第5話「最強の敵、イーヴィルタキオン!」 Bパート①
ある日の放課後。少女が市立図書館へ足を運び、
自身の学校の図書室には置いていないような美術書を借りた時の出来事である。
その帰り道に見かけた、不気味な影の怪物と、
奇妙な仮面の男。そんな奇怪な二者と釣り合わない、
ファンシーな丸いフォルムの大きなハムスター。
大道芸でも始めるかのような、異様な集団。
「るみな…きゃすと?」
そして一際目立つは、輝く色彩を纏った、フリルドレス姿の同級生。
好奇心に導かれるまま、死角を見つけ、物陰からその奇妙な一団の姿を覗き見る。
項垂れ、歯を食い縛る少女の同級生。そんな彼女を気遣う間もなく、
弁解するように宇宙の番組放送の世界を語るハムスター。
「ヨシノさん…」
その心配は杞憂だと言わんばかりに、彼女の同級生・ヨシノは力強く立ち上がる。
決意に満ちた瞳。最後に放った光のバリア。覚悟と希望を込めた、その言葉。
総天然色のヨシノの姿を目の当たりにして、少女は今まで、
自身がモノクロの世界にいたことに気付く。
「来たわね、ヨシノさん。こっちがイーヴィルタキオン」
時は現在。彼女の傍らに立つ、ペルソナクスをも凌駕する最強の存在。
もう一人のタキオンの名をサラリと紹介するのは、ヨシノの隣の席の賢界。
1年間も戦いに付き合わされることに困惑したヨシノとて、
ルミナキャストとしての戦いはまだまだ序盤と感じていたところ。
このような自身の影、闇。表裏の「裏」と対峙するのは、
こんなタイミングでは決してないはず。
このプロットの番狂わせは彼女の脳をショートさせるには十分。
「三鳥さん!どういうこと!?」
そして何より、同級生がルミナキャストの存在を知っていたであろうこと。
今まで、賢界は何度かその要素を会話に被せてきたのは事実。
一体、いつからルミナタキオンに気付いていたのか。
ヨシノの困惑は、最初にルミナタキオンに変身した際、
ゲッシーに事実を伝えられた時に匹敵する。
「最初からよ、ヨシノさん」
ウソでしょ…。
さすがのヨシノも動悸の如く瞳を揺らし、言葉も発せず。
自分を弄んでいたのか。その目で訴えるが、
ヨシノが見る賢界の笑顔には、一点の曇りもない。
「公園の近くで、ルミナタキオンになったわよね?ヨシノさん」
「げっ!まさかジャミングがちゃんと機能していなかった!?」
今度はゲッシーが目を丸くし、思わず跳ね上がる。
ゲッシーの言うジャミング。これは、ルミナキャストの「撮影」が始まる際、
一般人への認識を阻害する、特殊な装置が稼働することを指す。
通り過ぎた老婆のように、意図的にオンオフを切り替えることも可能だが、
余計な干渉を避けるために普段は常時稼働していると言っていい。
例外を除き、この機能があるうちは地球人はルミナタキオンの戦いに気付けない。
「…そのわりに私の動画、ネットに上がってたんだけど」
「あ、それはワザと」
ヨシノは野球部員が廊下で花を咲かせていた話題を引き合いに出す。
しかし、図書室のやり取りが示したように、ある程度のラインにおける、
一定の困難は盛り上げるためのハプニングは最初から織り込み済み。
それで今、おかしなことになってるんだろうがい!ヨシノはなりふり構わず叫ぶ。
「ああそれそれ!ルミナキャストで観たヨシノさんだわ!」
何処かコントじみた、両者のやり取り。そんな芸を見せつけられる中、
己が両拳を絡ませ、満面の笑みで賢界は歓喜する。
そして、賢界はノートパソコンを取り出し、その液晶に映る画面を見せる。
宇宙の番組、魔法素粒子ルミナキャストである。
タキオンとムジカントムが所狭しと暴れる、ルミナキャストの映像。
BGMには編集が加わったであろう、ヨシノが発した事のないような、
毒気のないセリフの数々。それらを背景にして賢界は語る。
「私…あの時ヨシノさんがみんなの夢になるって言った時、本気で感動したの」
ヨシノが夢になると決意したその日。誰も気付かぬ間合いで、
その心意気を目の当たりにしたのが賢界であった。その直後、
彼女が出来るありとあらゆる手段を使い、宇宙との交信を果たしたと言う。
「宇宙では不正アクセスを防ぐために特定のプロテクトがあるのよね?ゲッシーちゃん」
「ああ…宇宙共通の規格だよ。基本的に通信機器にはどれも組み込まれてる」
そこまで言った瞬間、アッと大口を開けるゲッシー。
その反応こそが、何を以て賢界が宇宙との繋がりを得たかを示している。
ヨシノたちの地元有数の有力な家庭のお嬢様たる彼女。
「地球は一応未開の地でしょ?まだ宇宙の法律は私たちに適用されないわ」
端的に言えば、父の会社をきっかけとし、
そこでコネを得たエンジニアに協力を得て、
ゲッシーたちの利用する中継局にそのまま接続。
そこからWebサイトにアクセスする要領で、
宇宙の配信サイトへの会員登録等を完遂したと言う。
「地球の通信プロトコルにはプロテクトなんてないもの」
宇宙の通信機器からしたら、地球のそれは型落ちもいいところ。
それ故に、不正アクセス防止プログラムの対象から抜け落ち、
遠い星との接続が可能となる中継局に接続。そこから、
地球外生命体のWebサービスを利用するに至ったという。
「…御託はいい。ルミナタキオン。お前を斃し、私が本物となる」
割り込むように、イーヴィルタキオンが口を開く。
黒く反転した眼球に、金色に輝く瞳。禍々しい色彩の衣装。
纏う殺意は間違いなく本物。その横で首を傾げて微笑む賢界。
どう考えてもそれは同級生にぶつける殺意ではない。
「ヨシノさんならこれくらいの子、きっと打ち勝ってくれるはずよ」
マジか。ヨシノは賢界の狙いを漠然と理解する。
この少女は自分に試練をぶつけに来たのだと。
脚が震えるヨシノであるが、これも強さへの不安ではない。
賢界に対しての畏れである。一方のイーヴィルも、
禍々しい色味のルミナステッキを携え待ち構える。
「そんな偽者に負けるほど、私は弱くはない!」
既に逃げ場はなし。他に道はないなら前進あるのみ。
自身が憧れたヒロインたちもそうしたはずだと、
ヨシノはルミナスコープを覗き込み、吸い込まれていく。
「届ける想いは光を超える。ルミナキャスト――ルミナタキオン!」
「闇き思念は光を呑み込む。我が名は――イーヴィルタキオン」
開幕早々。ルミナタキオンは腰を落とし、
タキオンシフトによるスタートダッシュを決める。
一方のイーヴィルタキオンも、同じ構えのもと、
そのまま体を光へと変換していく。
その姿は瞬く稲光。二人のタキオンが、僅かな時間で、
姿形も持たずに幾度となく衝突を繰り返す。
「イーヴィルは単純なスペックなら本家の数倍よ」
賢界が放ったその言葉に違わず。
闇い稲光に弾き飛ばされ、タキオンシフトを解除。
そのまま勢いよく地面めがけて射出されたのは、
本家たるルミナタキオンである。
「そして、タキオンが出来ない事も可能なの」
地面に叩きつけられる間の僅かな時間。
四方八方。吹き飛ぶタキオンは、
自分の周りに光の球が向かうことに気付く。
「(タキオンシフトと同時に…ルミナライトアップ!?)」
ダメ出しと言わんばかりに、
イーヴィルが高速移動中に放った光弾。
前回のレンタルショップでムジカントムが指摘したように、
本来、タキオンシフトは素手の状態ではないと使用できない。
しかし、イーヴィルタキオンはその制約もなく、
難なくステッキと併用して使いこなしているのだ。
「させるか!」
タキオンが叫ぶと共に、
爆撃のような光と衝撃が辺りを包み、
その余波でゲッシーを吹き飛ばす。
近くの木に叩きつけられたゲッシーであったが、
そのまま転がり、なんとか受け身を取る。
「無傷か…だが、消耗はしているな」
ゲッシーには興味すら示さず。淡々と確認しながら、
禍々しい閃光のタキオンシフト──もとい、
イーヴィルシフトを解くイーヴィルタキオン。
そのまま軽やかに着地したイーヴィルは、
巻き上がった煙が晴れた先を見つめる。
爆心地には、華やかな灯りのドーム。
間一髪のタイミングで、タキオンは己が技、
タキオンフィールドで全弾を受け止めたのである。
「イーヴィルテレパス」
それでもなお、息継ぎなしにイーヴィルの攻撃は続く。
就職浪人の心を救い、節木凪に協力を要請したように、
本質は対話であるルミナテレパスとは決定的に異なる要素。
「頭が…割れる!!」
それは、その性質が「拒絶」ということ。逃げ場の無くなった脳が、
頭で直接暴れ回るように、タキオンの心身を削り取る。
いくら頭を抑えても、鳴り止まない規格外の不協和音。
割れるような振動の中で、イーヴィルの言葉がタキオンの心に鳴り響く。
つくづく…正気ではない。
行き当たりばったり。設定も守らない。
販促も露骨すぎる。そのような、
商業展開ド下手のクソ番組に命を張るなど…
恥ずかしくならないのか
「いややかましいわ!」
思わず叫ぶ。
草之根ヨシノとしても、ルミナキャストの構造の破綻はわかりきったこと。
むしろ、最前線で戦う彼女だからこそ身を以て感じている感情。
本放送では編集されていると言えども、どこまで痴態が垂れ流されてるのか。
到底知れたものではない。だからこそ、ヨシノはルミナタキオンとして戦い続ける。
「ひどい内容だからって、逃げ出した方がみっともないでしょ!」
今度はタキオンが拒絶する。イーヴィルに対して流し込まれるは、
草之根ヨシノの激しい叫び。その心の音色は二人のタキオンの内側で完結し、
外には決して響かない。だが、賢界とゲッシーは確かに目撃する。
イーヴィルタキオンの頭蓋が激しく揺れ、そのまま一人でに吹き飛ぶ様を。
そして、イーヴィルテレパスから脱出し、タキオンは再びルミナステッキを構える。
「私が好きだったヒロインは、誰も逃げなかったからね」




