第5話「最強の敵、イーヴィルタキオン!」 Bパート②
「フフフ…お前らしくはあるが、余程苛立っているようだなあ」
光の差さないガルニエ。腕を組み、指をメトロノームの如く動かし、目を細める。
観客席に座るゴシックドレスの少女の有りように、
その後ろで寄りかかって佇む仮面の男は、どこか得意そうに嘲笑う。
「黙りなさい。やすやすとやられた分際で」
普段ならば、自らが立つはずの壇上と向き合い、特等席に座るエゴシック。
その舞台の上では、タキオン同士の戦闘が映像として投影されている。
偵察目的にチューンナップされた劇場に映るのは、
かつてない激闘。その様子を彼女は険しく睨むばかり。
余程機嫌を損ねているようだが、不安か、嫌悪か、
直接自分が戦いたくても戦えない無力感か。その理由は語らず。
「ハラガヘッタが言うように、漁夫の利でも狙っていいかもな…つまらなくはあるが」
先日、イーヴィルタキオンに敗北し、撤退したムジカントム。
療養中のこの男も席に着き、コーヒーカップを手に取り、観戦に興じる。
その熱を口元に持っていき、仮面とカップを衝突させながら、
ルミナタキオンとイーヴィルタキオンのぶつかり合いを高みの見物。
カチャカチャと仮面と陶器の演奏が続くばかりだ。
「そんな仮面外しなさいよ」
エゴシックもさすがに視線を回し、思わず呆れを漏らす。
ムジカントムの美学の一つは、仮面を外さないこと。
その意思を一貫することに全力な事に、エゴシックは決して否定をしない。
だが彼女は思う。ムジカントム。熱い飲み物じゃお酒みたいに、
目に入れ込むのが出来ないからって無理がありすぎでしょ。
彼女は声には漏らさないものの、冷ややかな視線をぶつけた後、観戦に戻る。
「確かにあんな奴に戦いの手柄を取られるようでは、苛立つのも当然だろう…」
ムジカントムはそんな間抜けな姿を晒しつつも、
エゴシックの感情を読み取ろうとする素振りを見せる。
もっとも、この男にとって、自分以外の世界は総てが書き割り。
彼女の真意にどこまで向き合うかは未知数だ。
「それにしても…どうやって番組を乗っ取ったんだ」
イーヴィルタキオンの攻撃の余波で負傷しつつも、ゲッシーの目下の心配事は、
異常事態中の異常事態を巻き起こした賢界の存在。
もしかして、全く別口の宇宙人なのかと問うも、自分はあくまで地球人とは彼女の弁。
では、何をしたか。答えは極めてシンプル。そのものズバリ「買収」であると言う。
「ゲームのキャラクターって、別に生きてはいないわよね?」
今回、賢界が買ったものは「番組の1話分の放送権」と、
「3DCGスタジオ」。ただし、後者はあくまで物の喩え。
地球に存在する一番近い表現の形態が3DCG、程度の意味だと言う。
賢界は一つ、ゲームを引き合いに出して説明を始める。
「あれはあくまでプログラムで動いているだけ」
「そりゃそうでしょ」
イーヴィルタキオンとの肉弾戦を繰り広げる最中。
不意にヨシノとしての顔を見せたタキオンの率直な反応が示すように、
多少なりともゲームなどのカルチャーに触れる中学生ならば、確認するまでもない内容。
ところが、宇宙ではそうとも言い切れない。そう賢界はヨシノの常識を否定する。
今回、イーヴィルタキオンの作成を依頼した製作所が作る、
「キャラクター」とは地球のそれとは全くの別物。
そこで作られるのは質量のあるホログラム。自律した人格を持つ存在。
すなわち、生きたフィクションである。
「宇宙じゃアニメのキャラクターも生き物に近い…実在する者も多いのよね?ゲッシーちゃん」
「確かにそうだけど…そんなところまで踏み込んでるのか!」
本来なら、地球人が知るはずのない情報。
それをベラベラと解説する様に対して、ゲッシーは驚きを隠せない。
彼女の喩えは続く。最近手に取った漫画のキャラクター。
或いは街角の看板に描かれたマスコット。ヨシノも何らかの形で毎日見かけるであろう、
それらキャラクターが実際に芸能活動をしている感覚こそ、賢界が地球人目線で、
種族としての「キャラクター」を見聞きした感想に近いと言う。
そして、イーヴィルタキオンの誕生の経緯を一通り語ったところ。
「どこからそんなお金用意したの君!?」
賢界のそれは女子中学生が放つものとして、あまりに身も蓋もない回答。
余計に深まった謎に対して、思わず身を乗り出し、問い詰めるゲッシー。
一体いくら積めばそのような行為が可能なのか。
そもそもどんな通貨を利用したのか。ゲッシーが困惑のループに陥るも、
それを脱する条件分岐も同様にシンプル。
「10万円よ」
「10万!?」
今度はタキオンが叫ぶ。10万円。イーヴィルの攻撃の余波で吹き飛び、
一人と一匹の会話に割り込まざるを得なかったタキオンが声を張ったのも、
その金額が中学生のお小遣いとして破格だからではない。
その程度の金額で、宇宙のメディアをコントロールする異常事態に対してである。
そんな困惑に応えるが如く。畳み掛けるように、賢界は買収に至ったシンデレラストーリーを回想する。
「地球の貨幣価値ってものすごく高いのよ」
様々な創作物が宇宙の広域で人気を博したことがきっかけで、
地球の文化的価値が高いと言うのはゲッシーも述べた通り。
しかし、本格的に経済取引を行ったのは、賢界が実質的な第一人者となる。
その際に、地球の通貨のレートを算出したところ、
1円が何万倍もの価値になったのだと言う。
「この手の話で地球側の方が有利なの初めて見たよ!?」
同級生が一時的にとはいえ、どうしようもできなかった番組を支配する。
荒唐無稽の極致。完全にタキオンは引っ込み、
草之根ヨシノを前面に出してしまうが、
交代した顔を再び引っ張り出そうと、イーヴィルの攻撃は止まらない。
「随分と余裕だな…ルミナタキオン」
二人と一匹の会話に光弾が混ざったところに、タキオンは即座に雑談の場を退室する。
イーヴィルの方も創造主を殺すわけにはいかないのか、
威力そのものは近くの賢界が身を逸らす程度で済むほど抑えられている。
「余裕ぶってるのはそっちも一緒でしょ」
そんな牽制を放ったイーヴィルの目の前には、本家タキオン。
間髪入れずに正中線にルミナステッキをかざし、タキオンフィールドを放つ態勢に入る。
しかし、それに対応できないイーヴィルではない。鏡合わせのように、
同時にステッキを掲げ、そのまま互いの全身全霊を展開する。
「心の速度で、光と闇を包み込む!覆い尽くせ!タキオンフィールド!!」
「破壊の速度は、光と闇をも閉じ込める!塗りつぶせ!ネガ・タキオンフィールド!!」
タキオンフィールドを同じ位置で、同時に放つとどうなるか。
誰も考えなかった疑問だが、賢界は先に、一つの結論を述べる。
「バリア同士が重なり合うの。どっちかが上書きするまで」
タキオンフィールド同士が、相手を掻き消そうと交じり合う。
本家タキオンフィールド。そして、イーヴィルタキオンによる、
ネガ・タキオンフィールド。最強の盾同士でも、矛盾は発生する。
双方が相手の技を上書きするのを繰り返し、何人たりとも通さない、
万物を遮る盾の座を奪い合う。
「タキオンフィールドって同時に放つとこうなるんだ…すごいなー」
「感心すな!」
あまりにも締まりのないゲッシーの感心。
外野の声など気にしている暇はないものの、相棒の他人事っぷりに、
ルミナタキオンとしても声を荒げずにはいられない。
「私のタキオンフィールドよりも強い…!」
しかし、本当にそれどころではないのだ。反発し合うこの力場。
いつ体細胞ごと焼き尽くされるか分からない、壮絶な圧力に対し、
その足裏に全体重を乗せ、タキオンは踏ん張る。
混ざり合いながら、激しく反発し合う二つの領域。
この鍔迫り合いに勝ったのは、ネガ・タキオンフィールドであった。
「ウソだろタキオン!!」
そのままイーヴィルの必殺技に弾き飛ばされ、
受け身も取れずに思い切り宙を回る相棒の姿。
普段はふざけた態度も混じるゲッシーとて、
絶望を感じざるを得ない。だが、
そのまま地面に叩きつけられたタキオンは、それでも立ち上がる。
自身の技が相手の技を相殺し、
威力を減衰させたのは勿論。
「本物が偽者に負けてたら、みんなガッカリするでしょ?ゲッシー」
それ以上に、自分に負けてはいけないと、傷ついてもなお、諦めない。
草之根ヨシノが信じたヒロインの姿を瞳に映しながら、
タキオンはいまだ闘志を燃やしている。




