第5話「最強の敵、イーヴィルタキオン!」 Aパート②
「こうなってくると、ムジカントムに任せっきりも問題ね…」
王様か、はたまた貴族か。一見、玉座とも錯覚しそうな、
格式高そうなアンティークチェアに座るエゴシック。
光差さぬ劇場で、今後について考える。
実際問題、ルミナタキオンに全敗なのは事実である。
エゴシックとしては、同僚に文句を言うのも無理はない。
「とはいえ、”ルミナタキオン”を斃さないといけないっていうのも重荷かもしれないわね」
草之根ヨシノとルミナタキオンが不可逆、というわけではない。
あくまで草之根ヨシノがルミナタキオンに変身しているだけ。
それ故に、一介の女子中学生にすぎないヨシノを攻撃しても仕方がない。
ゲッシーが次のタキオンを捜すのみ。卑怯な手段を使えば、
もっと効率を追求できる中でわざわざ戦闘という形態を採用するのも、
決して、エゴシック達が手を抜いているからではない。
「もっと強烈なルミナキャストが現れたらたまったもんじゃないわ」
ヨシノがゲッシー側の最適解とも限らない。そのような理由のもと、
既に素性の割れているヨシノを直接叩きに行くのではなく、
ルミナスコープごと破壊して「ルミナタキオン」を潰しにかかる。
それがペルソナクスの行動理念のひとつである。
「ワルター以外の何かが必要なのかもしれないわね」
実際、リクルートスーツ・ワルターを用いたものの、
仕留め損ねたのはエゴシック自身である。
彼女としても、それを忘れてはいない。
そうなると、やはりルミナストーンを探すべきか。
「あら、いたの?ムジカントム」
フフフ…と、いつもの調子で薄ら笑いの声を漏らす。
腰掛けるエゴシックの後ろに立つのは、相も変わらずムジカントム。
ただ一つ違うのは、満身創痍、傷だらけのその姿。
そして、そのまま崩れ落ちたこと。
「ウソでしょ…何があったのアンタ」
あまりの事態。こればかりは、エゴシックも駆け寄り、息を呑むばかりである。
ムジカントムの最大の危機の発端。
これは、ヨシノと賢界、彼女たちが帰りの路を歩く時まで遡る。
取り留めのない会話と共に前進する二名。
そんな中、賢界は何かに気づいたように指を差し、ヨシノの反応を促す。
「見て、あのコンビニ。あんなお店見たことある?」
「見たことある…?」
思わず復唱するヨシノ。こんなところにコンビニが立っていたのか、
という話題かと思いきや、本当に見たことがないお店。
彼女たちが知るような既存の大手コンビニチェーンと比較し、
どれとも当てはまらない外装をしている。
「個人経営かしら」
「いやあ…それにしても変かなアレは」
金の装飾が所狭しとあしらわれた、いっそ悪趣味な外装。
そして、どこかルネサンス風のデザイン。
おにぎりの替わりに美術展そのものを陳列していそうな雰囲気。
それには到底似つかわしくないものの、
確かに24時間営業を示す看板が立っている。
仮面のロゴが描かれた、そのコンビニの名前。
「ムジカントムマートかあ…」
ムジカントムマート!?ヨシノは無意識に呟いた、
その店舗名に愕然。どう考えても自身の仇敵たる、
あの仮面男が絡んでいるからである。
「あ、いや驚いただけだよ!変すぎてね」
そんな事を知る由もないかのように、
賢界が不思議そうに首を傾げる仕草を執っていたのに気づき、
咄嗟に誤魔化すヨシノ。賢界は微笑みながら、
せっかくだし入ってみないかと、好奇心をその姿に乗せる。
彼女が身を乗り出したその瞬間。
「え、店員!?」
コンビニの表面を覆うガラス張りを突き破り、
店員の男が電柱に思い切り叩きつけられる。
ユニフォーム。片手に構えた、断線したバーコードスキャナー。
そして、笑顔を模った白い仮面。ムジカントムだ。
ルミナタキオンとして、まだ決着など全く付けていないはずのこの男が、
今にも息絶えそうな姿になっている。
「ウソ!?ムジカントム!どうしたの!?」
この信じがたい状況。ヨシノは思わず駆け寄り、安否を取る。
自分の知らぬ、まだ見ぬペルソナクスの幹部との内紛か、
はたまた、タキオン以外の戦士が存在するのか。
そして、このコンビニは何なのか。
異様な状況に、ヨシノの質問は止まらない。
「フフフ…この世界で生きるにも何かと金がいるからな」
「働いてたんかい!」
ヨシノをおびき寄せるでもなく、本当に店のオーナーを志した。
資金源として、自らコンビニエンスストアを立てたのだと言う。
確かに、ムジカントムは人の心身を弄ぶ悪党そのもの。
しかし、それを行うのも最終的には自身の矜持を果たすため。
この芝居がかった幻影紳士にとって、窃盗をして生きるのは、
プライドが耐えられないのだろう。
「いや、そうじゃないよ!何があったの!?」
突然の経済活動の話題。そこから慌てて軌道修正を行うヨシノだが、
当のムジカントムの回答を待たずに、彼女は答えを見せつけられる。
異様な風と熱、そして光。その触感に思わず振り向くと、
そこにはドーム状の光に包まれるムジカントムマートがあった。
店舗が粉々に砕け散り、瓦礫すらも灰燼に帰す。
ムジカントムの夢の独立店舗は、その半球体の中で破壊し尽くされ、
完全なる無となった。
「タキオンフィールド…!?」
ヨシノは戦慄する。色味こそ毒々しいものの、
その光のドームは、間違いなくルミナタキオンとしての自分の必殺技。
攻防一体のバリア・タキオンフィールドそのものであったからだ。
バリアの展開が解かれ、その爆心地に立っていたのは、
その破壊の光と同じカラーリングに染まったルミナタキオン。
「え、何あれ…」
「いや知らないの!?」
カバンに詰まったゲッシーが思わず漏らした困惑。
反射的にその呟きにリアクションを行ったヨシノだったが、
カバンから顔を覗かせるゲッシーの様子が何処かおかしい。
「確かに…ペルソナクスのことは全ては知らないとは言ったよ?」
全ての情報を理解しているわけではない。敵側の動向など、
未知の情報はアドリブで対応せざるを得ない状況はあり得る。
ゲッシーは先日のレンタルショップでもそれに近い事を述べたが、
ここまで早い段階で「ルミナタキオンの偽者」が現れ、
ペルソナクスの幹部を倒す。そんな重大な内容、
共有しないことはありえない。そう恐怖しつつ語る。
「早い段階…って言うと?」
「ルミナキャストは放送分で言うなら…今は5話くらいなんだ」
5話!?ヨシノは驚く。主人公の心の闇であるだとか、
自分と同じ姿の邪悪な存在が現れるのは、普通はもう少し後ではないか。
確かに、普通のアニメ等ではそうそう考えられない構成である。
ゲッシーですら理解の追いつかない決定。未知の領域に踏み込む、
というよりも、未知がルミナキャストの領域に勝手に踏み込んできたような感覚だ。
「…あれ?三鳥さんは?」
異常事態に困惑を繰り返す最中。気がついたら、
ヨシノの傍らにいたはずの賢界がいない。この異常な状況。
恐れをなして、逃げてしまっても無理はない。そして、
先程までいたもう一人のルミナタキオン。彼女もまた、
抉り取られた地面とともに、その姿を消していた。




