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第5話「最強の敵、イーヴィルタキオン!」 Aパート③

「三鳥さん…大丈夫だった?」


 翌日。賢界(のりか)と再会するヨシノ。

あの破滅的な状況に触れたヨシノに対して、

開口一番にごめんなさいと頭を下げるのは賢界である。

恐ろしい状況にパニックになり、思わずその場から逃げてしまった。

友達を置いて、勝手に姿を消した事を詫びる賢界であったが、

いちいちそんな事で怒るヨシノではない。あまりの事に、

賢界がどこまで立ち会っていたかはヨシノ自身も把握していなかったものの、

あの後の流れとして警察に通報、そのまま調査をしてもらった…と言った体で、

ルミナタキオンの偽者の件などは最初から存在しなかったように誤魔化した。


「そういえば、私たちってまだアカウント交換してなかったわね」


 どこでも話せる方がいいわねと、

賢界はスマートフォンを取り出す。

彼女の言うアカウント。これは、

通話やチャットが可能なトークアプリのそれを指す。

家族の教育的価値観から、最近までスマートフォンを所持していなかった賢界。

ヨシノとも口頭での付き合いではあったが、

ここで、ようやく端末上の繋がりも持ち始める。


「ハムスター…魔法少女…仮面…錬金術師…」


 映画。ドラマ。動物。アニメ。漫画。演劇。芸人。

様々な人物やキャラクターの姿がヨシノの液晶に浮かび、並ぶ。

嬉しくなって色々買っちゃったの。賢界は嬉しそうに、

アプリ内で利用可能なスタンプ画像を連打する。


「最近ハマってるものよ?ヨシノさん」


 チョイスは自分の関心ごととは賢界の弁。いずれも、

狙い澄ましたかのようにルミナキャストに関わる要素であることを除けば、

特別奇怪な画像は選出されていない。そして、賢界が最後に見せるは、

魔法少女のダークバージョン。スタンプではないが、

自分で編集した画像であると言う。


「私、パソコンは持っているの。色違いを作るくらいなら出来るわ」

「へ…へ〜…」


 正体を知っているのかと言わんばかりの、あまりにも都合のいい画像群。

焦りを通り越して、データの処理落ちのようにヨシノの思考が止まる。

空返事のような、歯切れの悪い返事をする他なかった。


◇放課後、春の祭りでお化け屋敷の出店が来る場所に来てね


 最後に届いたのは画像の伴わない、実際の文章。賢界からの約束事である。

観光地たる公園に何があるのか。唯ならぬ何かを感じたヨシノ。

既に春の祭りは終わってはいるが、地元の住民であれば一言でピンと来る場所。

トークアプリに言われるがままに、出向くことを決める。



「人間がルミナキャストに変身する時、一律にあの姿になるなんてことはないよな?」


 なんとか命を繋ぎ、五体満足で帰還したものの、

安静を強いられるムジカントム。立って歩けるが、走ることは叶わない。

この状況においては、いつものように出撃するのは困難である。

ペルソナクスのアジトでの療養を強いられた幻影紳士。

惚けた質問を、ティーポットを持つエゴシックに対して投げかける。


「ええ。あれはルミナキャストにとっても不利益な何かのはずよ」


 普段ならば、ムジカントムの冗談めいた発言に毒付く歌劇令嬢。だが、

タキオンと同じ姿をした何者か。それ以外に対して思考を巡らす余裕など皆無。

自身と同格の男が一方的にやられる異常事態。彼女としても焦りを禁じ得ない。

紅茶を淹れているのも、心を落ち着かせる為の一環であろう。


「フフ…魔法素粒子界が派遣した刺客かもな」


 魔法素粒子界の錬金術師とその弟子は、何もゲッシーだけではない。

彼らを快く思わない派閥が、我先にと当てつけの如く、

ルミナタキオンのコピーを作成したのではないか?と言った予想である。

このムジカントムの仮説に基づくならば、誰の味方ではないのも矛盾はしない。


「なら勝手に戦わせておけ」


 答えが出ないまま、話題を一旦終わらせようとした中、

横槍を入れたのはパソコンと格闘するハラガヘッタ。腰掛けているのも、

オペラ座の舞台に似つかわしくない事務机。二人のタキオンの仲が悪いのなら、

動かず同士討ちをさせておけと、視線も合わせず主張する。


「ちょっとくらい協調性を持ちなさいよ」

「さあな。本当に困った時に助けを求めるまでだ」


 もっとも、貴様らの助けはいらんがな。そうハラガヘッタは切り捨てる。

エゴシックの方も、この男に期待するのが悪かったと諦観し、切り上げた。

それにしても、パソコンのキーボードを熱心に打ち込み、何をやっているのか。

疑問は尽きぬばかりだが、今は紅茶の香りの方に神経を研ぎ澄まそうと、

エゴシックは嗅覚と味覚に全てを委ねた。


「ワシが日本の外食業界を支配する」


 委ねられなかった。視覚と聴覚が完全にハラガヘッタに誘導される。

何を言ってるの、この爺さん?そんなエゴシックの疑問は尽きない。

そんな事はお構いなしに、スーツ姿の老男は次の商談を模索する。



「5話って言うけど…全何話くらいを想定したうちの5話なの?」

「およそだけど、48話くらいかな」


 48話!?思わずヨシノは絶句する。

いつの間にかゲッシーと合流し、待ち合わせ場所へ向かうついでの如く。

1年はルミナタキオンとして奮闘せざるを得ないと宣告された、公園を歩くヨシノ。

どうせ付き合わされるなら、何か美味しいものでも食べさせてよねと、

給与とは言わずとも、気を取り直したヨシノは対価を求める。


「ところで…なんで宇宙人が地球のアニメみたいなことしてんの?」


 丁度、話数といった具体的な内容に踏み込んだこともあり、

ヨシノは今まで漠然と感じていた疑問をゲッシーに投げかける。

それは地球の言葉で言う収斂進化(しゅうれんしんか)のようなもの。

似たような生き方をする存在、すなわち知的生命体ならば、

映像作品を娯楽にすることに行きつくのだろう、

と、ヨシノにとってよく分からない回答をゲッシーは行う。


「でも、それだけじゃないんだよね。地球の文化が実際に輸入されたんだ」

「え…それどういうこと?」


 ヨシノが疑問に思うのももっともである。

たまたま訪れたUFOに、罪のない地球人が誘拐でもされたのだろうか。

受け売りではあるが、と前置きしつつ。

語り部・ゲッシーによる昔話が始まる。


「チャンネルを回すとたまに放送されてたんだよ」


 お爺ちゃん世代のテレビ!?ヨシノはゲッシーの説明にビビる。

あたかも県境で他県の局の番組が映るような、

妙に地域色あふれるシチュエーションで、

地球の文化がピーピングされていたと言うのだ。

しかも聞く限り、チャンネルの切り替えはダイヤル式。

女子中学生のヨシノにとっては完全に「知識」の類で経験たりえない。


「これも僕たちのおじいさん…もっと前のおじいさんの世代の話でもあるんだけどね」


 ここからは宇宙の発展の歴史の話である。宇宙にも、

経済等の中心となると銀河や惑星が存在すると言うが、

地球はそこからは大きく外れた地点にある。

それ故に、地球の電波を受信した時は、

遠い星の文明の叡智を得られると、世間は大いに沸いたのだと言う。


「電波が上手く届かない時は、叩いて通りを良くしたそうなんだ」


 もっとも、人間換算・小学生の宇宙ハムスター、

ゲッシーの情報もあくまで伝聞。遠い星の電波をキャッチできた事。

その凄さに思いを馳せてほしい。地球の先を行く宇宙標準技術、

その技術の基礎を築いた先人を宇宙ハムスターは讃える。


「その割にダイヤル回してたって言うね…」


 地球人が宇宙探査機を飛ばしてもなお、宇宙の情報は極めて限定的。

それと比較したら恐ろしく高度なことをやっているのは事実。

しかし、白黒テレビに苦戦苦闘するようなその内容。

ヨシノが想像するような超技術とのギャップは凄まじい。


「地球の魔法少女とか、バトルものも人気が高いんだ」


 そうして地球の電波が受信されていく過程で、

地球の文化が宇宙にも浸透していったらしい。

あくまでも部分部分、ではあるが。

ルミナキャストの番組撮影の舞台が地球になったのも、

そうした過程の中で、次第に地球の作品を視聴する環境が整備されていき、

最終的に、文明や立地的には渡航や移住は難しいものの、

地球は宇宙の文化的には重要な場所となったから、という。

そんな話題の最中である。


「え…ヨシノ」

「どうしたの?ゲッシー」


 私物のタブレットからの通知に気付き、画面を確認したゲッシー。

何があったか。その茶色い毛並みが、空色に染まったかのように青ざめる。

宇宙ハムスターにとって、人間で言う顔色の悪い状態なのだろうと、

ヨシノの好奇心はゲッシーが絶望を覚えた内容そっちのけで考える。


「また、上の人が変な指示出したんでしょ」

「それが…」


 出していないと言うのだ。

ゲッシーは情報を上層部から受け取り、それに沿った内容のもと、

展開を推し進める役割を担っている。

しかし、今回は指示こそ出ているものの、

ルミナキャストのスタッフとは一切関係のない、

第三者からの介入によるものだと言う。

少し慣れを感じてきたヨシノであるが、

ゲッシーの様子のおかしさに対して、何か不安を覚える。

そんなにおかしな事態なの、ゲッシー?


「指示を出したのは君の同級生だよ、ヨシノ」

「え?」


 そして、たどり着くは指定の地点。

公園にポツリと立つのは、三鳥賢界(みとりのりか)と、

もう一人のタキオン。

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