるし」


 タキオンの言う通り。先程までと比較し、汗ばみ、

その息は上がりつつある。しかし、一転。それで止まるイーヴィルではない。

間髪入れずに突っ込み、毒々しい色味のルミナステッキを以てして、

頭骨めがけて振りかぶる。タキオンシフトで間合いを取るのも叶わず。

タキオンは自身のステッキでその棍棒を受け止める。


「実はお金を稼ぐのもお坊さんが質素に生きるのも一緒。要するに見方の差って事なの」


脳にかかる負荷と刺激という意味では、

修行や禅問答も会社の仕事がきついと言った悩みも一緒。

すなわち出力の差。その人がどんな生き様を持っているか、

最終目標に何を求めるかの差だと言う。


「あんな素晴らしい目的を持ったヨシノさんだもの。絶対歴史に残るわ」


賢界の持論としては、誰かの為に戦えるヨシノがルミナタキオンとして頑張れば、

それは悟りや解脱の類に近い、ある意味では神の領域に近い存在になる。

あまりにも飛躍した理屈ではあるが、要するにヨシノが頑張る様が愛おしい、

と言った結論だ。


「いや何言ってんの!?」


さすがにヨシノもこう返す他ない。ただ彼女は視聴者の為に頑張っているだけで、

そこまで自分が頑張る根拠は求めていない。

ひとまずイーヴィルタキオンとの鍔迫り合いに戻った。


「それにしても、あんな小金だけある悪趣味の道楽小娘に番組をいいようにされるとは」


そんな事だからお前は私には勝てない。

イーヴィルタキオン版ルミナステッキ・イーヴィルステッキの、

異常なまでの馬力に押しつぶされそうになるルミナタキオン。

そのあまりにも強烈な膂力にふと目を逸らして視界に入った賢界は、

目を見開き眉を顰めた、あまりに悲壮な表情を一瞬浮かべていた。


「いや傷つくんかい!」


イーヴィルが言い過ぎなのは確かだが、

そうも言われるのはごもっともだろう。そんな風に、この絶望的な状況において、

ヨシノはツッコミと死闘の反復横跳びをする。だが、

そんな間もなくタキオンステッキは弾き飛ばされる。

望遠鏡の造形に似合わぬ鈍器として、イーヴィルステッキが頭蓋を割ろうとしたのも束の間。

体勢を器用に変えたタキオンは白羽取りで、色味の暗転した互換アイテムを受け止めた。

その瞬間。突如、破壊力を伴った光が両者を包む。


「なっ…暴発!?」


タキオンがルミナステッキから光の弾丸を放つ基本技、ルミナライトアップ。

もっとも、言い換えればイーヴィルライトアップか。

謎の発光で双方弾き飛ばされたところ、先に立ち上がって接近したのは

ルミナタキオンの方。意味不明な状況に直感的な違和感を覚えた彼女は、

そのままイーヴィルステッキを掴み、念じる。


「ちょっ…待」


イーヴィルタキオンが声にならない悲鳴をその顔で上げ、

そのまま光となり霧散した。この場にいる誰もが困惑、閉口する。

それもそのはず、ルミナタキオンは草之根ヨシノに戻る変身解除プロセスを、

そのままイーヴィルタキオンに実行してしまったのだ。


「本当に通ったんだ…」


これは何か。端的に言うならば、イーヴィルはヨシノとタキオンを解析し、

カタログスペックを底上げしてコピーアンドペーストしたような存在であるから。

すなわち、「同一人物」と見做されたのである。

つまり、イーヴィルタキオンは変身を解除されたに過ぎない。

「変身前」など存在しないパラドックスに見舞われ、消滅したのである。


「え…これどうしよう」


自分の闇…の捏造を覚悟の強さや力や技術ではなく、

「システムの穴」で倒してしまった事に、有り余る空虚さを覚えるヨシノ。

これで本当に視聴者は喜んでくれるのか?勝ったはいいが、

頭は真っ白。そんな彼女の雪を晴らすかのような拍手喝采。


「すごいわ!ヨシノさん!私が想像だにしなかった方法で攻略するなんて!」


敵の隙をついて倒したのは事実。賢界は目を輝かせ、

自分自身の闇を乗り越えたヨシノに最大の賛辞を送る。

この闇ってアンタが捏造した外付けだけどな。そう思いつつも、

とりあえず喜んでくれるだけマシかと、自分を納得させる他ないヨシノであった。


私、草之根ヨシノ…

いや三鳥さん!さすがに発想がヤバすぎるよ!!死ぬかと思ったわ!!

そして、最強の敵を倒したと思ったら、今度はゲッシーが降板の危機!?

私のハムスターのぬいぐるみが新パートナー!?

外側どころか内側もメチャクチャだよ!!

そんな中、ゲッシーが道の駅で見つけたものとは!?


次回、「パートナー解消!?ゲッシー、最大の危機!」

届ける想いは光を超える!

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